ナイト・オブ・ヘクセンナハト #1

公式note https://diehardtales.com/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーPLUSより、スピンオフエピソード 【ナイト・オブ・ヘクセンナハト】

2023-07-14 21:33:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオサイタマ郊外、ヘクセンナハト村で緊急事態が発生した。"敬虔なる"デトレフの家で飼われていた可愛らしいヤギの乳が、何の前触れもなく酸っぱくなってしまったのだ。 1

2023-07-14 21:36:32
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「村長(ブルーガーマイスター)!起きてください、村長!!」「緊急事態です!村長!!」ウシミツ・アワー近く、村長の館の前には、松明を掲げた村人たちが大勢集っていた。やがて村長が眠た目をこすって現れ、すぐに、このただならぬアトモスフィアを感じ取った。 2

2023-07-14 21:39:45
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村人らは誰もが一様に困惑し、その顔には、迷信深い恐怖の色をにじませている。対応を間違えると大規模なパニックを起こしかねない。村長はZBR錠剤を奥歯で噛み砕き、頭をシャッキリとさせてから言った。「……これがそのヤギかね、デトレフ?」 3

2023-07-14 21:42:58
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「ヤー(はい)」デトレフと呼ばれた岩のような大男は、肩をすぼめて縮こまり、その両腕に抱えた小さなヤギを村長に見せた。「メー」何十もの松明に照らされ、ヤギは不安そうに鳴いた。村長は片眼鏡をかけ、そのヤギの舌や額やヒヅメなどを詳しく調べた。 4

2023-07-14 21:46:18
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「見た所……元気そうだ。このヤギに疫病の徴はなく、魔女の烙印も見えない……」「ヤー(はい)」「だが乳が酸味を帯びるとは、此れ如何に……。このような事態はこの二十年、一度たりとて起こったことはない……。これは……」村長はとめどなく流れる脂汗をぬぐい、顎をなでた。 5

2023-07-14 21:50:39
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村人たちの恐怖は次第に苛立ちへ、そして怒りへと変わり始めていた。極めて危険な状態だ。インターネットさえあればIRCで外世界に相談もできよう。だがここはWi-Fiひとつ存在しないテクノピューリタンたちの孤立分断領域なのである。……そんな中、村人の一人が叫んだ。「ニンジャの仕業だ!」と。 6

2023-07-14 21:56:26
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「ありえん!この村にニンジャがいるはずがない!」村長はすぐさま否定する。だが「……でもニンジャだったら、俺たちの中にこっそり潜んでいたってわかりませんぜ!」「ある日突然、ニンジャになっちまうらしいじゃないですか!」「ちくしょうめ!ニンジャの野郎、おれのヤギを呪いやがった!」 7

2023-07-14 22:00:16
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「待て、皆の者!ドイツ村らしい理性を保たんか!追放されたいのか!!」村長が声を張り上げた。場はシシオドシを打ったかのように静まり返る。まさにその直後であった。群衆の後方から、聞き慣れぬ声があがったのは。「……話は全て聞かせてもらったぞ!」 8

2023-07-14 22:03:42
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人々が振り返ると、街道沿いの見事な松の木の下には、馬に乗った初老の男がいた。しかもその男は、鎖と拘束具をつけたニンジャ装束の男女二人を、奴隷の如く従えていたのである。「あ、貴方は一体……!?」村長はひどく狼狽しながら問うた。 9

2023-07-14 22:08:50
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「わしの名はウィッチファインダー!ニンジャの事ならわしに任せておけ!」「ニ……ニンジャを、見つけ出せるのですか!?」「左様!わしはニンジャソウル憑依者の完璧な見分け方を知っている!何種類もな!だがそのためには!」ウィッチファインダーは指をパチンパチンと鳴らした。「前金だ!!」 10

2023-07-14 22:11:04
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「ル、ル、ル」伝統装束を着てオーガニック花摘みにやってきたフェリシアは、オーカーがかった灰色の木漏れ日の下、軽やかなステップを踏んで歌っていた。「なんて可愛らしい日、今日はなんて可愛らしい日なんでしょう。きっといいことがある!」 11

2023-07-14 22:16:20
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フェリシアは十七歳の可憐な娘だが、月破砕以降の移民系であったため、村での立場はあまりよくない。心から気を許せる仲の良い友達もいない。それで彼女は、こうして独りで花摘みに出るのが大好きだった。「ほら見つけた、可愛らしいチューリップ。……痛い!」 12

2023-07-14 22:19:25
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いつものように花を摘もうとして、暗い茂みに手を伸ばしたフェリシアは、指先にチクリとした痛みを感じた。恐怖をおぼえ、立ち上がった。蛇か何かに噛まれたのかと思ったのだ。それから彼女は恐る恐る、自分の人差し指の先に咲いた、小さくて丸いルビーのような、ひとつの血の花を見た。 13

2023-07-14 22:23:10
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蛇や虫ではない。何か鋭いものに触れてしまったのだろう。彼女はすぐに編み籠の中から消毒キットを出して手を洗い、白いヨロシバンドを貼って応急手当てした。それから屈み込むと、今度は注意深く、チューリップの茂みに再び手を伸ばした。植物の棘に触れてしまっただけかもしれないと考えながら。 14

2023-07-14 22:25:20
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「でも、こんなところにバラが咲くかしら?エッ……」フェリシアは思わず息を飲んだ。朝露に濡れた草の間に、黒い鋭角の刃が見えたからだ。脅威を帯びて、ギザギザとした、星型の。彼女はその周囲の下生えを、そっと手でどかした。茂みの中に落ちていたのは……一枚の鋼鉄のスリケンであった。 15

2023-07-14 22:29:30
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「アイエエエエ……こ、これは……スリケ……!」フェリシアが思わず、恐怖の叫びをあげそうになった、その時。「シーッ!お嬢さん、どうか大声を出さないで」奥の木陰からニンジャが現れた。その横には可愛らしい小鹿の親子を連れていた。ニンジャは胸の前で両手を合わせ、礼儀正しくオジギした。 16

2023-07-14 22:32:31
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「エッ」「驚かせてスミマセン。私の名はカーム。この森に住むニンジャです。私のスリケンのせいで、あなたに傷を負わせてしまった。謝罪いたします」ニンジャの声は思慮深く、穏やかで、黒い覆面とメンポの奥にのぞく両目は、神秘的なエメラルド色に輝いていた。 17

2023-07-14 22:36:20
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フェリシアは花摘みの編み籠を取り落とし、思った。おそらく、これは、恋なのだと。「ドーモ、フェリシアです。はじめまして。ごきげんよう」なぜかは知らぬが、彼女の両目には涙があふれていた。 18

2023-07-14 22:39:42
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人々は村の広場に集められていた。伝統的な懲罰用の磔台は未だ空っぽであったが、間もなくそこにニンジャが磔にされるであろうことは、容易に想像できた。人々は無言のうちにそれを期待しているのだ。掲げられる無数の松明の火は、血のように赤く、人々の顔を照らしていた。 19

2023-07-14 22:45:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よいか!わしはニンジャ狩りのプロフェッショナルだ!」少なからぬ前金を受け取ったウィッチファインダーは、サイバー馬で広場前を闊歩し、その鞍の上から力強く、苛烈にまくし立てていた。「ニンジャとは、正式にはニンジャソウル憑依者という!太古のニンジャの悪霊が憑依した状態なのだ!」 20

2023-07-14 22:49:22