ニンジャスレイヤーAoM シーズン5第3話【ジ・インターナショナル・ハンザイ・コンスピラシー】予告編

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆シーズン５第３話予告◆

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「月の石を盗んだ男」 「何人たりとも捕らえる事かなわず」 「奴は暗がりに隠れ潜む」

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

――「ブギーマンに気をつけろ」

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

足下、水平線、頭上。ありえぬ重なり方をした階段が連なる光景は、ペンローズの階段じみた非現実的構造であった。然り、彼が足を踏み入れたこの場所は実際、物理現実世界ではない。地球上、あるいは軌道上の何処かに存在する複数のUNIXサーバーをまたいで構築された電子コトダマ空間だ。1

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この空間における重力の感覚を注意深く定義しながら、ペイルシーガルは着実に階段を上昇する。いや、下降か。やがて彼は、複層的な階段群に包囲されたホールを視界に入れた。石畳、ロウソクで照らされた長テーブル。ブッダデーモンの生首が、この秘密会議の出席者達を見下ろしている。 2

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

出席者達の顔は、一様に、不自然なアブストラクト・ノイズ暗闇によって隠されている。だが、その者らの手元、中指に、一様に装着された、蜘蛛の意匠の指輪を判別する事ができた。いわば指輪はこの空間における認証バッジを示す。彼らの囁き声は暗号化されており、ペイルシーガルには聞き取れない。 3

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この場所は奇妙なプロトコルで支配されている。外見情報を偽ることは許可されていない。ペイルシーガルもまた、物理世界における彼自身の姿……象牙色のスーツ、黒い長髪、無精髭、黒い眼帯の姿をとっている。だが蜘蛛の指輪をつけた参加者達は、顔の匿名化処理が許されている。回りくどいものだ。 4

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

上昇するほどに、階段は伸びてゆき、会議ホールは近づく。すると、参加者達の興味の視線がペイルシーガルに向いた。ペイルシーガルのこめかみを電子汗が流れる。探られるコンマ１秒前、彼の顔に「ゲスト」の匿名ノレンが付与された。正規の手続きをもって招かれたのだ。彼はまずは胸を撫で下ろす。　5

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『電子阿片取引セクションの収支報告……』『オムロ・レターパック詐欺の収益は第２クォーターと比較し２２０％……』『闇オイラン・セクションより報告。収集したセンシティブ情報に関して、確認事項が……』ノイズの霧を通して、「彼ら」の言葉が届き始めた。無数の肖像、データグラフが乱れ飛ぶ。6

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パチン、と乾いた音が鳴り、彼らの囁きを鎮めた。ホールの桟敷席めいた高所、椅子の上で長い脚を組み替えたのは、紫のスーツに身を固め、紫のニンジャ頭巾を被った謎めいた存在だった。頭巾には右目だけに覗き穴が開けられており、見せつけるように片眼鏡が装着されている。「諸君。よろしいか」　7

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

片眼鏡がまず見たのは、ホールからやや離れた地点に立つペイルシーガルだった。ペイルシーガルの全ニューロンが、搾り上げられるような感覚を訴えた。推定知能指数4000超とされるその瞳は、異常なまでの知性に輝いている。ゲスト権を付与した男……プロフェッサー・ハンザイ、その人である。 8

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「本日のカンファレンスにおいて、残念かつ有意義な知らせがある」プロフェッサー・ハンザイはおもむろに告げた。参加者達がざわめいた。「残念というのは、我が組織にこのあと、一名の欠員が発生する事だ。有意義というのは、それにより組織が、より柔軟かつ強固に鍛え直されるという事だ」 9

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

会議はオツヤめいて静まり返った。プロフェッサーの言葉の意図を理解しなかった者はいない。そのうえで……プロフェッサーは、敢えて、待った。６電子秒後。「誤解だ！」会議参加者の一人が狼狽しながらシャウトし、立ち上がった。「他の誰かが脚を引っ張った！私は無実だ！ハメられたのだ！」10

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「結構だ」プロフェッサーは片眼鏡に触れ、頷いた。「貴殿の勇気ある自白的行動により、制裁は一段階減じられた。貴殿の命ひとつで、テウチとする」「ヤメローッ！」狼狽する参加者は椅子を蹴り、後ずさった。顔を覆う匿名霧が見る間に掻き消され、「ヤジマ・シュナイダー」の名とIPがあらわに！　11

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤジマ・シュナイダー？ペイルシーガルは眉根を寄せる。ネオサイタマに駐在するオムラ高官の名だ。そのような社会的地位の者の中にも、蜘蛛の指輪をつける者が居るとは。「嘘だ！し、知った事か！私はシツレイする！」ヤジマは踵を返し、走り去る。その姿が01消滅した。ログオフ。逃げおおせたか。12

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

プロフェッサーの肩が微かに揺れた。笑ったようだった。その瞬間ペイルシーガルは、桟敷席の彼の背後に控えていた存在に気づく。力溢れる影が身じろぎし、消えた。……数秒後。モニタ窓が中空に生じた。ナムアミダブツ。中継映像が示すのは、首を引き抜かれて地に伏す、ヤジマの死体だった。13

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

生首を無雑作に掴んだまま、処刑人が監視カメラ中継の画角から歩き去った。ペイルシーガルは呻いた。あれが処刑人デス・ライユー。噂に違わぬ、恐怖のニンジャの手腕であった。参加者の間に緊張が走る。プロフェッサーが指を鳴らすと、ペイルシーガルは唐突に会議テーブルの前に立っていた。 14

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お歴々。彼の名はペイルシーガル＝サンだ」プロフェッサーは告げた。「我らの同胞たらんとする、勇気と野心溢れる存在……クエスト達成を期待している……」　15

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ジ・インターナショナル・ハンザイ・コンスピラシー】予告編

拡大

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「安い！安い！実際安い！」「大きい、オッキク！」「アカチャンズ！」「オッキクネ……！」広告音声が重金属酸性雨に滲むなか、スーツ姿の男女が蕎麦屋台のノレンをかき分けた。「２・２、４。テンプラ乗せで」「２つで充分ですよ！」店主は拒むが、答えは同じだ。「４だ」「任してくださいよ！」16

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

折り目正しいダークスーツと美しいタイ・ピンの二人は、薄汚い屋台街ではかなり特殊ななりだった。黒髪を中央で分けた髭面の男と、冷たい眼差しの金髪の女。二人の前に、二つずつ、テンプラのトッピングされたソバ・ドンブリが置かれた。二人は同時に割り箸を割り、ソバに取り掛かった。　17

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビル・モーヤマはソバに慣れておらず、大量にたぐったものを扱いかねている。それを横目で見るザルニーツァは何か言いたげだった。ビルはしかし、まずはソバを食べる事に集中してから、おもむろに言った。「つい先程、ブラック・マキモノの暗号ハイクが解析された」18

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザルニーツァの瞼がぴくりと動いた。ビルは続けた。「ブギーマンは無作為の対象を選び、贄としてブラック・マキモノを生み出す。暗号ハイクは次の犯行のヒントだ」「いまだに腑に落ちません。何故わざわざそのような真似を？愉快犯という事でしょうか」「君にはまだ詳細を伝えられていないからな」 19

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ペンタゴンに封印されていた、それ自体アルカナム最重要機密とされる超常存在……洋上を徒歩にて移動し、ネオサイタマに上陸したと……」ザルニーツァは言った。「雲を掴むような話です。これでは何も知らされていないのと同じ」「とはいえ、実際そうなのだよ」ビルは動じない。「それが相手だ」20

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヒートリ、コマキタネー。重金属酸性雨の雨音に、哀愁あふれる歌が混じる。アルカナムのエージェント二人の会話は、店主あるいは屋台街を行き交う市民にとって理解不能な支離滅裂音声に過ぎない。「犯行予告のハイクがインガを収束させ、可能性を固定する。ブギーマンにはそのプロセスが必要だ」　21