30歳で労働組合(高教組)の責任者になった教員が体験した2年間の回顧録が「労働組合の存在意義」を分かりやすく伝えていて興味深い

教職員組合と聞くと思想強めなイメージがよぎってしまうけど、これは為になる話でした
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佐伯 佳祐 @noeasywalk

11月の確定交渉で賃金や休暇制度の改善が決まる。確定交渉は深夜まで当局と攻防し、日付を跨いだ頃、決着する。「妥結」という言葉は、両者の主張の折り合いを意味する。こちらの主張が全面的に通ることはないが、労使で話し合いひとつの結論に至る瞬間には、独特の高揚感がある。

2024-05-02 23:32:05
佐伯 佳祐 @noeasywalk

「中尾彬」さんや「和田アキ子」さんらは、私にとってはスターのような存在であったが、私のようなものにも優しく声をかけてくれた。「高校は若い人が書記長をやってくれてええねぇ、頑張りんさいよ」と。頼れる先輩たちである。

2024-05-02 23:32:34

③教員たちの「権利」はどう守られているか

佐伯 佳祐 @noeasywalk

さて、任期の1年目の序盤にある事象が発生した。定年退職してから65歳までの無年金期間の働き方は自治体によって様々な仕組みがある。詳細は書かないが本市のその立場にあったある教員は、制度上認められているはずの業務を行ったにも関わらず、それが認められず給与が不払いになりそうだというのだ。

2024-05-02 23:33:02
佐伯 佳祐 @noeasywalk

この連絡が私にきて、教育委員会と交渉することになった。市労連交渉のように中尾彬や和田アキ子に頼ることはできず、私がやらなければならない。しかも、特定の人たちの給与と生活に直接関わる。それも、定年退職して声をあげにくくなった方々の問題である。これは責任重大である。

2024-05-02 23:33:38
佐伯 佳祐 @noeasywalk

私は過去の交渉資料を読み漁って複雑な制度の中身を自分なりに精一杯理解し、その上で、やはり不払いは不当であることを確認した。そして、教育委員会に行って交渉を行なうことになった。責任重大であり不安も大きく、私はかなり身構えて臨んだのだが、結果は意外なものであった。

2024-05-02 23:34:37
佐伯 佳祐 @noeasywalk

教育委員会の担当の方が、これは本当に間違いなく、「いい人」なのである。こちらの主張を真摯に傾聴し、古い資料を見て制度を確認し、現場で起こった間違いを認めてくれた。要は、制度が複雑すぎて担当者や学校の管理職が変わると引き継ぎがうまくいかずに勘違いが生じていたのだ。

2024-05-02 23:35:09
佐伯 佳祐 @noeasywalk

結果、不払いは回避され、正しく給与が支給された。この経験は私とって大きな衝撃だった。教育委員会の人も、おそらく現場の管理職の先生も、「いい人」なのである。それなのに、である。悪意はなくとも、給与が不払いになりかける。権利は、いとも簡単に損なわれるということだ。

2024-05-02 23:35:37
佐伯 佳祐 @noeasywalk

私は、こんなことも知らずにオーウェンやマルクスを教えてきたのかと思った。これほどに制度が安定した現代に、悪意のない善人で構成されたそれも公務員の組織でさえ、確認不足でこのようなことが起こる。いわんや産業革命以降の資本主義の労使関係の歴史をや、である。

2024-05-02 23:36:03
佐伯 佳祐 @noeasywalk

権利は勝ち取って成り立ち、その後も注視し守り抜いて存続するものだと、本当の意味で初めて知った気がした。その後、この件については校長会で周知徹底をしてもらい、組合としては60歳を越えたすべての教員に制度を解説するレターを作成し、配付することとした。

2024-05-02 23:36:38

④組合員を増やすために

佐伯 佳祐 @noeasywalk

次の話。組織率の高い組合とはいえ、それでもここ20年、ジワジワとその率を下げている。書記長の元には、「退会届」が送られてくることがある。届を見るのは、悲しい瞬間だ。ある退会届に書かれていた「退会理由」が、忘れられない。

2024-05-02 23:37:08
佐伯 佳祐 @noeasywalk

組合費が月々○○円、年間に○万円、生涯で○万円になると。このお金は、家族のために使いたいという結論になりました、との理由であった。この理由を読んで、私にはふたつの感情が湧き上がった。

2024-05-02 23:37:33
佐伯 佳祐 @noeasywalk

ひとつには、その「家族を守るため」の労働と賃金を守るために我々はやってるんじゃないか、ということ。この人が辞めても私はやり続けなければならない、と思う。誰かが中尾彬や和田アキ子をやらなければ、たちどころに仕事は難しいものになる。対価は増えない。権利は簡単に損なわれるのだ。

2024-05-02 23:38:09
佐伯 佳祐 @noeasywalk

しかしもうひとつはこうである。たしかに組合費は少ないに越したことはない、ということ。実際、元々うちは上部団体への上納金がないことにより、相場に比すると組合費は安い(月額2〜3000円)。しかし、間違いなく、より安いに越したことはないのだ。

2024-05-02 23:38:36
佐伯 佳祐 @noeasywalk

かつて多くの教職員組合は月に1万円を超える組合費をとったと聞く。また伝統的に組合が強い旧国営某インフラ企業の知人は、1年目から7000円の組合費があり負担を感じたという話も聞いていた。そこで、せっかくの書記長の立場を活かし、改革を行うことにした。

2024-05-02 23:39:06
佐伯 佳祐 @noeasywalk

長期的方針として、行事の精選と会議のオンライン化等により、組合費を減額し月額1000円を目指すというものである。行事には長い歴史の中で意味があり残ってきたものもある。性急すぎる改革は古株組合員の反発を招くので、これは長期的方針として、次の具体的な改革案を打ち出した。

2024-05-02 23:39:44
佐伯 佳祐 @noeasywalk

参加者が最も少ない行事(研修会)を企画枠化(毎年はしない)し、その経費をまず削って組合費を全員一律200円減額する。この200円は、少額であるがそれぞれの組合費の6〜10%程度にあたる。まずこれを行い、漸次的に議論しながら削減できるところを探し、将来的に月額1000円を目指すというものだ。

2024-05-02 23:40:14
佐伯 佳祐 @noeasywalk

次に、この方針を組合の内外に周知するチラシを作った。この可愛いピンクのチラシである。可愛いでしょう?笑 これを管理職を含む市立学校の全教職員に配布する。隠れてコソコソする必要はない。みんなの問題に取り組んでいるのだ。みんなに周知する。 pic.twitter.com/rEDKnQVSwH

2024-05-02 23:42:14
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佐伯 佳祐 @noeasywalk

ちなみに今年版のチラシはこれ。ぜひ、実現した内容を見てほしい。組合に入ってなくてもその恩恵は受けられる。それはいい。しかし、組合がなければ実現していないことを知ってほしい。そして、できれば連帯してほしい。 pic.twitter.com/gRC6Ivmmnf

2024-05-02 23:44:35
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⑤教職員組合の「分断」という問題

佐伯 佳祐 @noeasywalk

この2年、話し出せばキリがないほど様々なことがあったが、もうひとつだけ話をする。プールの話である。ある政令市の小学校で、プールの水が出しっぱなしになってしまった。その責任が教員にあるとして、イチ教員が教育委員会から数十万円の賠償を求められたのだ。

2024-05-02 23:45:02
佐伯 佳祐 @noeasywalk

このニュースはわりと大きく報じられ、教員には同情の声が集まった。しかし、いくら同情しようとも、それをYahooニュースのコメント欄に書き込もうとも、実際に賠償が免除になることはない。教育委員会も本気でやっているのだ。

2024-05-02 23:45:29
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