『死刑絶対肯定論』評

田鎖麻衣子氏による、『死刑絶対肯定論―無期懲役囚の主張』(美達大和著 新潮新書2010)の簡潔な書評。
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田鎖麻衣子 @maikotagusari

昨年末近く、どなたかが「死刑絶対肯定論」(美達大和著)に関しリツイートされているのを見て以来、ずっとコメントしなければと思っていた。私は彼の前著「人を殺すとはどういうことか」について第二東京弁護士会の「フロンティア」という雑誌に書評を書いてくれと頼まれ、同書を批判したことがある。

2012-01-02 22:03:19
田鎖麻衣子 @maikotagusari

しかし、前著が良くなかった(致命的なのは情報の誤りや不正確さ)からといって今度も悪いとは限らない。読まずに批判するのはよくないので、一銭も出したくなかったが仕方なく取り寄せた。が、最初の数頁を読んだだけで自分の時間を割くのは勿体ないと感じ、移動時間だけを読むのに充てることにした。

2012-01-02 22:06:39
田鎖麻衣子 @maikotagusari

そして北海道~東京の往復でついに本書を読む時間を得た。「はじめに」の部分だけで誤りを2つ発見。本書の罪深さの第一は、他の本は受刑者の実情について不正確な情報をばらまいおり、本書だけが事実を伝えているという立場に立ちながら、自ら誤りや不正確を(その自覚なしに)流布している点だろう。

2012-01-02 22:14:16
田鎖麻衣子 @maikotagusari

もう一点は、浜井浩一教授がよく指摘される点(検察官や裁判官は「成功例」を知らない。つまり立ち直った元被告人は二度と彼らの前に現れない)とも共通するが、著者が知っているのはLB刑務所に現に生活し、そこへ舞い戻ってくる受刑者だけである。彼は社会復帰の成功例に接する立場にないのである。

2012-01-02 22:19:24
田鎖麻衣子 @maikotagusari

また前著の批判でも指摘したが、無期刑受刑者の場合、B指標(犯罪傾向が進んでいる)よりA指標(進んでいない)の方が多いのである。彼は(若干だが)多数派であるA指標の無期刑受刑者については全く知らない。しかし本書では彼の知る反省の全くない受刑者が無期刑受刑者の標準かのように描かれる。

2012-01-02 22:24:50
田鎖麻衣子 @maikotagusari

さらに問題なのは、そうした人々が次々仮釈放されていくかのような錯覚を読者に与えていることだ。しかし著者自身、自分の服役約20年の間に、自身の施設から新規仮釈放で出て行った無期刑受刑者は一人だけだった事実を認めている。彼が問題視している釈放はその1例以外皆有期刑受刑者のそれなのだ。

2012-01-02 22:29:02
田鎖麻衣子 @maikotagusari

あんまり長くなるのでこの辺でやめるが、この本をこれから読む方は、本書の情報には多くの問題があることに心して頂き、その内容をすべて鵜呑みにすることだけは避けていただきたい。

2012-01-02 22:32:20