エリザ氏の解説するイギリス版風船爆弾作戦

どこへ行くか分からない(敵も防ぎづらい)ので、第3国への迷惑を考えなければ、コスパの良い戦術だったらしい
7
エリザ @elizabeth_munh

いんたーねっとRAFちゃんねる

エリザ @elizabeth_munh

連日の空爆が街を襲い、味方の懸命の迎撃も虚しく爆弾が街を焼く、そんな中、軍は起死回生の作戦を立てた。 「無人の気球に爆弾を載せて敵国に流そう」 かくして奇妙奇天烈な作戦が考案され、気球の群れは東に飛ぶ。 イギリス版風船爆弾作戦が始まった。 pic.twitter.com/mUiAeYDF6K

2024-05-19 16:22:02
拡大
エリザ @elizabeth_munh

18世紀に登場して以来、気球は軍事利用されてきたものの、その方法は時代によって異なる。はじめは偵察や敵軍の監視に、やがて大砲の射程距離が伸びると水平線の彼方の弾着の観測に、そして20世紀に入ってからは遂に飛行船と名を変えて自ら爆撃までやり始める。 pic.twitter.com/CZTv1CQiUO

2024-05-19 16:22:04
拡大
エリザ @elizabeth_munh

しかし鈍重で突風に弱く、巨大で維持管理が難しい飛行船は空の主役を飛行機に譲り渡す。 それでも戦場から完全に消えたわけではなく、依然として観測のため、また新たな役割として、爆撃機に対する空の障害物として使われる。これが阻塞気球で、爆撃機の進路を妨害し、対空砲へ敵を追いやった。 pic.twitter.com/Y5UBm5Upiv

2024-05-19 16:22:06
拡大
エリザ @elizabeth_munh

1940年、バトル・オブ・ブリテンたけなわの頃、爆撃機避けのためにワイヤーロープで係留されるこれら阻塞気球のうち幾つかが突風で係留を引きちぎり、中立国スウェーデンまで流れて送電線にワイヤーロープが絡まり、停電を引き起こす事故が起きる。 途端に英国首相チャーチルは閃いた。

2024-05-19 16:22:06
エリザ @elizabeth_munh

「スウェーデンには悪い事をしたが、これは使える。ドイツに向かって意図的に同じ事をやろう」 防戦一方のイギリスはこの頃、非公式の秘密・特殊作戦、非正規戦、ゲリラ活動などを実行する特殊作戦執行部を設け、彼らは『非紳士的戦争局』と俗称された。 ダーティな作戦ならお手のもの。

2024-05-19 16:22:07
エリザ @elizabeth_munh

かくして気球にワイヤーロープを垂らして意図的に送電線にぶつけたり、小型の爆弾や発火装置を載せて火災を引き起こす計画が持ち上がる。作戦は『アウトワード(国外へ)』と称される。 空軍はあまりいい顔をしなかった。 「どこに飛んでいくか分からないものの戦果を定量化できるのか?」

2024-05-19 16:22:07
エリザ @elizabeth_munh

戦果の観測も困難で、中立国にだって流れかねない玩具にコストを費やすなら、マトモな空軍機に回してくれ、と言うのが空軍の立場だった。一方、海軍は肯定的に捉える。 「無人の気球と言うのがいい。我が軍の兵士を無駄な危険に晒すこともない。コストに関しては工夫すればいいだけの話だ」

2024-05-19 16:22:08
エリザ @elizabeth_munh

こうしてアウトワード作戦は海軍の支持のもと実行される。同種の兵器でドイツが反撃してくる可能性も考えられたものの、イギリスの送電線はドイツのものより停電に対するバックアップ機能が強力であり、まして数多の占領地を抱えるドイツとのダメージレースなら有利と考えられた。

2024-05-19 16:22:09
エリザ @elizabeth_munh

海軍はこの作戦にWRNS、海軍婦人補助部隊を用い、女性軍人達は1日あたり1000個の気球を打ち上げた。短い距離を飛ぶだけの無人の気球は同種の作戦をやった日本のそれより遥かに簡単なもので、一個当たりのコストは僅か35シリング、あるいは0.5ドルと言われる。 その結果は恐るべきものだった。 x.com/elizabeth_munh…

2024-05-19 16:22:09
エリザ @elizabeth_munh

Women's Royal Naval Serviceは第一次大戦と第二次大戦時に結成された海軍の補助組織で、陸空軍の同種の組織と同じように、女性を戦争に動員した。 略称のWRNSから彼女達はWrens(レンズ)、ミソサザイと呼ばれる。 10代から20代の若いミソサザイ達は、英海軍で最も対潜水艦戦に通じていた。 pic.twitter.com/wLIIZaJaPL

2023-04-16 18:04:24
エリザ @elizabeth_munh

ドイツは大混乱に陥った。どこに飛んでいくかやってる側も分からない無数の気球が気まぐれに送電線に絡まり、爆弾を撒き散らす。その都度復旧したり、消火すればいいものの、何せ広範囲に被害が広がっていて対処できない。フランスだけで5000回も停電が起こり、その分だけ生産に支障が出た。

2024-05-19 16:22:10
エリザ @elizabeth_munh

たまらず撃墜に戦闘機を飛ばすも、何とも不毛な出撃だった。本来ならもっと価値のある敵目標を攻撃するために使うべき戦闘機を0.5ドルの安物の捜索に充てねばならない。その時点でイギリスの思う壺だった。だからと言って放置もできない。 「畜生イギリスめ! 嫌がらせだけは上手い連中だ!」

2024-05-19 16:22:10
エリザ @elizabeth_munh

戦果を定量化する事はできないものの、ドイツに対処を強要させたことを知ったイギリスは大喜びで気球を打ち上げ続ける。 「効いてる効いてる。ドイツめ、これが戦争だ。こちらが費やしたコスト以上を支払わせ続ければ、それは成功した作戦なんだよ!」

2024-05-19 16:22:11
エリザ @elizabeth_munh

最終的に99000個の気球がドイツに放たれ、その内結構な数が中立国に流れて被害をもたらした。イギリスは特に気にしなかった。 作戦は反攻作戦が始まり、友軍にとって邪魔になると判断されるまで続けられる。ドイツは520回、送電線関係の重大なトラブルに振り回され、機能停止した発電所すらあった。

2024-05-19 16:22:11
エリザ @elizabeth_munh

真正面から戦うのではなく、インフラなどを破壊して敵の継戦能力に打撃を与える作戦をサボタージュと言う。 奇妙な風船爆弾による作戦は、一個0.5ドルとWRNSに支払われる給料と、それに対するドイツの対処コストを差し引くと、非常にコスパのいい取引として歴史に小さく名を残している。 pic.twitter.com/AuN6c4v2Ko

2024-05-19 16:22:13
拡大
国語、社会 @kokugo_shakai

@elizabeth_munh ウクライナから、 ロシアにどうですか?

2024-05-19 18:12:04