おはなしのもと・5

ネタ帳5
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酔宵堂 @Swishwood

その逡巡を嘲笑うかのように、戦慄が走る。「駅だ!」もう、振り返る余裕など無い。「人がまだ……!」駆け抜けながら、魔法を纏う。「杏子とゆま、ほむらが向かっている。マミは少し遅れる」時間稼ぎと、人払い。「!」漂う楽譜を四方に伸ばす。「みんな、逃げて……!」運命の夜が、開く。

2011-12-25 19:14:25
酔宵堂 @Swishwood

「……云ってられない!」その身を包んで揺れる、楽譜の円陣が拡がってゆく。さざ波のように、駅一帯に。ある者は思わず来た電車に乗ってしまい、またあるものは用事を思い出したか足を翻す。まるで楽譜に押し出されるように、立ち去ってゆく——人払いの、結界だった。「早く……みんな、逃げて!」

2012-03-24 02:04:06
酔宵堂 @Swishwood

その日、駅で奇妙な音を聞いたとか、ホームに出ようとしたら気分が悪くなったり「逃げろ」と云う声を聞いただのの、いわゆる「異音騒ぎ」があったと、翌朝の新聞に小さく記されている。それがその夜あったことのうち、無辜の人々の知り得た全てだった。

2011-12-25 19:23:14
酔宵堂 @Swishwood

全て、じゃないな。異音騒ぎと、あと停電だ。人によってはそんな構内に光を見たりもしてるだろうな。どっちかと云うと懐かしの"見怖"に分類されるようなエピソードかも知れない。

2011-12-25 20:55:29
酔宵堂 @Swishwood

#見滝原であった怖い話 っぽいな。"ある日新聞の片隅に、こんな記事が載った。「見滝原駅で停電 異音や幻覚騒ぎも 帰宅の足に影響」と。地方面の、ともすれば見落としそうな記事である。昨夜、人生のそれなりの大一番を迎えた少年は、まだ眠りの中にいた——"

2011-12-25 21:16:21
酔宵堂 @Swishwood

「まっすぐだな、キミは!」黒い袖が、蒼い火花を散らすキューブをつまむ。「全く! 懲りないね! キミ達の無限も有限もどうだっていいってのに!」ぼんやり浮かびかけた光を、鉄の爪が薙ぎ散らす。孵りかけの虚人は、たちまち立方体に追いやられた。「さて、これで最後かな……サヨナラだ、後輩」

2012-03-24 02:12:44
酔宵堂 @Swishwood

燃え盛る残骸と、清浄の蒼と刹那の桜色が薄れて、辺りは静寂を取り戻す。知らない名前を呟きながら、一人陶然と手の中のリボンを見つめるあいつは、ついさっきまでとは何かが明らかに違って見える。そう、誰よりも悼むべきあいつが口にした名前は、あろうことか「さやか」じゃなかったんだ——。

2011-12-06 22:51:32
酔宵堂 @Swishwood

りぃ……ん、と、人払いの結界が解ける音がして、喧噪がホームに戻ってくる。夜と云ってもまだ早い、違和感さえ消えれば人だってすぐ戻ってくる。その時ちか、と、何かが視界で瞬いた。ベンチの下辺りだ。あたしは近寄り、それを拾い上げる。「——! さやかの……指環じゃねえか!」鈍い、銀色。

2011-12-06 23:37:54
酔宵堂 @Swishwood

遅かった。止めることが出来たか、止めるべきだったかは今となってはわからないけれど、美樹さんが”円環の理”に導かれて逝ってしまった、それだけは事実だった。なのに、暁美さんは全く知らない名前を口にした。愛おしむように、懐かしむように——まるで、全く違う人のようにすら見えたのだ。

2011-12-06 22:59:33
酔宵堂 @Swishwood

わたしがいそいでえきのホームにかけあがったときにはもう、サヤカはいなくなっちゃってたの。ほむらおねえちゃんはなにかブツブツいってて、マミは「えんかんのことわり」っていってて、キョーコはというと、なんかなきそうだったからてをにぎったの。サヤカの「いつか」は、いまだったんだね、って。

2011-12-06 23:16:05
酔宵堂 @Swishwood

記憶の混濁。疎外感。鉄面皮を気取れる程の神経を、わたしが持ち合わせて居るはずもない。顔を合わせることすら億劫になる。逃げるようにクラスを後にし、閉じこもる。夜遅く、閉店間際のスーパーでささやかな買い物を済ませてパトロールに赴く、そんな日々がしばらく続いた。

2012-01-03 03:02:38
酔宵堂 @Swishwood

だから、あの駅で自らのありようの意味を知る。魂より奥深くに刻み込まれたひとつの名前とともに。けれど、その場で口に出すべき名ではなかった。今までの彼女であるなら、そこで悼むべきは誰も知らぬその名ではない筈だ。

2011-12-17 02:56:27
酔宵堂 @Swishwood

あいつは、おかしくなっちまったのか。問いただしたくはあったけど、それが何にもならないってことはあたしだって分かってる。それでも、納得なんて行くはずがない。少し悔しいけれど、あいつの方がさやかとの付き合いは長いのだし。それが、どうして。なんであいつは……そんな名前を口にしたんだ?

2012-01-03 03:09:42
酔宵堂 @Swishwood

だから、話せばわかる、わからないでもわからないなりに通じ合える、なんてのは——ただの思い上がりに過ぎなかったんだ。結局あたしはあいつを止められないどころか、どうなるかわかってて往かせちまった。もっと他に方法だって、きっとあった筈なのに。

2012-01-12 04:02:36
酔宵堂 @Swishwood

どうやら正式に、行方不明の扱いになったらしかった。わかってたことだけど、やっぱり我慢出来なくて。「なあ。せめて弔って……やれねえのかな」そう、マミに云ってみた。「貴女の力で出来なくもないとは思うけど……」歯切れの悪い、返事。何かが、足りないのだ。

2012-01-03 03:18:29
酔宵堂 @Swishwood

そう、結果的にあいつの背中を押しちまったのはあたしに違いない。駆け抜けて、燃やし尽くして、あいつはあの二人を守った。「後悔なんて、ある訳ない」って呟いたあと、あいつはあたしに云ったんだ、 「一人でやらせて」って。あんまりにも、自信たっぷりに。思わず頷くくらいに。

2012-01-12 04:12:02
酔宵堂 @Swishwood

「指環?」「そう、遺る時があるのね」「さやかの……これ……」「ええ。暁美さんが」これなら、触媒として充分だ。あとはあたし次第、シードの予備は問題ない。この力さえ、底上げ出来れば。あいつのために、やってやれる。さあ、どうすればいい……

2012-01-12 04:25:09
酔宵堂 @Swishwood

せめて、人間らしく。どんな偽りでも、ヒトとしての最期を送らせてやろう。世界の闇に人知れず影も形もなくなるあたしたちの、このさだめに精一杯抗って。それが、今のあたしが友達に出来るたった一つのことなんだ。あんたはただ消えていいニンゲンなんかじゃないって、円環の理にだって云ってやるよ。

2012-01-12 04:38:12
酔宵堂 @Swishwood

すべての式次第が滞りなく済んで、あたしの手にはその指環が遺された。うん、あいつのためにあたしがしてやれること、これでもう無いよな。あいつはもう……逝っちまった。なんで、右眼よりもう泣けない左眼が疼くんだろう。落ちた紅い雫が指環に触れて、そいつを砂糖細工みたいに——崩した。

2012-01-12 04:53:42

セパレータ

酔宵堂 @Swishwood

「魔女になる」ことが否定されたのだとしたら。世界がどうやって矯正力を維持するかは兎も角として、土地ごとの魔法少女の”任期”が重複する可能性は充分にある筈だ。ともすれば対立しがちであった構造から、緩やかな連帯、もしくは師弟関係を多く含む形へ。その結果として救われねばならないのは。

2012-01-08 16:45:48
酔宵堂 @Swishwood

むろん、巴マミその人であろう。まだ幼く力の扱いにも慣れないであろう彼女を、教え導く誰かが居てもいい。かつての世界でなら絶望に呑まれ魔女と化していた誰か、あるいは彼女が最初に討ち果たした魔女であった誰かか。そう云った誰かが、今度こそ彼女を育てたのだとすれば。

2012-01-08 17:16:43
酔宵堂 @Swishwood

ああ、そうか。改変後インキュベーターはやはり幾つもの星で実験を行った。そしてその度に、魔力の発生を確認するたびに”それ”が発生することを知っていた。つまり魔獣を倒すために魔法少女が存在するのではなく、魔法少女が存在するが故に魔獣は現れる——この事実だけは、隠匿されねばならない。

2012-01-09 00:19:38
酔宵堂 @Swishwood

彼らが母星を失ったとすれば、その原因であったかもしれない。元々ああ云う姿であったのか、それとも本来の形があって今は現地の環境に適合した擬態を採っているのか定かではないが、母星にあった時点でも実験は行っただろうし、そのとき彼らの言を真に受けるなら母星においては抗し切れなかったか?

2012-01-09 00:29:00
酔宵堂 @Swishwood

感情からエネルギーを抽出する技術≒魂の物質化、なのか。いずれにせよそれを技術として確立した時に、たぶん自動的に悲劇は起きる。それが齎す世界の歪みに呼応して、後に「魔獣」と呼ばれるそれは発生する。ただの「ヒト」には抗うことも感じることすら不可能なそれが、滅びを携えて世界を覆う。

2012-01-09 00:37:34