山月記異聞　-社会派、久間氏その後-

まようさ @mayousa_desuga

叢の中から女の声で「あぶないところだったの:;(∩>∧<∩);:」と繰返し呟くのが聞えた。その声にスガワラは聞き憶えがあった。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ。「その声は、我が友、久間ではないか？」

まようさ @mayousa_desuga

叢の中からは、暫く返辞が無かった。しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。ややあって、細い声が答えた。「如何にも自分は社会派の久間である」と。スガワラは恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懐かしげに久闊を叙した。

まようさ @mayousa_desuga

そして、何故叢から出て来ないのかと問うた。久間の声が答えて言う。自分は今や萌え化の身となっている。どうして、おめおめと故人の前にあさましい姿をさらせようか。かつ又、自分が姿を現せば、必ず君に獣欲の情を起させるに決っているからだ。

まようさ @mayousa_desuga

何か身体中に力が充ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えて行った。気が付くと、頭頂のあたりに耳を生じているらしい。少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に猫となっていた。自分は初め眼を信じなかった。次に、これは夢に違いないと考えた。

まようさ @mayousa_desuga

自分は直ぐに死を想うた。しかし、その時、眼の前を一つのツイートが駈け過ぎるのを見た途端に、自分の中の男は忽ち姿を消した。再び自分の中の男が目を覚ました時、自分のTLは:;(∩>∧<∩);:に塗れ、リプ欄には変態ハッシュタグが散らばっていた。これが女としての最初の経験であった。

まようさ @mayousa_desuga

それ以来今までにどんな所行をし続けて来たか、それは到底語るに忍びない。

まようさ @mayousa_desuga

今までは、どうして猫などになったかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気が付いて見たら、己はどうして以前、男だったのかと考えていた。これは恐しいことだ。。今少し経てば、己に対する社会派の認識は、猫としての習慣の中にすっかり埋れて消えて了うだろう。

まようさ @mayousa_desuga

己の中の人間の心がすっかり消えて了えば、恐らく、その方が、己はしあわせになれるだろう。だのに、己の中の人間は、その事を、この上なく恐しく感じているのだ。ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思っているだろう！　己が人間だった記憶のなくなることを。この気持は誰にも分らない。

まようさ @mayousa_desuga

偶因萌化成殊類　猫耳相仍不可逃　今日毛玉誰敢敵　当時声跡共相高　我為萌女蓬茅下　君已乗ヨウ気勢豪　此夕渓山対明月　不成長嘯但成萌

まようさ @mayousa_desuga

人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。ネコだったのだ。これが己を損い、フォロワーを転がしめ、友人をいきり立たせ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ。

まようさ @mayousa_desuga

己の太腿の濡れたのは、夜露のためばかりではない。

まようさ @mayousa_desuga

一匹の猫がツイートの流れからTLの上に躍り出たのを彼等は見た。猫は、既に白く光を失った月を仰いで、二度三度ぷるぷるしたかと思うと、又、元の叢に躍り入って、リプ欄の変態ハッシュタグに(,,Ծ‸Ծ,,)を貼る作業に戻った。