ついったミステリ【七人目の男】(実話が元です)

即興で作っちゃいました。とりあえず「濡れ衣」晴らさなきゃなあ…。思考耽溺者(シンキング・ジャンキー)のリアル探偵譚ですね。
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じねん @jinensai

とーとつに始まるついったミステリ【七人目の男】(実話が元です)

2012-01-30 03:28:24
じねん @jinensai

【七人目の男】(01)「…あ、それからですね」係長が申し訳なさそうに言葉を継ぐ。相手は臨時雇いとはいえ年上揃い、自然口調も丁寧になる。「午前中に使ってもらってる「車」なんですけど、座席にシミがついてるそうなんです。出来ればというか、なるべく汚さないようにして頂きたいんですが…」

2012-01-30 03:28:48
じねん @jinensai

【七人目の男】(02)シフトの四人は顔を見合わせ、目線を互いに交錯させる。一拍おいて田中が代表して口を開いた。「いや、俺たち「車」の中で飲み食いしてないですよ?」山田があわてて言葉をかぶせる。「あ、私この前お腹減っててパン食べましたけど…。飲み物は飲んでないですよ」

2012-01-30 03:29:13
じねん @jinensai

【七人目の男】(03)『だよな』という囁きが広がる。残りの二名も飲食してなかったという証言が小波のように重なる。つまり六名全員「車」のシートにシミを残すような行為には心当たりがない。

2012-01-30 03:29:35
じねん @jinensai

【七人目の男】(04)「でも…シミになってるそうなんで、とにかく汚さないよう気をつけて下さいね」係長は多勢に無勢ということもあり、会話を切り上げてそそくさとデスクへ引き上げてゆく。

2012-01-30 03:29:52
じねん @jinensai

【七人目の男】(05)彼らが使用している「車」は、時折会社のお偉いさんも遠出の際に使用するのだが、そこでシートのシミが問題視されたらしく、申し渡しが順繰りに係長まで降りてきたものらしかった。

2012-01-30 03:30:13
じねん @jinensai

【七人目の男】(06)「お偉いさんが自分でお茶こぼしたんじゃね?」海老沢が不届きなことを言い出した。無論外回りに出てからのことだ。午後は「車」が使えないので、全て歩きとなる。快適な車内だった午前と連日の猛吹雪に晒される午後は天国と地獄ほどの差があった。

2012-01-30 03:30:36
じねん @jinensai

【七人目の男】(07)「午前も歩きだとマジ『八甲田山』の世界だぞ」田中がギロリと一同を睨みつける。「でも俺たちやってないよな」坂崎が困惑に満ちた目をしょぼしょぼさせる。

2012-01-30 03:30:55
じねん @jinensai

【七人目の男】(08)「あれ?坂崎さんのスリムボトル『これ漏るんだ』って言ってませんでしたっけ?」山田がフードの雪を払い落としながら尋ねた。「いや…あれ蓋がちゃんと閉まってなかっただけだったよ。それに「車」使わない日だったよな、それ」

2012-01-30 03:31:25
じねん @jinensai

【七人目の男】(09)このままお偉いさんの機嫌を損ねたままでは午前の「車」使用がかなり危なくなることは必定に思えたが、彼らは着せられた「濡れ衣」になす術もなかった。そもそも濡れたらそのまま凍りつくような気温である。しばし無言の「葬送」が続いた。

2012-01-30 03:32:01
じねん @jinensai

【七人目の男】(10)「でも誰かが何かをこぼしたんですよね、シートに」海老沢がキャップの鍔の下の、吐く息で白く曇ったメガネの奥から値踏みをするような眼差しを一同に向けている。「つまり我々六人でないとしたら『七人目の男』が必ずいることになります」

2012-01-30 03:32:23
じねん @jinensai

【七人目の男】(11)「なあ、海老沢君。我々は、お偉いさんの「肝煎り」で雇われたようなものだぞ?」一番年長の田中が諭すように言葉を続ける。「わざわざ難癖つけて解雇しようなんて思うわけねえよ。お前さん『七人目の男』をお偉いさんにしたがってるみてえだが…」

2012-01-30 03:32:47
じねん @jinensai

【七人目の男】(12)数日後、海老沢にもシフトの休みが訪れた。だが、雪は容赦なく降り続き、その日はほぼ終日除排雪に明け暮れる羽目になった。数時間ぶっ通しで除雪後、防寒ウェアのままコタツの座椅子に痛む腰を委ね、再び除雪に向かう時だった。海老沢は突如「真相」に気づく――。

2012-01-30 03:33:12
じねん @jinensai

【七人目の男】(13)翌日、海老沢は係長に『七人目の男』の正体を告げた。係長は一瞬眉間に皺を寄せたが、次の瞬間には腑に落ちたようたようだった。肩の辺りに漂っていた「嫌なオーラ」が憑き物が取れたように消え失せている。「わかりました、何とかしてみましょう」

2012-01-30 03:33:35
じねん @jinensai

【七人目の男】(14)後日、お偉いさんから正式な謝罪が届いた。「どうやったんです?」田中が好奇心丸出しな口調で係長に尋ねると、彼は涼しい顔で答えた。「あ、それなら車庫の管理人に協力して貰って、お偉いさんに車庫の外で10分ほど待って貰いました」

2012-01-30 03:33:59
じねん @jinensai

【七人目の男】(15)「あ」山田が目と口をまん丸にして一同に振り返った。「雪?」

2012-01-30 03:34:13
じねん @jinensai

【七人目の男】(16)「そう…「車」に乗る前に払った積もりでも、猛吹雪だとどうしても払い残しの雪ってあるんですよ」海老沢は小さくため息をついた。「俺、除雪の後ちゃんと雪払わないでコタツの座椅子に座ったんですよ。そしたら解けた雪が染み込んで座椅子にシミが出来てたんです」

2012-01-30 03:34:37
じねん @jinensai

【七人目の男】(17)『七人目の男』は誰だったのか? それは猛吹雪の日「車」に乗った誰かだったのは確かだが、彼らにはそれを特定することは不可能あるいは無意味に思えた。(了)

2012-01-30 03:34:55
じねん @jinensai

【七人目の男】を即興で作らせて頂きました。お粗末さま…。

2012-01-30 03:35:48