f_zebraさんによる「2号機温度上昇の話題をきっかけとした、軽水炉についての一般的なお話など」
1F2の温度上昇について気になっている人が多いみたいですね。解説できればいいのですが、現時点では一次情報(東電の発表)がないので具体的な解説はできません。ただ、私は心配していませんし、現場で働いている人以外が心配する理由はないと思っています。
2012-02-06 12:21:18多くの人が当事者や政府、マスコミの発表を鵜呑みにせず、独自に考えてみるというのは基本的に健全で好ましいことだと思います。ただ、当事者の発表を初めから嘘と決めつけてそれと正反対の主張を鵜呑みにするのは、当事者の発表を鵜呑みにする以上に危険だと思います。
2012-02-06 12:21:43今回の事故以前から、東京電力に対する社会の不信は根深いものがあります。もちろんそれは東電が自ら招いた結果であり、そう遠くない過去にこの会社が組織ぐるみで検査記録の隠蔽、改竄を行っていたのは紛れもない事実です。一度失った信頼は簡単には取り戻せません。
2012-02-06 12:22:41今回の事故については東電が何か隠し事をしたり嘘をついたりする合理的な動機はなく、これだけ批判的に注目されている中で嘘をつき通すことが不可能なことは明らかです。専門知識がなくても、これまでに発表された内容の辻褄とタイミングを確認することは誰にでも可能でしょう。
2012-02-06 12:23:33私は業界の人間ですがBWRの専門ではなく、東電と直接の関係も無いため1Fの現状に対して具体的に何かができるわけでもなく、手に入る情報もほとんどは公表資料です。一般の方に比べてアクセスが容易なのは事実ですが。
2012-02-06 12:24:44そのため、プラントの状態がひとまず安定し、新たに大規模な放射性物質の放出がほぼあり得なくなった昨年5月以降は原発「内部」のことはあまり気にしなくなりました。私より知識も技術もある人たちが頑張っているのに、私が気にしてもどうしようもないからです。
2012-02-06 12:27:17一方、原発の外部、つまり福島県を中心とする周辺地域または国内の他地域への影響については現在も進行中の事態であり、扱いを誤れば不必要に多くの人を危険に晒すこともあるため注意深くフォローしています。
2012-02-06 12:28:18昨年5月というのは、実は私が空間線量測定や住民の方のスクリーニングなどの支援業務で福島に赴いた時期です。家族(特に妻)が非常に心配したため、安心させるために当時のプラントの状態を分かる範囲で調べ、「新たな」危険はないことを確認したのです。
2012-02-06 12:29:114号機SFPについての私のツイートは多くの人が注目して下さったようですが、特に何か危険があるという認識はなく、改めて調べてみた後でもその認識は変わっていません。敢えて調べて、その結果を連続ツイートしたのは別の動機によるものです。
2012-02-06 12:30:11個別の名指しはしませんが、フォローしている人のうち、その考察力、判断力に対して私が勝手に絶大な信頼を寄せている方の複数が4号機SFPを心配しておられました。十分な情報があれば特に心配の必要がないことは分かるはずなのです。
2012-02-06 12:30:43これは情報が絶対的に不足しているに違いないと思って少し検索してみたところ、正しい情報を得るのが非常に難しい状態であることが分かりました。情報の不足で正確な考察ができていない人に正しい情報を提供したいというのがそもそもの動機です。
2012-02-06 12:31:05さて、そうは言っても原発の仕組みを知らない人はどんな危険があるのか、あるいはないのか判断できないでしょうから、軽水炉一般の話として少し解説しておきます。1Fの事故以来これまでに分かっていることは取り入れますが、この数日の状態を解説するものではありません。
2012-02-06 12:36:06軽水炉という原子炉は、PWRにしろBWRにしろ最大反応度で運転するよう設計されています。反応度というのは核分裂の「勢い」だと思って下さい。核分裂の勢いが増えもせず減りもせず、一定を保っている状態を臨界と呼びます。これが出力運転中の原子炉の状態です。
2012-02-06 12:36:48運転状態が最大反応度ということは、臨界より高い反応度にはなり得ないということです。反応度が臨界を超えて(超臨界)原子炉が暴走する事故を過剰反応度事故と呼びますが、軽水炉では構造上起こり得ません。これは軽水炉の安全上の大きなメリットとされています。
2012-02-06 12:37:11運転中の原子炉は、あらゆる条件を最適に調節して反応度を最大に保つことで臨界を維持しています。僅かでも何かのバランスが崩れれば、臨界を維持できなくなり核分裂反応は収束してしまいます。一旦停止した原子炉が勝手に再臨界し、それを維持することはあり得ません。
2012-02-06 12:39:33今回の事故のシーケンスで緊急停止後の再臨界があり得るとすれば、燃料が溶融する前、つまり最適な間隔で燃料が並んでいる状態で、遅発中性子が盛んに飛び交っている中で非常注水された水が燃料の間を満たして減速材として働くという瞬間だけです。
2012-02-06 12:40:10仮に偶然の一致でそうした瞬間があったとしても、次の瞬間には水が蒸発して減速材がなくなり、臨界は一瞬で終わってしまいます。燃料が崩れてしまった後ではどう頑張っても臨界は維持できません。
2012-02-06 12:40:32尚、自発核分裂をきっかけに核分裂が何段階か続いて起きることは健全な使用済燃料などでも起こり得ますが、普通はそうした反応は「連鎖反応」とは呼びませんし、「臨界」の概念とは一致しません。言葉の定義をこねくり回して「ごく短時間の臨界」などと強弁するのは無意味だと思います。
2012-02-06 12:41:31さて、原子炉が緊急停止し、半減期の短い核分裂生成物が一通り崩壊し尽くすと核分裂に必要な遅発中性子がほとんどなくなります。そのため、元々低い再臨界の可能性は時間が経つほど更に低くなります。
2012-02-06 12:44:23破壊された原子炉の内部は未だ確認されておらず、予想外のトラブルが発生する可能性は今後もなくならないでしょう。ただ、少なくとも再臨界について心配するのは現実的に無意味です。それはもう、再び大地震が来ようが核ミサイルで攻撃されようが再臨界だけはあり得ない、と断言できます。
2012-02-06 12:45:38また、発熱体である燃料の温度は下がり続けており、発電所外部に影響を与えるような事象が発生する確率は数ヶ月前よりも格段に低くなっていますし、今後も下がり続けるでしょう。つまり、何かが起こるとしてもそれはおそらく発電所内部だけのことであり、困るのは東電と関係者です。
2012-02-06 12:49:032号機の温度上昇についてはそのうち調査結果と東電の考察が発表されるでしょう。それに対する反論や批判もわんさか出てくるでしょう。何を信じるのも個人の自由ですが、現場を一番理解し、データを持っているのは当事者です。
2012-02-06 12:49:27私が常に東電の発表をそのまま信じているかと言えばそうでもなく、特に考察については不満があることもあります。多くの場合、ほとんど考えられないような可能性について「可能性は捨てきれない」といった表現をしていることに対してですが。ただ、「事実」を偽ることはないと思っています。
2012-02-06 12:50:20当事者である東電の発表の、「事実」の部分を否定する意見は基本的に見る価値すらないというのが個人的なスクリーニングレベルです。事実を踏まえた上で、別の考察を試みるのであれば意味があると思います。
2012-02-06 12:50:39プラントシステムにとても興味のある人や専門家以外にとっては特に意味のある考察が出されるとも思えませんが、気が向いたら正式発表後に解説するかもしれません。個人的にはあまり興味がないので気乗りしませんが。
2012-02-06 12:50:55