『博士と弟子』（第２２集）

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『文学全集薬』！　これで少女は＜文学少女＞になる！」「博士。何が少女を文学少女の道に案内するか。それは本です。本こそが少女を導く。少女は導きに従い、文学少女に近づく。薬は本の代わりになりえない」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『注文薬』！　これで少女はひとつだけ相手に注文をつけることができる！」「博士。なんて可愛らしい注文か。ひとつだけでいいとは。ああ、もしも私に限りない命があったなら少女の注文をいくつでも受けよう」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『俯瞰薬』！　これで少女は自分の姿を離れて見ることができる！」「博士。確かに神の視点があれば少女は自分を見下ろすことができます。だけど、だめだよ。少女の目は自分ではない誰かを見るためにあるんだ」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『無能薬』！　これで、きっと何事をもなせない少女たちに惚れる！」「ねぇ、博士。無能な少女とはいったいなにか。それは誰かの助けを必要とする状況にある少女のことか。それを愉しむなんて最高じゃねぇ？」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士は私にチョコレートを渡した。あまりにも見栄えがいいから、私はお返しをするのをためらった。すると博士は鼻を「くんくん」と鳴らした。「大丈夫。そのチョコレートはまだ腐っていないらしい」私は博士の鼻先にチョコレートの箱を突きつけた。「食べて下さい」「いただきます」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『放送薬』！　これで少女はメッセージを誰かに届けることができる！」「博士。それで少女の孤独は慰められるかもしれない。けれど、それよりも少女はメッセージを認めたい。誰かを見失わなければそれでいい」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『初回特典薬』！　これで少女は二度目のファーストキスを敢行する！」「博士。一度目はどこに行っちゃうんですか、一度目は。もしかして一度目のファーストキスをした時の少女は消えてしまうのでしょうか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel ｢ははははは！ 完成したぞ！ 『廊下薬』！ これで少女は思い切り走ることができる！｣｢博士。少女の走る姿はまるで春の風。しかし、私は少女が誰かと一緒に走る光景を想う。少女をひとりで走らせないで下さい｣パリン！｢この薬は廃棄する｣｢博士！｣

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『安全地帯薬』！　これで少女は誰かの安全地帯になる！」「博士。あなたは少女の魅力を誤解している。少女は絶対安全だから可愛いんじゃない。危険があるから可愛いんだ。あなただって危険が大好きでしょう」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『塩梅薬』！　これで少女は＜ちょうどいい少女＞になる！」「博士。ちょうどいい少女は私たちの想像のなかに住まうのでしょうか。しかし、博士。少女はきっと私たちの想像を越える。捉えることなどできない」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『目次コメント薬』！　これで少女は鑑賞者に親しみを抱かせる！」「博士。確かに漫画雑誌の巻末に掲載されている漫画家のコメントを私も楽しみにしている。しかし少女は何も言わなくていい。謎のままでいい」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士は私に手を出さなかった。「どうして」と私は聞く。「それは俺の役目じゃないから」と博士は答えた。「意味がわからない」と私は叫ぶ。すると彼は私の頭に手を置いた。私はその手をはね除けなかった。それから彼はベッドから離れてカーテンを開いた。窓の外には雨が降っていた。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 昔々あるところに「博士」と呼ばれる男性がいました。ある日、「博士」はひとりの女の子と出会い、その子に「弟子にしよう」と言いました。女の子はその申し出を断りました。「私は私です」そうして女の子は「私」になりました。今でも「私」は「博士」の隣にいるのかもしれません。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『身繕い薬』！　これで少女は完成度の高い身繕いをする！」「博士。たしかに身繕いにもピンからキリまであるでしょう。けれどね、博士。少女には身繕いを少しずつ覚える権利がある。それを奪いたくはないよ」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『手錠薬』！　これで少女は好きな男と手錠でつながるというハプニングに遭遇する！」「博士。確かに好きな男の子と近づくのは嬉しい。けれど、近づきすぎると少女は間違って相手を食べてしまうかもしれない」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『どじょう薬』！　これで少女は開拓者になる！」「博士。確かに誰よりも先に新雪を踏みしめる快感は魅力的だ。しかし、多くの人が先に歩んできた道を歩くのだって悪くない。いつかはひとりで歩くのですし」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『AB間の距離薬』！　これで少女はA（自身）とB（誰か）の間に横たわる距離を求めることができる！」「博士。どのくらいの距離があるかより、どのように距離を置くか、それが問題なのではないでしょうか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『移植薬』！　これで少女は別のものとして意識する！」「博士。それは少女が少女以外の何かとして生きるということですか。笑わせないで下さい。それでは少女は少女でなくなってしまうのではないでしょうか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『トレーズ薬』！　これで少女は男のことを忘れない！」「博士。確かに男の人は別れた女の人に自分のことを覚えていて欲しいと思うかもしれない。けれど、忘れたっていいよ。少女は忘れることで思い出を守る」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『挨拶薬』！　これで少女は挨拶ができる！」「博士。たしかに少女の挨拶は私たちの一生の記念になります。ですが私はここで私たちが挨拶しても挨拶を返さないご挨拶な少女の可愛さを挨拶がわりに紹介します」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『水草薬』！　これで少女は情に上手に流される！」「博士。確かに誰かの感情と正面衝突するのではなくてそれを受け流すのは賢明かもしれない。けれど、たとえ愚かに見えても根を張って立つ少女に私は憧れる」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『１０１回目薬』！　これで少女は命がけの告白をする！」「博士。たしかに誰かに告白するのは少女にとっては大切なこと。しかしですね、博士。告白は軽くない。少女の告白は命の重さに等しいかもしれないよ」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『タッチパネル薬』！　これで少女は指先だけで見るものを操作することができる！」「博士。私も少女の指先に操られたい。けれどね、博士。操作することで操作される危険がある。適度な距離が欲しいものです」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 私は窓から空を見上げた。星をひとつ、ふたつ、みっつと数えていく。後ろに足音。博士だ。博士は開いていた窓を閉じる。そして言った。「行くぞ」「どこに」「外」部屋から戸外に移動する。私たちは空を見上げた。それから私は博士の様子を見る。彼は何も言わずに何かを見ていた。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『△薬』！　これで少女さんはかっけーんすよ！」「博士。博士は＜博士＞ではなくて＜博士さん＞と呼ばれたいのでしょうか。だったら私はこれからあなたを＜博士さん＞と呼ぶ。よろしいでしょうか、博士さん」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」