高橋源一郎「午前0時の小説ラジオ」第四回~「学生たちに教わる、子どもたちに育てられる、自分の作品の読者になる」~

いつも一緒に小説を読んでいる学生たちについて話しておきたいと思ったからでした。彼らと共に本を読むことは、いつも素晴らしい体験です。それは「読む」ということについて、様々な発見をぼくにさせてくれるのです。その理由について、今晩は考えてみたいと思っています。
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高橋源一郎 @takagengen

「教わる」10…そのもっとも素晴らしい例が「ゾーン」体験です。ぼくと学生たちが、教室で一つの小説について論じています。集団である作品について論じる時、ひとりで読む時とは異なったことが起こることは知っていました。たとえば文学賞の選考会です。いい選考会のいい選考委員の態度はいつも同じ

2010-06-07 00:29:17
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」9…ひとたび常識を離れることを知った学生たちは、たくさんのことをぼくに教えてくれるようになります。ぼくが「教える」のじゃありません。ぼくが「教わる」ようになるのです。ぼくは大学で「教える」ようになって、教育というものが実は小説(文学)とよく似ていることに気づいたのです。

2010-06-07 00:26:46
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」8…それがどんなものであれ、なにかを教えたり、教わったりするには、「自分の人生の計画をみずから選ぶ」ことができる必要があるのです。やがて、学生諸君は、徐々に「自分で選ぶ」ことができるようになる。それは聞くべきことなのか。自分はなにを知りたいのか。なにを知らないのか。

2010-06-07 00:24:16
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」7…授業が始まる。窓の外は抜けるように青い空。で、外を眺めてから、ひとこと。「あのね。ずっと欠席してない人、たくさんいるよね。向学心旺盛ですごくいいけど、人生、勉強ばかりじゃありません。たとえば、どうしても、恋人と離れがたいとか、そういう日は断固して、そっちを優先!」

2010-06-07 00:21:27
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」6…学生たちが講義の最初に訊きます。「出席はとりますか? どのくらい欠席すると落ちますか? 評価の基準は?」。で、ぼくは「なにも決まってません」といいます。学生諸君は不安そうな顔つきになる。ぼくは心の中で「ごめんね」といいます。でも、一回、不安にならなきゃなりません。

2010-06-07 00:16:41
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」5…ぼくが大学で教えるようになって6年目です。いつも思うのは、1年生として入ってくる若者たちの頭の固さです。もう常識でがちがちに固められている。気の毒なぐらい。だから、最初のうち、ぼくが学生たちにするのは、ある種の整体、精神的なマッサージです。他にはなにもしません。

2010-06-07 00:13:20
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」4…ミルの言葉の中心は、「知性や特性は、筋力と同じで、使うことによってしか鍛えられない」というところにあると思います。そして、ミルのこの考えは、ミルが学校教育ではなく、ミルの父親によるある種の天才教育を受けたことによって生まれたのではないか、とぼくは考えています。

2010-06-07 00:10:37
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」3…「…知性や特性は、筋力と同じで、使うことによってしか鍛えられない……世間や身近な人びとに自分の人生の計画を選んだもらう者は、猿のような物真似の能力があれば、それ以上の能力は必要ない。自分の計画をみずから選ぶ者は、あらゆる能力を駆使する」。うん、その通り!

2010-06-07 00:08:11
高橋源一郎 @takagengen

「教わる」2…ミルの言葉はこういうものです。「人間の能力は、知覚、判断力、識別感覚、知的活動、さらには道徳的な評価さえも、何かを選ぶことによってのみ発揮される。何事もそれが習慣だからという理由で行なう人は、何も選ばない。最善のものを識別することにも、希求することにも習熟しない…」

2010-06-07 00:05:08
高橋源一郎 @takagengen

「午前0時の小説ラジオ」・「学生たちに教わる、子どもたちに育てられる、自分の作品の読者になる」の1・いま、話題の、マイケル・サンデルの『これから「正義」の話をしよう』を読んでいます。面白いですね、いろいろ。でも、今日は、サンデルの話じゃなく、サンデルが引用しているミルの言葉から。

2010-06-07 00:02:31
高橋源一郎 @takagengen

予告編3…だから、今日の「小説ラジオ」のタイトルは、少し長くて、「学生たちに教わる、子どもたちに育てられる、自分の作品の読者になる」というものです。なにをしゃべることになるかは、まだはっきりと決まってはいません。タイトルを見ながら即興でしゃべることになるでしょう。では、24時に。

2010-06-06 22:29:47
高橋源一郎 @takagengen

予告編2…というのも、いつも一緒に小説を読んでいる学生たちについて話しておきたいと思ったからでした。彼らと共に本を読むことは、いつも素晴らしい体験です。それは「読む」ということについて、様々な発見をぼくにさせてくれるのです。その理由について、今晩は考えてみたいと思っています。

2010-06-06 22:26:28
高橋源一郎 @takagengen

今日の予告編1…「午前0時の小説ラジオ」、今日は…たぶん…やれると思います。子どもたちが寝てくれないか、寝かしつけてぼくもそのまま一緒に寝てしまわない限りは。今日のタイトルは「『クォンタム・ファミリーズ』を学生たちと読む」の予定でしたが、それは、一回先に延ばすことにしました。

2010-06-06 22:23:08