「執着をもつのは、現実性の感覚が十分でないということにほかならない。人がものの所有に執着するというのも、そのものを所有しなくなると、そのものが存在しなくなるかのように思い込んでいるからである。」(シモーヌ・ヴェイユ)
2012-03-06 00:59:55「ひとつの町がほろんでなくなってしまうことと、その町の外へ追放されて二度と戻れなくなることとには、まったくもって非常な違いがあることを、多くの人たちは心の底から感じていない。」(シモーヌ・ヴェイユ)
2012-03-06 01:01:35警戒区域に指定された町から根こぎにされた人たちは、シモーヌ・ヴェイユのいう執着をその土地に抱いていようがいまいが、自分たちが暮らしてきた「ひとつの町がほろんでなくなってしまう」のか、「その町の外へ追放されて二度と戻れなくなる」のか、その違いを感じることなど到底できはしないだろう。
2012-03-06 01:15:21原発事故によって警戒区域に指定された町に住んでいた人たちの「避難」は、このままそこに何世代にもわたって半永久的に戻れないとしたら、ほとんど「根こぎ」以上のものだ。
2012-03-06 01:19:36ユダヤ人の離散に代表される歴史上の故国喪失は、たとえある土地に暮らしていた人たちが追放の憂き目に遭ったとしても、別の人たちがそこに住み続ける限り、その土地は社会的な現実として生き続ける。その場合、政治的な理由でその土地への接近が禁じられていない限り、帰郷自体はいつでも可能である。
2012-03-06 01:34:34だが、原発事故による警戒指定区域のように、下手をすれば半永久的に人が住めなくなる恐れすらあるような事態に至っては、土地からの「根こぎ」はいっそう悲劇的な様相を帯びる。自分たちが土地からたんに追放されただけでなく、土地自体も死に絶えてしまうのではないかという疑念を拭えないのだから。
2012-03-06 01:43:51人類の歴史はそのような例を二つしか知らない。そしてその一つが私たちの国で現実に起きているということを、私たちの多くはいまだに信じようとはしていない。少なくとも直視しているようには思えない。
2012-03-06 01:48:43土地に対する執着からの解放の勧めが許容されるのは、土地からの根こぎが強制されない場合に限られる。土地に対する執着からの解放がより切実な意味をもつのは、土地に対する執着が強要される場合である。
2012-03-06 02:32:28今回の原発事故がもたらした悲劇的状況は二つの点で際立っている。第一に、強制的なものと自主的なものという二種類の「根こぎ」が同時に生み出されたこと。第二に、そうした「根こぎ」を目の当たりにした人々の間で、土地への執着が通常はあり得ないような不自然な形で表出せざるを得なかったこと。
2012-03-06 02:56:36強制的にせよ自発的にせよ、一時的にせよ半永久的にせよ、人々の「根こぎ」を強要したのは原発である。土地への執着を通常はあり得ないような不自然な形で表出せしめたのも原発である。「根こぎ」にせよ「不自然な執着の表出」にせよ、人々の自由意思の結果というよりは、原発に強要された結果である。
2012-03-06 03:13:02「われわれは何者なのかという自覚は、われわれが逸しているもの、この大地がぶら下がっている「何もなし」を思い出すことによって呼び醒まされる。この智慧がわれわれを盲目にする恐れのあるときはいつも、この智慧を失う危険にある。」(ジョナサン&ダニエル・ボヤーリン『ディアスポラの力』)
2012-03-13 03:35:34「われわれを規定しているものすべてが、われわれの祖先が発した問いの全体からなっている。一方で、なにもかも永久に危険にさらされている。かくして、偶発性と系譜がディアスポラ意識の二つの中心要素となる」ジョナサン&ダニエル・ボヤーリン(『ディアスポラの力』)
2012-03-13 03:52:09われわれの祖先たちはどれだけ問いを発してきたのだろうか。問いを発するよりも、問いを圧殺することに多くのエネルギーを費やしてきたのではなかろうか。発せられた問いの総体が多くなればなるほど、この社会は踏み外した軌道を少しずつ回復していくのではなかろうか。
2012-03-13 03:56:02"He that cannot ask cannot live." ~ Yiddish Proverb
2012-04-11 01:46:44たとえ何があろうとも、私たちにできる最善のことは、バラバラになったジグソー・パズルの断片を一つ一つ丁寧にはめ込んでいくように、この世界を修復してゆくことでしかない。それはきっと誰にでもできる。この世界を修復せんとする願いが心に芽生えさえすれば。この世界は修復されるのを待っている。
2012-03-16 05:21:42