空想の街　三日目（４／２２ 日）

朔月みりあ @miria_saku

「名乗り方が同じだったから気付けたんだ」「だからあんなに驚いてたんですね」「うん。あの空地は、俺が昔住んでたところ。デコをやってるのは、『せかいにひとつだけ』をつくりたいから。それから――」少しの沈黙。少女は続きを促すように、声を。「それから？」 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

朔月みりあ @miria_saku

「この街に戻ってきたのは、今の俺をくれて、名前をわけてくれた、初恋の人に会うためかな」さらさら。風が吹いて揺れたのは。うたが聞こえたなら、それはきっとふたりのこころ。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

朔月みりあ @miria_saku

少女は顔が熱を持つのを感じて、さらに恥ずかしくなって顔を覆う。「…ずるい、です。そんなの」「しぃちゃん、これどうやるんだっけ」「へ」少年は柄杓で水を汲んだ状態で、そこにいた。「左、右、口、左、最後に柄杓の柄です……」 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

朔月みりあ @miria_saku

「しぃちゃんはどうしてここに来たの？」「気まぐれ、だったんですけど、もしかしたら屋台見て無意識に思い出したのかもですね。しぃくんは？」「しぃちゃんに会えたから、お礼参りに」顔を覆う、少女。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

朔月みりあ @miria_saku

そういえば。「しぃくん、いくつ？」「しぃちゃんのひとつ上」「えっ、どうして私の年…」「制服のリボン、あれ１年のカラーでしょ？俺もそこ通ってるから」「…」「どうし――」「うえええ！？」 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

日魚ときお @tokyosanfish

あっという間に真っ赤になった靴を確認して、部屋を出る。さぁ、どこに行こうか。あてもなくさ迷うのも、楽しい。スプリングコートがひるがえって、裾のレースが踊った。 #空想の街 #曇りの靴

日魚ときお @tokyosanfish

「…こんな所に、カフェが出来てたの…」知らない間に、中央区に見知らぬカフェが出来ていた。趣のあるその店の様子に興味が沸き、門をくぐる。看板には『ブックカフェ黒猫』と書いてあった。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

朔月みりあ @miria_saku

「だって、あの日、金曜日で…！」「……英語の先生が好きになれなくてねー」「え」金曜日の１時間目は英語だそうだ。「土曜日は…？」「土曜日は休日」「え」どうやら少年はサボリ魔であるらしい。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

cottonkotton102 @cottonkotton1

#空想の街 http://t.co/eGeRffSN

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朔月みりあ @miria_saku

社会人だとしても夜に働いている、とかでないとおかしいわけで。少女は納得したようで納得できていなかった。「…一緒に学校行きませんか。帰りも」「んー、そうだね、しぃちゃんのお誘いじゃあ断れないよ」「えっ、いやこれはしぃくんを更正させるためでっ」 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

朔月みりあ @miria_saku

焦る少女を見て少年は笑う。「うぅー…。と、とにかく学校は行きましょ？」「はーい」賽銭箱の前で足を止めて財布から小銭を取り出した。少女がちらり少年を見ると、この前の代金と同額を取り出していた。「じゃあ…100円」少女にとっては、奮発したつもり。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

日魚ときお @tokyosanfish

どうやらここは、本を読みながら紅茶が飲める店らしい。オススメのフレーバーティーと、これまたオススメというワッフルを注文した。本は、軽く読めるエッセイ集を。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

朔月みりあ @miria_saku

からから、投げ入れる。２回頭を下げて、ぱんぱん、手をたたく。目を閉じて少女は願う。たくさんたくさん、幸せをおすそ分けできますように。してもらえますように。それからもういちど、ぺこり。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

朔月みりあ @miria_saku

「さて、帰ろうか」「はい」「…あ、雨」踵を返したとき、ぱらぱらと雨が降り出した。「…おにゅーの服なのに…」しょんぼりする少女の隣で少年が傘を開いた。「折り畳みだから小さいけど」「でも、」「しぃちゃんってば天気予報見なかったの？」自然と近づく距離。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

cottonkotton102 @cottonkotton1

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朔月みりあ @miria_saku

「あ、そうだ。これ」「完成したんですね」少女が渡されたのは、この前の依頼の手帳。表紙には可愛らしいうさぎがぴょん、と跳んでいた。「と、おつりも」「ちゃんと渡しておきます」「…外で渡してごめん」「い、いえ！」濡れないよう鞄にそっとしまった。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

日魚ときお @tokyosanfish

上品な音楽が、静かな店内に流れていく。いつぶりだろう、こんな時間を過ごすのは。以前は一人ではなく、友人と過ごしていたのだけど。だけど今は彼女らとも疎遠になっている。仕方がない、と、今日はじめてのため息をついた。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

朔月みりあ @miria_saku

こんにちは はじめましてを交わしましょ うさぎとくじらの鳴き声ふわり #デコ少年と平凡少女 #空想の街 #短歌

柑南 @aoikannna

中に通してもらうと、 カウンターと小さな椅子があった。それにキャンドルの灯り。虹色の星型の瓶詰が、カウンターの上に一つ。「夢が、欲しいんです。安心して眠れるような夢が」この街に来てから、ぐっすり眠れていなかった。 @siorin_tiara #空想の街 #探し人 #夢美堂

柑南 @aoikannna

頭の片隅には、ずっとあの人がいた。幼い頃から毎日のように一緒にいた。どんなことをするときも、まるで双子のように。…だめだ、あの人のことを思い出すたびに、涙が出そうになる。若い店主さんは不思議そうな顔でこっちを見ていた。 @siorin_tiara #空想の街 #探し人 #夢美堂

柑南 @aoikannna

「ぁ、ごめんなさい…」言い訳をしようとしたとき、「随分お困りみたいですね」そう言って店主さんは、虹色のビンを振った。すると、檸檬色の真ん丸な飴玉が出てきた。「素敵な夢を」掌を転がる飴玉は、希望の光の如く輝いていた。 @siorin_tiara #空想の街 #探し人 #夢美堂

朔月みりあ @miria_saku

多分、ずっと会話はなかった。少女が道を伝えるくらい。雨が傘を奏でる。耳を澄ませて、肩に触れる温度を感じていた。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

柑南 @aoikannna

「ありがとう」私は夢美堂を出た。雲の切れ間から、少しの星が覗いている。近くの公園のベンチに座って、夢美堂でもらった飴玉を舐めた。檸檬の酸っぱさと蜂蜜の甘さが丁度いい。何だか安心して眠れそうだ。私は、背もたれに身を預けた。 @siorin_tiara #空想の街 #探し人 #夢美堂

朔月みりあ @miria_saku

「家まで送っていただきありがとうございます」「どういたしまして」「駅は、真っ直ぐ行けば着きますから」「わかった。じゃあ、明日あの空地で待ってるよ」「え、少し遠回りじゃ…」「しぃちゃんが来なければ休日だ」「…ち、遅刻したらしぃくんのせいですからね」 #デコ少年と平凡少女 #空想の街

朔月みりあ @miria_saku

「また明日」「はい、また」手を振って、少年は少女に背を向ける。「…私、全然濡れてないや……」振り返った瞬間見えた少年の肩が濡れていた。見えもしないのに、少女は深く深く頭を下げて、小さくなる背中を、傘を、見送った。 #デコ少年と平凡少女 #空想の街