空想の街　三日目（４／２２ 日）

日魚ときお @tokyosanfish

足がこの状態になってから、まともに外出出来なくなったのだ。始めの頃は誘ってくれた友人も、次第に連絡をくれなくなった。晴れたら家にワープしてしまう人なんて、確かに誘いづらいだろう。私はゆっくりと、でも確実に、独りになっていった。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

またため息が出そうになって、私はワッフルを口に押し込んだ。ダメダメ、今日は楽しもうって決めたのだから。無理矢理口に詰めたワッフルは甘く、私を笑顔に戻すには充分な美味しさだった。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

木船田ヒロマル @hiromaru712

ベッドに入ると、すぐ枕元に黒猫がやって来て春用の薄い毛布に勝手に潜り込んだ。…ネモ。出ろ。落ち着かん。『…ゃぁー』やだじゃない。お前には9800円もした立派なクッションがあるだろ。『…ゃぁー』は？なんで俺が？『…ゃぁー』く…寝たらクッションに移すぞ。 #ネームハンター #空想の街

木船田ヒロマル @hiromaru712

俺はベットの背もたれにもたれると、ネモを腹の上に載せた。黒猫は黒いビロードの鞠のように丸くなる。んん！ねーむれ〜♬ねーむれ〜♬は〜はの胸〜に〜♬ 『…。』…笑うなら歌わないぞ。『にゃー』なら黙って聴け。俺は黒猫を撫でながら歌い続けた。彼女が眠るまで。 #ネームハンター #空想の街

@boy___k1

南区のどっか。奥まった路地の更に奥。ぽつんと陰に隠れる様にして建つ店がある。中は古本ばかりが所狭しと並ぶが、目を凝らすと確かにケースに収まる眼鏡が置いてある。ここは眼鏡屋。なんでも見える夢のような眼鏡を売る場所。 #空想の街 #眼鏡屋

@boy___k1

店先に看板娘。パンダのヘアピンが可愛らしいハイカラさん。頭に大きなリボンを結わえて、黒髪揺らしながら箒をかける。店主は店の奥に引きこもって、会計以外出て来やしない。看板娘に任せっきりだ。「今日はお客さん、来ると良いですねー。」 #空想の街 #眼鏡屋

日魚ときお @tokyosanfish

優しげな店長に礼をのべて、私は店を出た。次はいつこれるだろう。読みかけの本、次もあれば良いけど。つらつらと歩き続けていると、頬に雨粒があたった。マズイ。私は慌てて雨宿り出来る場所を探す。その間にも、髪や服に水滴が染みてゆく。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

ハコ @amenohakoniwa

そのまま暫く待っているとね、引き合うんだ。原料が溶ける時に跡形も無くなってしまった筈の煙草の葉と、吹き込んだ煙が。　#空想の街 #地下の硝子屋

ハコ @amenohakoniwa

互いに同じものであり、そして互いに何かを無くしてしまったものたちが惹かれ合う。硝子は固まっているけれど、実は液体に近い形。煙はその緩い隙間をゆらゆら、消えた葉の痕を求めて漂う、と言う訳。至極、簡単で…何とも残酷なやり方でしょ？誰にも教えてはいけないの。　#空想の街 #地下の硝子屋

日魚ときお @tokyosanfish

それと共に、足が動かなくなっていく。というか、重い。物理的に。やっとの事で何処かの店先にたどり着いた時には、足は鉛のようにズッシリとしていた。心なしか、色も黒ずんで見える。もう正直動かしたくない。…私の足は、晴れよりは雨の方が嫌いじゃないらしい。 #空想の街 #曇りの靴

日魚ときお @tokyosanfish

とは言え、濡れるのも嫌らしく、雨が降るとこうして重たくなって、歩けなくなる。嫌でも雨宿りを選択させられるのだ。さいわい、この雨は一時的なもののようだった。やむまで、ここに居させてもらおう。…ん？ #空想の街 #曇りの靴

@boy___k1

客なんか来るわけねえ。こんな辺鄙な所、見つけるのさえ大変だってえの。「しょうがないじゃないですか、こんなところに店構えちゃったんだから！」まあそうなんだけどさ。「なんでここにお店建てようと思ったんです？」…忘れた。「もう！そんなんだから友達いないんですよ！」 #空想の街 #眼鏡屋

@boy___k1

見た目に反して毒舌なのが玉にきずの娘である。関係無いだろ！と内心ツッコミを入れため息をついた。すると小さな声が店内に響いた。「すみません、あの、眼鏡売ってください。」 #空想の街 #眼鏡屋

日魚ときお @tokyosanfish

そこではじめて、私はここが『雨屋』だと気づいた。ショーウインドゥには、大小様々なガラスに閉じ込められた『雨達』が綺麗にディスプレイされている。なんでもこの店独自の技術だとか。私も昔、この店の商品を買ったことがある。小ぶりのガラス玉に入った、『春雨』だ。 #空想の街 #曇りの靴

二匹の猫は互いに同時に存在する。 @zwei_katzen

ガガ…砂嵐をまつ子供。廃墟に取り残された少女。赤い靴を買ってもらい、靴音高らかに帰った夕べ。思い出は砂となり、あなたの夢に降り積もるだろう。地下に眠る愛し子よ。地上の夢は幻。安寧という一枚の膜に覆われたシャボン玉。今日の苦しみをどこに向けよう。同胞よ…ガガ…#空想の街　#ラジヲ屋

二匹の猫は互いに同時に存在する。 @zwei_katzen

あのね、天使様、見たの。初めて。でもね、それが天使様ってわかったよ。ぼくね、嬉しんだ。 夢、だったのかな？夢でもいいんだ。夢でも…。 彼は眠る。花火の人ごみの中、出会ってしまったことを忘れて。 地下の、誰も忘れられた集会所。そこに舞台を移す。#空想の街　#木偶のコト

cottonkotton102 @cottonkotton1

#空想の街　#落書き http://t.co/dtP7bquX

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チーズトースト @_urt

【アナウンス(筆主の声)】あ、あﾞー、ていせー、訂正でぇございます。昨晩、うどん屋の店主が「ルグッグ蜜蜂のハチミツ」と言うところを「グレッグ蜂蜜」と誤ってぇおりました～。また「きつね橋」を「きつぬ橋」とも言っており、重ねてぇ謝罪申し上げます。 #うどん屋 #空想の街

日魚ときお @tokyosanfish

優しい春の雨を私はとても気に入っていたのだけれど、私の呪いとは相性が悪かった。どうやら手の平サイズのその小さな雨でも、呪いは反応するらしかった。部屋の中でも足が動かなくなった私は、それを手放してしまった。 #空想の街 #曇りの靴

日魚ときお @tokyosanfish

「…おや」ふいに後ろから声がした。この人は確か…店の主人だ。てっきり休みだと思っていたが、営業していたらしい。(この店は雨が降ると、雨観測のため休みになるからだ)「ええっと、あの…雨宿りさせてもらってます。すみません」私は頭を下げた。 #空想の街 #曇りの靴

日魚ときお @tokyosanfish

「いいですよ。急に降り始めましたもんね」やんわりと主人は微笑んだ。…相変わらず、女性なのか男性なのかわからない。着物は男物のようだけど、柄は女物のような…そもそも着崩しているから、判別がつかない。 #空想の街 #曇りの靴

日魚ときお @tokyosanfish

「素敵な靴ですね。…ふふ、『風変わりな絵かき』がご来店されたのかと思いました」「え？」一瞬なんの事かわからず、自分の靴を見下ろした。そして数秒後、主人の言葉の意味を理解する。『風変わりな絵かき』とは、この街にある『噂』だ。 #空想の街 #曇りの靴

日魚ときお @tokyosanfish

所謂『クチサケ女』のような、子供達の間で語られるタイプの話だ。この街の何処かに変わった絵かきがいて、その人に絵を描いてもらうと幸せになれるという。その絵かきは必ず赤いものを身につけているんだとか。確かに私の靴は、真っ赤だ。 #空想の街 #曇りの靴

日魚ときお @tokyosanfish

そんな物語に出てくるような、素敵な赤い靴だったらどんなにいいだろう。でも現実は違う。「…ああ、もうやみますね。通り雨、捕まえようかと思ったのですが」私の思考を遮って、主人が呟く。私は空を見上げるふりをして、涙を押し止めた。 #空想の街 #曇りの靴