「茂木健一郎氏が観た名人戦第２局一日目（控え室）」

茂木健一郎 @kenichiromogi

やがて、森内名人が対局室に入ってきた。座るときに、ぼくと目が合った。立ち会いの加藤一二三さんが立たれたのをきっかけに、ぼくもたった。控え室に戻ってきたら、森内名人が、飛車を切った。すでに、緊迫の展開。

茂木健一郎 @kenichiromogi

アオーレ長岡を見学して、控え室に戻ってきた。

茂木健一郎 @kenichiromogi

将棋名人戦、控え室に戻ってきたら、羽生さんがケーキを食べていた。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さん、ケーキを、たべたあと、コーヒーのんだ。森内さんは、スフィンクスのようにうごかず。写真添付ツイート相変わらずできず。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんの、二七金は、なかなかない手のよう。王から遠いから、無駄になる可能性も。森内さん、約一時間の長考に。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さん、あごに手をあてて、下を向いてる。森内さんは、スフィンクスの静寂。羽生さんが座り直した。羽生さん、ぐっと身を乗り出して盤面を見る。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんは、盤面をみなかったり、見ても、視点や姿勢のゆらぎが大きい。一方、森内さんは、比較的同じ姿勢で前を見続ける。森内さんは、まばたきが多い。

茂木健一郎 @kenichiromogi

将棋名人戦、控え室には、立ち会い人の加藤一二三さんがいらして、駒をぱちぱちいわせながら、なにやら検討している。あっ、羽生さんが、立った。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんが席をたっても、森内さんは、目で追わないどころか、一切表情を変えない。羽生さんが立ってしばらくして、長考していた森内さんが、飛車先に金を進めた。

茂木健一郎 @kenichiromogi

まるで、長考している森内さんを、羽生さんが席を立つことで、指すようにうながしたかのよう。羽生さんがしびれを切らして席を立つのを待っていたかのように、森内さんは金を進めた。そしてふたたび、スフィンクスのように動かない。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんが指しても、羽生さんは戻ってこない。これもまた、羽生さんの考慮時間になってしまう。しかし、森内さんが、どんな手を指したか知らずに、確定的に考えることはできない。それを承知で、羽生さんは席を外しているのだろう。森内さんが、足を組み換えた。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんは、戻ってこない。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんが指して、十分くらいになる。羽生さんは、まだ、戻ってこない。羽生さんの飛車の斜めうえには、森内さんの金が刺さっている。羽生さんの持ち駒は、飛車と歩。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんが、羽生さんのいない対局室で、ほほに手をあてて、考えている。森内さんの指は、ピアニストのように細くて、ながい。羽生さんは、まだ、戻ってこない。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんが指して１５分くらいして、羽生さんがようやく戻ってきた。記録係が、指されました、と言うと、羽生さんは、はい、とはっきり応えた。まっしぐらにすわり、盤面を、見つめ始める。羽生さんを待っていたように、こんとは森内さんが席を立って、羽生さんをひとり、対局室に残した。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんが行ってしまった対局室。羽生さんが、記録係に身体をかたむけて確認している。記録係が、１５分です、と羽生さんに告げる。羽生さんは、ひとり、盤面に向かって考え続ける。森内さんは、帰ってこない。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんが、対局室に帰ってきた。しかし、まっすぐに盤面を見つめて歩み寄り、羽生さんの方を一切見ない。羽生さんも、そんな森内さんをただ気配で感じている。森内さんは、ティッシュをとると、鼻を一つかんだ。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんが、右手の人差し指をくちびるに当てて考えている。今度は、両手を前に組んで、それから足の下にいれて、あぐらの姿勢を後ろに倒した。それから、今度は前傾して、ふたたび右手の人差し指をくちびるに当てた。まるで、すべての身体の配置をへめぐっているかのよう。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんは、今度は、左手の指をくちびるに当てている。一連の動作は、おそらくは無意識のうちに行われ、けがをして包帯を巻いている右も、左も、区別はされていない。ふたたび、右手の指がくちびるに当てられた。まるで、寝返りを打っているかのよう。森内さんはスフィンクスのように動かない。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんは、ときおり、肘休めの上にゆびをきれいにまとめて載せることがある。あるいは、あごの下にたなごころをまとめて、支えるような仕草をみせる。羽生さんはローアングルから迫り、森内さんは鳥瞰する。あごをさすった森内さんが、自分の指の先をまじまじと眺めた。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんが、大きく一つくしゃみをした。森内さんは、まるで羽生さんがそこにいないかのように気配を消している。対局室に人が入り、羽生さんがその人がもってきた記録紙を受け取り、眺めている。森内さんはそんな羽生さんを上目遣いに見る。白目が下の方に見えるのが絵画的印象を与える。

茂木健一郎 @kenichiromogi

森内さんの金が、羽生さんの飛車の斜め上に刺さったまま、局面は一切動かない。羽生さんの手番だが、熱心に記録紙を見つめている。そんな羽生さんを、森内さんがスフィンクスのように見つめている。羽生さんが記録紙を記録係に返した。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんが、今まであぐらをかいていたのをまずは膝を立て、それから正座した。手を指す前兆か。森内さんも、座り直す。羽生さんはすぐには指さず、一つため息をつく。さらに前傾して顔がほとんど盤面につかんばかりに。それでも、羽生さんは指さない。森内さんの金は羽生さんの飛車に刺さったまま。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんが、あーっと小さく言って、それからため息をつく。けがをして包帯をしている右手を額に当てる。ふたたびあぐらに戻り、わきにある水をほんの少しコップに入れる。左手で持ち、右手をそえ、左手で握って飲む。森内さんは、スフィンクスのまま、気配を消している。羽生さんは、まだ指さない。

茂木健一郎 @kenichiromogi

羽生さんは、水の入ったコップを左手に握ったまま、盤面を見つめている。最高度の集中。記録係も固唾を呑む。森内さんが、ほとんど畳に目を落とさんばかりに顔を伏せる。森内さんは、もはや盤面を見ていない。まるで地の底を見ているかのようだ。羽生さんが、鳥が飛んできたかのように見上げる。