空想の街　最終日（八日目・４／２７ 金）

日魚ときお @tokyosanfish

こんな単純で簡単な事に、今まで気づけずにいた。あの少年に会うまでずっと。どうせ無理だとはなから諦めていた。手を伸ばす事さえしなかった。こんなにすぐそこに、答えはあったのに。私はちらりと靴を見る。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

今まで嫌で嫌で仕方なかった赤い靴。今なら少し、好きになれる気がした。自然と笑みがこぼれる。紅茶に手を伸ばしたその時、隣のテーブルに人がいるのに気付いた。…いつの間に？パンケーキに夢中になっていて気づかなかったのか。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

そこにいたのは、スーツ姿のサラリーマン風の若い男性だ。ここら辺じゃ珍しい。この街は職人さんや自営業ばかりで、会社勤めの人はいないからだ。多分、出張で移動の最中に立ち寄ったのだろう。彼は手元の端末機をちょこちょこいじっている。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

アイパットだかなんだか…って奴かな。持ってないからわからない。指でタッチして操作出来る奴だ。彼は左利きなのだろう、さっきから左の人差し指で画面をつついている。彼の手が動く度、薬指の指輪が揺れる。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

結婚指輪だろうか。それにしては珍しい、真っ赤な指輪だなんて。飾りも細工もない、ただただ赤い指輪だ。珊瑚などで出来てるんだろうか？…そこまで考えて、ふと、一つの『答え』が浮かんできた。…まさか。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

私は何度か、その人と間違われた。雨屋の主人にも、そして昨日の少年にも。その人は、必ず『赤いもの』を身につけているという。「風変わりな…絵かき…？」私が呟くと、彼は私に笑いかけ、そして口元に人差し指を当てて『しー…』と言った。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

やっぱり、と思うと同時に、疑問も沸いてきた。だって、『風変わりな絵かき』の話は私が生まれる前…私の母親が、それこそ昨日の少年より小さな時に聞いた話なのだ。しかもおばあちゃんに。どう考えたって、こんなに若いはずがない。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

いやそもそも生きてるはずがない。私がぐるぐると思考の迷路で迷っていると、彼が独り言のように話し始めた。「いい時代ですね」…意外とイケメンボイスである。「絵の具がなくても、絵がかける」彼の指がツイツイと動く。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

…彼は端末機で絵を描いているのだろうか？そういうアプリがあるんだろうか。お伽話のような話の主人公が、最新の電子機器を使っているというのは、なんだかちぐはぐした印象を受ける。「貴女には、私は必要ないようですね」 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

彼は続ける。「そもそも私が必要な人なんて、一人もいないんですよ。みんな気付いていないだけなんです。すぐそばの、幸せに」彼の表情からは、感情は読み取れない。「そしてみな、それに気づく力もちゃんと持っている…」 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

「貴女は、大丈夫です」ニコリと笑うと、彼は端末機をササッと仕舞って立ち上がった。「さて行かなければ」そういうなりスッと歩きだしてしまった。私は動く事も出来ず、彼を見送った。途中消えるのではと思ったが、角を曲がるまで彼の姿は消えなかった。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

しばらくポカンと彼の消えた道を見つめた。この街ではたびたび不思議な事が起こるけど…。カラン。コロン。その時だった。やけに固い音が、道路に響く。雨…いや、飴だ。さっきまで降っていた甘い雨を食べた虹が、飴に分解されている。 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

日魚ときお @tokyosanfish

見上げれば、カラフルな飴が思い思いに降り注いでいる。その向こうに昨日の少年と、真っ白な羽を生やした少女が飛んでいくのが見えた。夕焼けに照らされたその羽は、金色に光って見えた。【終】 #空想の街 #曇りの靴 #ブックカフェ黒猫

和伊啓太 @waikeita

#空想の街 参加者のみなさんへ同じ参加者として提案です。 #空想の街 タグに #あとがき タグをつけてネタバレやら感想やら書きませんか？　とりあへず、私の #ルグッグ蜜蜂の巣箱 と #ソラフグの空 の分は書かせてもらひます。蛇足になりますが、興味がありましたらお付き合ひください。

七歩 @naholograph

@s_whalp　ウサギ宅配便は街をかける。街はとても静かだ。「なんで」「どうして」「「人が少ないの！！」」疾走する二人。ウサ耳が揺れる。ピンポーン「「お届け物です」」ひねくれ者の二人だけれど、お客様の喜ぶ顔は大好きだった。 #空想の街　#仕立屋　#宅配便

foniatsh_ @foniatsh_

目を覚ます。此処がいつなのか、ぼんやり思い出して確認する。何時も通りの朝。差し込む光の量が多いから、今日はいい天気になるみたいだ。いろいろなものがきらきら輝くから、眩しくて『あの人』の魂の欠片は見つけにくくなるかもしれないね。 #空想の街

foniatsh_ @foniatsh_

朝の空気みたいに透明なのに、夜の静寂に融けてしまいそうなほどしんとした『あの人』の魂の欠片。何度だって、それに｢私｣を反射して欲しかった。この世界を愛した『あの人』がいるから、私も此処を愛せる。 #空想の街

foniatsh_ @foniatsh_

｢ごめんね、｣誰にともなく呟いた。『あの人』という夢を、今はまだ抱いたまま歩いていきたいよ。 #空想の街