橋下市長の政策は、単細胞的であるがゆえに理にかなっている

Makoto Natsume @Batesonian

橋下氏と複雑性の話をこれから少ししたいと思う。

Makoto Natsume @Batesonian

１）「日本丸」という大型客船が存在しているとしよう。この船の船長を長期にわたり勤めて来たのは「自民」さんという人物だったが、彼が選択した航路を行くと嵐に遭遇する事が多くなり、乗客の不満が高まった。「自民さんは耄碌したようだ。もっと若い人が船長になるべきだ」という声が大きくなった。

Makoto Natsume @Batesonian

２）そこで乗客による投票が行われ、「民主」さんという若い人物が新船長に選ばれた。早速、民主さんはどの航路が最も安全かを研究し、その成果をもとに「航路の変更」をスタッフに命令した。スタッフは「分かりました」と答えた。

Makoto Natsume @Batesonian

３）ところが、航路変更を命令して時間が経つにもかかわらず、航路がほとんど変化していない事に民主さんは気づく。民主さんはスタッフを詰問するが、スタッフは変更できない理由をノラリクラリと言い立てるだけで、航路を変化させようとしない。

Makoto Natsume @Batesonian

４）民主さんとスタッフとの緊張関係が高まるが、それも長く続かず最終的に民主さんはスタッフの説得を諦める。逆に、民主さんはスタッフの提言を積極的に受け入れるようになり、前船長が定めた航路をそのまま進み続ける。当然の事、この客船が嵐に遭遇する機会は増え続け、乗客の不満は一層高まる。

Makoto Natsume @Batesonian

５）そこに橋下さんという、より若い人物が新船長候補として手を挙げる。彼は「船長の言う事をきかないスタッフが最大の問題だ。暴力的な手段を駆使してでも、現行スタッフを恭順させるか、彼らを放逐して従順な新スタッフと入れ替えるしかない」と強く主張する。

Makoto Natsume @Batesonian

６）周囲の人間が「それは非民主的だからダメだ」と非難すると、「民主的に選ばれた新船長がスタッフに屈服した事実を直視せよ。民主的なやり方（話し合い）が通用しないのは明らか。暴力的にでも航路を変更しないと、この船は嵐で沈没するぞ」と彼は反論する。そして「代案は？」と必ず付け加える。

Makoto Natsume @Batesonian

７）残念ながら代案は見当たらない。「民衆が選んだリーダーの政策をスタッフは必ず実行に移す」ということが民主主義の前提だから、この前提が破られると民主主義は機能不全に陥る。民主主義が機能していないと民主的な解決方法は機能しないので、現状では非民主主義的手法しか機能する可能性は無い。

Makoto Natsume @Batesonian

８）なぜスタッフ（官僚）はそこまで強力なのか？広大な「利権ネットワーク」を使って、船長（政治家）に様々な圧力をかけている点も見逃せない。しかし最大の理由は、スタッフの「交換不能性」にある。船長が気に入らないスタッフを入れ替えようとしても、それは実質上不可能なのである。

Makoto Natsume @Batesonian

９）小型船であればエンジニアを交換することは簡単だ。新任エンジニアはエンジンのマニュアルを見て、その日から業務を遂行できる。しかし、日本丸ほどの大型船舶となると、機械関係の全体像を把握するのは非常に困難。こんなに複雑なシステムの運行を安心して任せられる人材など外部には存在しない。

Makoto Natsume @Batesonian

１０）つまりシステムが複雑性を増すと、必然的にシステムの管理者である官僚への依存度が高まる。そして最終的には、政治家が制御できないほど、官僚の政治的権威が増大することになる。官僚の優位性の源泉は「システムの複雑性」にある。

Makoto Natsume @Batesonian

１１）橋下氏はこの点に非常に意識的だ。だから彼は官僚の力を削ぐためにシステムを「単純化」しようとする。彼の政策や提言は（滑稽といえるまでに）単細胞的だが、それは理にかなっている。社会システムを単純化するのに、配慮や深慮は有害。むしろ、小学生でも分かるほど単純な理屈の方が役に立つ。

Makoto Natsume @Batesonian

１２）社会システムを単純化すると、複雑性によって恩恵を受けていた人々（主に社会的弱者）を、当然切り捨てる事になる。だが「このままの航路では破滅→航路を変えるには官僚の打破→そのためにはシステムの単純化→弱者切り捨てはやむなし」と彼は反論するだろう。そして「代案は？」と聞くだろう。

Makoto Natsume @Batesonian

１３）勿論、私にも代案はない。だからといって私は橋下氏に賛同するわけでもない。私が橋下氏に対してもつ最大の懸念は「橋下氏が決定する航路も危険ではないのか」というものである。より詳しく言えば、「安全な航路がこの期に及んで存在していると考えるのは、甘いのではないか」という思いである。

Makoto Natsume @Batesonian

１４）恐らくどの方角へ行こうと、日本丸の未来には嵐が待ち受けている。だから、航路の選択ではなくて、「日本丸という単一の船に一億人以上が同乗していること」が問題なのだ。一つの船に乗って運命を共にしてしまう必要がどこにあるのだろうか？　

Makoto Natsume @Batesonian

１５）救命ボートに乗り換えて、各々が信じる方向へ手漕ぎで進んでいけば、何割かの運のいい人々は助かることだろう。それが現状では最も現実的な方策であると私は思う。橋下氏が「俺は日本丸を抜ける。大阪丸に乗り換えて、好きな方向へ進むぜ」と言うのなら、彼を応援する気にもなるのだが。（了）