『博士と弟子』（第24集）

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『バッコス薬』！　これで少女は多くの人を酔わせることができる！」「博士。多くの人を酔わせることは気持ちのいいことかもしれないけれど、それではその中心にいる少女は悪酔いするかもしれない」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『二週目薬』！　これで少女は新しいルートを開拓する！」「博士。たしかにゲームだったら、二度目のプレイで新しい道を発見するかもしれない。けれどね、博士。少女はゲームを遊ばない。過去は再び訪れない」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『ここではないどこか薬』！　これで少女は“ここではないどこか”へと旅立つ！」「博士。それは楽しそうですね。けれど、それって、行ったら行ったきりですか？　もちろん少女は帰って来られるんですよね」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『嘆願薬』！　これで少女は欲しい物を欲しいと言う！」「なるほど、博士。欲求を表現することは大事かもしれない。けれどさ、博士。欲しい物を欲しいと言わない少女はどうして欲しいと言わないのでしょうか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『AR薬』！　これで少女は立体になったキャラクターを見る！」「博士。たしかに好きなキャラクターが立体になったらそれを抱きしめられると思うかもしれない。けれど、抱きしめられない。それは幻想なんだ」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『スマッシュ薬』！　これで少女は思いを相手にぶつけることができる！」「博士。その一打はとても重い。重すぎて、相手を潰してしまうのではないでしょうか。恋って、思いと思いの勝ち負けじゃないですよね」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『認知薬』！　これで少女は恋心を自覚する！」「博士。たしかにそれは大事なことかもしれないよ。けれどね、博士。気づき始めた恋を認めまいとしておかしな振る舞いをする少女をあなたは見たくないのですか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士が薬を廃棄した。もうこれで何度目だろう。いくつもの薬が廃棄の憂き目にあってきた。私は彼に聞いたことがある。「博士は廃棄するために薬を完成させるのですか」「まさか」「なら、どうして」「思いは目的を手段として使う」博士は割れたビンの欠片を手に取って光にかざした。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士が眠っていた。当たり前だけれど、彼だって眠るのだ。男の人が眠っている姿は不思議だ（たとえ、それが博士でも）。博士の寝顔は憑きものが落ちたようだった。眠ったままのほうが彼には幸せなのかもしれない。「起きて下さい、博士」私が声をかけると博士は目を覚ました。「ん」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『遅延証明薬』！　これで少女は遅刻しても怒られない！」「博士。たしかに授業中の教室に遅れて入るのって忍びないですよね。けれどね、博士。遅刻してはいけないと自分を追い込む少女は見ていられません」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『ジグソー　』！　これで少女は少年に空いた　を埋める！」「博士。それでは少女は少年の穴の　に合わせて自身を変形させるのですか。だったら、少女に　いた穴はどうなるというの」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」 （形　薬　穴　空）

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#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『退屈薬』！　これで少女は退屈な日常を体験する！」「博士。何でもない日常と退屈な日々はたぶん違うよ。何でもない日常を送るためには、少女だって戦わなくちゃいけないんだと思うし、きっとそうしている」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「英雄ってなんだと思う？」「博士。英雄なんてお話のなかにしか存在しない」「それでいい」「英雄。それは何かを成し遂げた人だと思います」「なるほどね」「博士の意見を聞かせてください」「さぁ、俺にはよくわからない。ただ、それは実在してはいけない」私は博士の顔を見た。

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#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『書籍化薬』！　これで少女は一冊の本になる！」「博士。たしかに、少女は誰かに本として読まれたいのかもしれないし、あなたも本になった少女を手元に置きたいのかもしれない。けれど、本は涙を流さない」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『通常薬』！　これで少女は通常版だ！」「博士。まぁ、たしかに、少女だって自身の特別性に辟易しているかも知れない。けれどね、博士。特別でない少女なんていない。普通でない少女がいないようにね」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『ハードル薬』！　これで少女は越えるべきハードルを見つける！」「博士。まぁ、たしかに。目標が見つかる、というのはひとつの励みになります。けれど、あなたは少女からハードルを探す過程を奪う気ですか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『無傷薬』！　これで少女には傷がつかない！」「博士。傷のない少女なんていないんですよ。みんな多かれ少なかれ傷ついている。その傷を見て見ぬふりしても、余計傷が痛むだけだよ」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ――っと、どうした」「ねぇ、博士。『こんなこと』、どうして何度も続けられるんですか。人は意味のないことには耐えられないんだ」「そりゃあ、きっと、俺にとってはなにかしら報いがあるからだろうさ」「報い」「なぁ、悪いことって気持ちいいだろう」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『たらちねの薬』！　これで少女は〈母〉になる！」「博士。たしかに母性を発揮した少女を私も見てみたい。けれど、それは危険です。少女だけでなく私にとっても。私は少女を〈母〉の代わりにしたくはないよ」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士は蝶をつくった。蝶ははじめ、迷っているように博士の手のひらに留まっていたが、博士が息を吹きかけると、ようやく羽ばたきだした。私は蝶の行方を目で追った。蝶は部屋の中をあちこち廻った。しばらくすると、蝶は置いたビンに入った。博士はビンを閉じた。蝶は液体に戻った。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『傷口薬』！　これで少女はこころの傷をからだの表面に浮き上がらせる！」「博士。たしかに、それで少女は傷を見せられるかもしれない。けれど、あらためて少女のからだに傷をつける必要ないじゃないですか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『ｍ９薬』！　これで少女は自分を見つめる人を指さすことができる！」「どきっ！　私、少女に指をさされたい！　けれどね、博士。少女はそんなことをしなくてもいい。ただ、見つめ返すだけでいいんだよ！」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士は『リミテッド薬』を廃棄した。けれど、私は彼の行いに納得しない。しかし、それについて、どう聞いたものか。すると、博士が私の視線に気づいた。「ん、どうした」それで彼に聞いた。「あなたは何をつくろうとしているんですか」博士は静かに笑った。私は彼の微笑に呑まれた。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『現実薬』！　これで少女は現実に存在する！」「博士。たしかに自身の存在を疑う少女だっているのかもしれない。けれど、博士。現実を学ぶのは少女の役割だ。あなたにできるのは少女を信じることではないか」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『ネーミング薬』！　これで少女は己の特殊技能に適した名前をつける！」「博士。たしかに少女は奇妙な現象に名前をつけたいと思うかもしれない。けれどね、博士。好きな人と名前を考えるのも楽しいですよね」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」