同題SSGSまとめ(5/8～6/7)

朱羽 @blackxorange

牛肉のレアなんて殆ど生肉だ。噛み締める度歯の間から肉汁と血の味がする。美味しいのかとコウを見れば満足そうな顔をしていた。血の味でいいなら幾らでも俺を噛んで良いのに。太股の内側なら多分柔らかい。肉を噛むコウの歯が俺の皮膚に食い込むのを想像して背筋がぞわりとした。/肉 #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

ルカの肌は白い。俺が色黒なのもあるが互いが互いの色を引き立てあって余計に差があるように見えた。薄っぺらい皮膚一枚の差だ。だから大差のない内側を欲する。皮膚じゃない内側、俺と同じ血の色をした肉が欲しい。俺の欲望を知っているようにルカは肉色の舌で唇を舐めた。/肉 #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

コウは機嫌が良いと卵料理を作る。多分本人は気付いてない。だからこれは無意識の行動だと目の前に置かれたオムライスと卵スープを見る。泣き過ぎて腫れた瞼の痛みが消える。一口掬いながら昨日と同じ言葉をコウの背中に投げかけた。「好き」卵料理は同意の返事だと信じておく。/卵 #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

上着に腕を通した途端甘ったるい匂いが鼻を突いた。アイツまた着やがったのか。忌々しく思いながら単車の鍵を片手に扉を開ける。流れ込む朝の空気と共にまた甘い匂い。本人がいないのにルカの気配だけする上着は何て煩わしいんだ。甘い匂いとそれを気にする自分に舌打ちが漏れた。/着 #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

地面が凄く冷たくて静かな波の音がして、記憶がざわついた後、帰るぞってコウの声が聞こえた気がした。視線を上げてもキレイな星しか見えない。独りで見る星はこんなに悲しいものだったのか。迎えの来ない夜空は、こんなに悲しいものだったのか。滲んだ視界に星が瞬いていた。/星 #同題ssGS

朱羽 @blackxorange

ポルックスは不死の身体を捨てて死んだ兄カストールの元に行った。神として永遠が約束された命を捨ててまで不完全な自分の元に来た弟をカストールはどう思ったんだろうか。隣で眠るルカを見る。相反する感情に頭が割れそうだ。あぁきっとカストールも同じ気持ちだったに違いない。/星 #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

ルカを守りたかった。ヒーローでいたかった。泣かせる奴は容赦なく殴ったし友達が離れて行くのも別に構わなかった。けどそれは俺のエゴだったんだろう。入院着に隠れたボロボロの身体を見る度その事実を突き付けられる。ガキの頃振り翳した正義の拳は思い出ごと薄汚れていた。/清/濁 #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

今思えばイカレてるとしか言いようがないが初めてルカに会った時俺は奴を天使だと思った。教会で賛美歌を歌う姿は想像する天使そのものだったからだ。今でも面影がない訳じゃない。それでもルカが吐き出した白濁色の体液を見る度俺と同じ浅ましい人間だと確認出来て安堵した。/清/濁 #同題ssGS

朱羽 @blackxorange

アダムとイブが林檎を食べたから人間は産まれながらに罪人らしい。だから寿命がある…確か。オマエもコウも俺を危なっかしいと言うけど別に死にたがってる訳じゃない。屋上一周はしても飛び降りたりしない。ただ足を踏み外したらその時は呼ばれるまま神様の所に行く。それだけ。/しん #同題ssGS

朱羽 @blackxorange

「待ちなさい」帰ろうとした時氷室っちに呼び止められた。今日はまだ悪い事してない筈。向き直る俺に咳払いをして差し出されたのは小さな包み。「問Xを解いた生徒への褒章だ」「やった」受け取ったその手で袋を開く。転がり出てきたシャーペンの芯に引き攣った笑いが漏れた。/しん #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

両親の所へ行けますように。そう願っていた。だからサクラソウを探した。連れて行ってくれと願っていた。なのに今俺の願いは変わっている。『二人を忘れませんように』そう願ってしまう程今いるここに欲しいモノがある。でもそれを両親に聞かれたくなくて神様には祈らなかった。/願い #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

欲しかったレコードも服も探していた単車のパーツもいらない。ルカが目を開けてくれるなら他は何もいらない。だから神様、俺の願いを聞いてくれ。ガキの頃ルカはアンタに歌声を捧げただろう。傷だらけで眠るルカはそのまま神様とやらに連れ去られそうな程綺麗で酷く不安だった。/願い #同題ssGS

朱羽 @blackxorange

妹の子供を引き取ってから息子の様子がおかしい。風呂に一緒に入れと言った途端怒ったりかと思えば服を買ってやれと言ってきたり。やはり複雑なのか。ある夜息子が小さな声で言った。「ルカは弟なの？」頷き返すと彼は肩を落とす。初恋だったのねと妻が呟いて男として同情した。/こい #同題ssGS

朱羽 @blackxorange

「嵐さんってやっぱすげーわ。オレ追い付ける自信ない」「簡単には負けてやらねぇ」「一生無理かなー」「…でも、負けるならおまえに負けるんだろうな、俺。そう思う」「…それ、どういう意味か分かってる？」「…」「もー天然なんだから…」「バカ言うな。わざとだ」「へ？」/こい #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

お兄ちゃん、と呼んでみる。コウの眉が寄って萎えるから止めろと怒られた。知ってる。だからわざと言うんだ。「お兄ちゃん」「止めろって言ってんだろ」欲情した男の顔に混じる兄の顔。あぁ確かに俺は今、コウに抱かれているのだと確認する。それ以上に興奮する事なんてない。/こい #同題ssgs

朱羽 @blackxorange

WBの跡地には性懲りもなくまた飲食店が建つらしい。今度は道路と海沿いに相応しいサーファーとバイカーが近寄れるような形になるとか何とか。建ったらまた来よう。何も無い更地は北海道の実家を思い出す。潮風に乗って両親の声が聞こえた気がして、俺はこっそり涙を拭った。/無 #同題ssGS

朱羽 @blackxorange

無花果。そう書かれたプレートをコウが難しい顔で眺めていた。卵大の実を見上げてまたプレートを睨む。「イチジクって読むんだ」横から言うと驚いたようにはぁ？と言われた。国語はコウの方が得意だ。でも花の事なら俺の勝ち。悔しそうなコウの顔が珍しくて俺は声を上げて笑った。/無 #同題ssgs