ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/05/12

橘　颯 @so__w

此処に取り出したるは涙袋。大きければ大きい程、我慢が利きます。女性は小さく縫い縮めれば、易く真珠の珠を零せましょう。其れとも手前に売りたいと仰有る。すっかり取ってしまえば、最早泣かずには済みますがね。御薦めは致しません。二度と戻せやしませんし、心毒が溜りまさぁ。 #twnovel

@K_Ichida

#twnovel 眠れぬ人に睡眠を売る寝売り屋。夢すら見ない心地よい眠りを与える。苦しみや悲しみを感じない安寧の時間。もちろん喜びも感じないが、苦しむよりはずっとマシと人々は考えた。やがて寝売り屋は終わらぬ眠りを売り出し、人々はこぞって眠りを買った。終わらぬ眠りは死と知りつつも

☯️青山藍明&トトちゃんとラブちゃんとリズさん @rangming

私の家は、黄色いテープで囲まれて、誰も遊びに来てくれないの。ママは胸に真っ赤なお花を飾って倒れていて、パパは首に真っ赤なマフラーを巻いている。私は頭に真っ赤な花飾り。きれいにおめかししたのに、誰も遊びに来てくれない。ねぇ、あのテープ、なんて書いてあるの？ #twnovel

layback @laybacks

今朝ミンチ肉にされた。もう死んでいるはずなのに、グラム88円で売り場に出ているのに、なぜかまだ意識が残っていた。しかもだ。他の肉と混ぜられているから堪らない。おれの意識に牛や豚が紛れ込んでくるのだ。こいつらときたら餌のことばかり考えやがって。全く浅ましい連中だ。 #twnovel

あまたす @amatasu

あなたには人の心がないの？　彼女は大きな声でそう言って、部屋を出て行った。僕は博士に質問した。博士、人の心とはなんですか。すると、博士は猫を一匹連れてきて、彼に教えてもらいなさいと言った。人の心は猫が教えてくれるのか。博士、猫の言葉はロボットでも理解できますか。 #twnovel

ぼろいねこ讃 @nekoboro

庭に虫がたくさん集まっていたんだ、夏の朝にね。死骸でもあるのかと思って、虫の集ってるあたりを一所懸命見ていたんだけどね、特に何もないんだ。気味が悪いから見るのをやめて、その晩、妻にそのことを話したらね、妻はいっぺんに散った。家までも。すべてが虫だったんだ。#twnovel

塩中 吉里 @shionaka_kiri

#twnovel どんがしゃん！　どんがしゃん！　ロバに荷車を牽かせて、魔法使いの女の子が荷台の上でがらくたを打ち合わせます。どんがしゃん！　あぜ道を進む一人と一匹の周りに、やがて人ならざる影らが集まってきます。どんがしゃん！　どんがしゃん！　不思議な一行は一路街を目指します。

塩中 吉里 @shionaka_kiri

#twnovel 旅を終えたものだけが地に横たわる権利を得る、という妄想にとりつかれた男が、旅の終わりを探して、早歩きで歩き回り、かかとを、すねを、膝を、股を、胴をすり減らし、指を、上腕を、肩をすり減らし、首を、顎を、額をすり減らし、独特の足跡だけが、いまなおどこかに続いている。

夢名 七志 @mumei7c

尾行中の標的が予定通り進んでいる事を確認し路地に入った。坂を駆け上がる。日頃から鍛えていなければ、先回りするのは困難だろう。待機地点で心拍を上げ頬を上気させる。多少の運動では変わらないから、これも訓練で得たものだ。眼鏡を掛けパンを咥える。来た。「遅刻しちゃうー」 #twnovel

奥村木漏日 @komorebitonatu

6歳の時に亡くした母が夢に出て来て、重くて堪らない、と言う。よく見ればなるほど重い筈で、手首にはブレスが、首にはチェーンが、耳にはリングが幾重にも重なっている。それらは、僕が毎年の母の日に贈った空想の宝飾だった。母よ、明日はジュエリーボックスをお贈りします。 #twnovel

miecha @miechorz

#twnovel 味が分からなくなり食欲がなくなった。味の違いがないなら何を食べても一緒としか思えず欲求が消えたのだ。ヤケになって娘が小麦粘土で作ったケーキを食べたら、粘土の割にイケた。見た目と食感のミスマッチが面白くて片っ端から食べたら腹は膨れたが、食欲は復活しなかった。

layback @laybacks

月が雲に隠れた瞬間、一斉に本が飛び立った。羽音に驚いた黒猫が目を丸くする。本の群れは空を覆い尽くし大海原のように波打ちながら遥か南へ下ってゆく。みしりと地面が軋んだ。図書館の身体が持ち上がる。図書館はぎくしゃくとした四足歩行で本の群れの後を追い、霧の中へ消えた。 #twnovel

茶屋 @chayakyu

青空の下、向日葵が咲いて、雪解けの中をまだら模様のうさぎが飛び跳ねている。誰もいない街を訪れた旅人は、日付のない新聞をぼんやりと眺める。色あせた選挙ポスターの老人が張り付いた笑顔を浮かべ、過去になった未来について語っている。蝉の声は聞こえず、抜け殻だけがある。　#twnovel

おぼろちゃん @oboroose

#twnovel 夕暮れの薄暗い花壇に、女の子がしゃがみこんでいる。「何を植えているんだい、それは球根だね」ぼくの問いかけに女の子は振り向くことなく、風にこすれる葉音のような声で応えた。「父と母、それと弟を、埋葬しています」女の子も球根となって、自らが掘った穴に、コロリと落ちた。

すわぞ @suwazo

#twnovel 明け方、馬小屋に行くと馬が荷物をまとめていた。トランクに飼い葉を詰めるだけ詰めて、突っ立っている僕に微笑む。「やっぱり行っちゃうの？」「長く居すぎたからな」馬は泣きそうな僕の頭を優しく撫でる。「立派な牧場主になれよ、坊ちゃん」「……行かないでよ」僕は涙を堪える。

日比谷あひる(癌治療中の為低浮上) @hibiyaahiru

あなたの素敵なところを、全部殺菌済みの小瓶に密封して涼しい日陰の保存庫に並べておきたいわ。一つ一つお似合いのラベルを貼って、時間が許す限りずっと眺めていたいの。真っ黒な瞳に、骨ばった長い指に、薄い色の唇。左右で形の違う耳も素敵。全部細かく分けて飾っておきたいの。 #twnovel

らし @rashi_catwillow

#twnovel （お助け下さい）テントウムシは嘆願した。（私の背には195の国があり70億の人間が住んでいます。私が死ねば彼らはどうなってしまうでしょうか）テントウムシの翅は青く美しかった。昆虫採集の少年は満足げに籠を閉じると、足早に山を降りた。燃える夕暮れ。嘆くような風の音。

wacpre @wacpre

プロポーズされるなら花束がいいな。彼女がそう話しているのを耳にしたので、花を探しに行った。黄色い花が目についた。花言葉なんて知らないけど、きっと喜ぶはずだ。 #twnovel 急にたんぽぽの花束をもらってビックリした。ませてはいるけど、やっぱり子供には可愛らしい一面もあるものだ。

いでゆのまち @ideimachi

#twnovel 窓の向こう、空っぽの下りホームに人影が立った。ステッキをひと振り、ぽんと白い花が咲く。指先から花びらがあふれ、吹雪となって線路に舞う。見送りありがとう。ありふれた手品でも、あなたはずっと私の魔法使いだった。上り最終の新幹線は動き出す。故郷と、幼なじみが遠ざかる。

藤原ヒヨリ @HiyoriF101

「つまりつまりここに私はいるけどここに私はいないのです」彼女は両腕を広げ踊るように軽やかにステップを踏みながら唄うように涼やかに紡いだ。「わからない？ わからなくていいわ。私はわかるもの。私もわからないけど」彼女はとても楽しそうだ。そして彼女はとても悲しそうだ。 #twnovel

パンドラちゃん🔞 @bio_jackrose

古びた木造のお遍路宿。部屋の隅には汚い布団一式、中央に小さなちゃぶ台、その上に大学ノートが置かれていた。ノートには後から来た人へのメッセージや旅の情報が書かれていたが、所々に塗りつぶされたものが幾つかあった。「気に▓▓▓▓た」…「気になるでしょう」と声がした …#twnovel

咲良 潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

『今から帰るから迎え頼む』突然彼からメールが届いた。同じ部活の彼。みんなで携帯のメアドを交換する流れで彼のも教えてもらった。それだけで舞い上がってたのにこんなメールが来るなんて。するとまた受信。『悪い。親に送ろうと思って間違えた』まったくもう。取り敢えず保存…と。#twnovel

毎月14日はツイノベの日！ @twnvday_bot

#twnvday 「お題」を求めている。何故だろう。私は生まれた時から「お題」を求めていた。何のためだ。もちろん、物語のためだ。「お題」の種から大樹が広がり、「お題」の一滴が大海原となり、「お題」の一粒が大地となる。きっと私は信じているのだ。「無限の可能性」を。 #twnovel

塩中 吉里 @shionaka_kiri

#twnovel 二種族は互いに干渉せず自らの星に閉じこもり暮らしてきた。苔生す樹人の星では機人は錆つき、強酸性の雨が降る機人の星では樹人は枯れ果てる。樹人は蔦の橋を見て、機人は鋼の橋を見て、二重惑星の間に橋を架けた自分の先祖を思う。橋の中央で蔦と鋼が絡まっていることは知らない。

橘　颯 @so__w

深夜、廃線路に四両編成の標本列車がやって来る。窓硝子の代わりに飾られた蝶の標本。座席には様々な標本箱が腰掛ける。網棚に寝そべる剥製。吊革に揺れる飛行模型。宛らWunderkammer。しかし最後の一両には、決して入っては不可ない。犇く人形の一人になりたくなくば。 #twnovel