ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/05/16

雨音 @candypeal

あの日も今日みたいな雨だったから、僕は背の高いグラスを持ってパーティに行った。道中の雨粒を集めて君へのお土産にすると、素敵、炭酸で割ろうって笑ってくれた。あれから景気も悪くなり、あの華奢なグラスはもう無いけれど、今日も君と二人、お揃いの湯呑みで雨を飲んでいる。 #twnovel

おぼろちゃん @oboroose

#twnovel 青年はなくした靴をさがして歩き続けていた。ハイヒールはなくした主人をさがして歩き続けていた。浜辺しかない時代のある日の出来事である。青年とハイヒールはたまたま出会った。ちょっと照れながら挨拶をした。しばらく見つめ合っていたが、それぞれがまた別の方角へ歩き始めた。

unkofree @unkofree

「探偵として初めて解決した事件はどんなものでしたか？」「高校の頃ですがね、麻雀のマットになぜいつもチン毛が落ちているのかという話になり「それはチン毛じゃない！腋毛だ！」と看破したのが原点でしょう。すべてはチン毛からはじまったのです」「ありがとうございました」　#twnovel

七歩 @naholograph

君は最近東京行った？すれ違いざま美女が訊く。行っとらんよと答えると、僕の耳に唇を寄せた。実は東京ってもうないの。TVがネットの後追いだって思ったことはないかしら。ネットで作った妄想を集めてTVが東京を造るのよ。面白い話だ。TVと千鳥足の君、僕はどちらを信じよう。#twnovel

tokoya @tokoya

#twnovel 北風と太陽が、旅人の上着を脱がせることができるか勝負をした。まず北風が力一杯吹いて上着を吹き飛ばそうとしたが、ダメだった。次に太陽が燦燦と照りつけたが、旅人は上着を脱ごうとしなかった。北風と太陽は愕然とした。旅人は涼しい顔で、太陽光と風力発電施設を眺めていた。

しぃとろん @seatoron

「冗談禁止令」が制定された国民は、常に真実を口にしなくてはならない。まぎらわしいことは罪なのだ。皆無口になった。笑いが消え、ラジオでこっそり外国の放送を聞く者が増えた。笑いを求めて海外移住者が増えた。空っぽになった国で官僚がつぶやく。「これは何の冗談だろうか…」 #twnovel

かなりひこくま @kanarihikokuma

ぼくらは行進していた。先頭は見えない。最後尾も見えない。長い長い、険しい道だ。ぼくは行き先を尋ねるが、老人は答えない。行き先は死だね、とぼくは云う。老人は肩をすくめ、さぁね、って仕草をつくる。ぼくは少し愉快になり列を離れた。ただ行進の全体を眺めたくて。 #twnovel

N.T.Works/凪司工房＠介護生活中 @nagi_tter

#twnovel 今日子さんはあだ名をつける。「虎次郎とって」それは孫の手。「正太郎おねがい」それは醤油差し。「最近素敵さん見ないよね」それは近所のコンビニの店員。「ねえ今日子さん。僕にも何かあだ名をつけてるの？」「内緒」「教えてよ」「だから内緒。それが君のあだ名だよ」と笑った。

すわぞ @suwazo

#twnovel 卵が孵るときは内側から割られなければならない。外側から割られたら卵は死んでしまう。さて、ここに一人の男がいる。手にした小さな卵を、割った。卵は割られた。卵がぶじ孵るためには内側から割られる必要があり、それゆえにこのとき、男がいる側が内側と定められる。世界が孵る。

miecha @miechorz

#twnovel 僕の名はユダ、と口上を述べようとしたら氷に止められた。「あなた、ずっと勘違いしてたのね。あなたの名前は──」　なるほど、ならば改めて名乗ろう。水の眷族でありながら重力の鎖から逃れ宙を舞う権利を得た裏切り者、僕の名は湯だ。

ひょうたん鯰 @hyou_namazu

ピーチを食べると顔が赤く腫れるという、桃アレルギーの男に、上司が朝のスピーチを命じた・・このアレルギー、言葉にも過敏に反応することを本人さえ知らなかった。命令を聞くや顔中に発疹が広がり、膿混じりの血が噴きだした。1時間後、男は死亡、上司は殺人罪で逮捕されたとさ。 #twnovel

キヨシロウ @kiyoshiro_aoi

#twnovel 念願の機械の身体を手に入れた私は有頂天だった。もう怖れる事など何もない。そんな私の前に男が現れた。「長い入院生活の末亡くなられた場合には稀にあるんです。もう大丈夫ですよ。エイッ！」病室の生命維持装置にとり憑いていた私は祈祷師の一喝で祓われた。

雪月 @setugetufuka

彼女が水槽を買ってきた。砂利を敷き、水草を植え、濾過器を設置し、暇があると眺めているのに、一向に魚を入れようとしない。理由を聞くと、彼女は真紅の唇に人差し指を押し当て「内緒よ」と笑う。 #twnovel ある日、突然彼女が居なくなった。いつ入れたのか、水槽に真紅の魚を一匹残して。

@K_Ichida

#twnovel 君が僕にやさしいのは、特に感情を持っていないからだ。僕のすることで心を痛めることはないし、苦しむこともない。「とりあえず嫌われたくない」それが僕への気持ち。僕が告白すると「うれしい。でも困ったわ」と君はやさしく微笑む、全く困っていない表情で。

layback @laybacks

小さなおっさんは台所でお茶碗のお風呂に入っている。突然悲鳴が聞こえた。慌てて様子を見にゆくとおっさんは前も隠さずに立ちすくんでいた。「どうしたの？」「出たんや。あの虫が」「そう。もうそんな季節ね」私は粘着式の罠を仕掛けた。「おっさん」「なんや」「掛からないでね」 #twnovel

@K_Ichida

#twnovel 『ちやほや』の実をあげるとみんなが喜ぶ。みんなにあげていたらなくなってしまった。僕は僕のために『ちやほや』を育ててくれる人を探さなければならない。でもみんな自分のためにしか『ちやほや』を育てない。『ちやほや』を持たない僕は途方にくれ、失うことしかない旅に出た。

夢名 七志 @mumei7c

焦っている。一週間を切ってプレゼントがまだ決まらない。日付だけ伝えて、時間は前日で良かったのに。つい、朝だからって言っちゃった。「えーっ、何。金環食に合わせて、太陽にかざした腕を下げて、指輪を君に。なーんてベタじゃないよね」って、そのままじゃんか。何か代替えを。 #twnovel

黒目ソイソース @ghostsoysauce

郵便受けを開くと、何頭もの揚羽蝶がひらりひらりと舞い出てきた。ぎょっとする間もなく、掌に淡く湿った冷たい朝顔の花が溢れだす。愕然としていると、まばたきと同時に揚羽蝶も朝顔の花も消え去った。「もう夏の便りかあ」二階の窓から鶺鴒が嬉しそうに笑っている。#twnovel

23時の夢物語 @23novel

#twnovel 本屋でドラゴンが迷子になっていた。黒い雷を放っても、鋭い牙で噛みついても、だれも見えていないらしく、でかい図体でおろおろし始めた。仕方がないので声をかけ、元の物語をいっしょに探している。たとえ魔王でもちょっと可哀想すぎた。がんばって追い出した勇者たちよ、ごめん。

らし @rashi_catwillow

#twnovel 雨が降ってきたので傘を買った。ずぶ濡れの小鳥が飛んできて僕の左肩にとまった。もう一羽、右肩にも飛んできた。二羽は一目で恋に落ち、僕の頭に愛の巣を作った。春が来るたび家族は増えて傘の中には歌声の雨。賑やかで楽しい。待ち合わせの時間を過ぎても全然来ない君のおかげだ。

碧 @mimimdr

自分の事が嫌いだと言って君は泣く。僕が黙って隣にいると、止まらない涙で海が出来る。泣き止んだ君の海は温かい。君がまた泣き出して波が起きる。僕は君の温もりの中で静かにたゆたう。#twnovel