ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/05/17

橘　颯 @so__w

彼岸と云う物は、とどの詰まり行き着いた向こう側を指す。ひがんの末尾。んの字は終りの一文字だ。では、彼方と此方の始まりは何処に在るか。其れは先の二文字が示している。ひが。換言すれば彼我。人二人の間に境界は生まれる。故に其処は奈落だ。――斯くて男は地の罅割に落ちた。 #twnovel

夢名 七志 @mumei7c

どうなってるの、この街は。何十回目だろう坂の路地を上がるのは。目が霞む。前の学校は良かったな。朝食を食べて出るんだった。最初は猫。次からの順は覚えてない、幼稚園児、狸、レミング、転がるドラム缶、暴れ馬。最後にしよう。咥えるパンも眼鏡もぼろぼろだ。どうせ遅刻だし。 #twnovel

ぼろいねこ讃 @nekoboro

ぱちん、という音で目が覚めた。爪を切られていたのだ、眠っている間に。ああ起きた、と残念そうにあなたは言った。もう少しで終わったのに、と悔しそうだった。そのあとも、ぱちんぱちんと音が鳴って、怖かった。冷たすぎる手が一心不乱に爪を切る。あれは身を切られるようだった。#twnovel

jazzztop @jazzztop

新聞を畳んで立ち上がったところにふらりと男が入ってきた。もう閉めようと思ってたんだが。私がそう言うと、男は一杯だけ頼むと言ってスツールに腰を下ろした。あんた酷い顔してるぜ。ああ、今夜は散々だったからな。一息に血を飲み干した男は、蝙蝠に姿を変え、窓から飛び去った。 #twnovel

ておまさお @teomasao

遠い未来。「ママ！ ボクのライブラリの本がなくなってるんだけど」「そういえば今朝、政府が有害図書の一斉削除をしたらしいけれど、まさかそれじゃないわよね？」「ち、違うよ！ 本が紙の時代はこんなことなかったのに」「アンタ、紙の本なんて見たことないでしょう」 #twnovel

よしのちほ @chiho_yoshino

ふわりとしたスカートが、歩くたび柔らかく揺れる。踊り子にでもなったみたい。ゆらゆらふわふわくるりくるり。きれいに回るコツは、ギリギリまで目線を残すこと。そうよ、目をそらさずに笑顔で演じきってみせる。今日の役どころは、花嫁の親友。そしてもうひとつ。花婿の共犯者。 #twnovel

Hiroyuki inoue @hiro_kinako

#twnovel 重要性の低い能力値を減らし仕事用途に割り振る。体内のリソース見直しを図り、私は昇進した。しかし…愛妻弁当を口にする度申し訳なく思う。味覚や美的感覚を削除した為に味が分からないのだ。せめてもの償いに朝のゴミ出しを買って出る。最近生ゴミが減った気がするが何故だろう。

日向日影🍊📖@文化系物書きVtuber（HUB） @hyuugahikage

#twnovel 詩人は逃げる。歴史家はもう捕まった。社会は彼らを望んでいない。書き換える前の歴史を知る者、世界を彩る言葉を紡ぐ者、この完璧に直線的で単純な社会に、複雑で混沌と生命感に溢れた裂け目を与える存在を支配者は憎んでいた。人が人のままあることを禁じなければならないと。

ちゃーち @churchdevil

妖怪37ページは37ページを集めている。児童書や古文書、辞典からタウンページまで色とりどりの本・雑誌の37ページだけを切り取り、独りで住むには広すぎる古屋敷の壁を埋めている。たった一枚、死んだ夫がつけていた日記、破れて無くなっている37ページを探し求めている。 #twnovel

すわぞ @suwazo

#twnovel 猫は衣装箪笥の上で眠る。ふいに箪笥の戸が開き、中から男が出てくる。魔女が出てくる。子鬼が出てくる。兵士が出てくる。剣を槍を盾を持った兵士が次々に何百と何千と列を組んで出てくる。兵士と共に流れこんだ冷たい冬の空気に、猫はぶるっと震えて体を丸める。戦争がはじまる。

Shinichi Sugiyama @chez_sugi

こんな風が吹く夜には、文法の法と時制が混乱して、あちこちの酒場では、あり得ない未来の思い出話に花が咲くだろう。この花は比喩のくせにちゃんと花びらがあって、致死性の花粉を撒き散らす。でも心配ご無用。酒場も花もあり得ない未来に属するものだから。もちろんこのお話も。 #twnovel

銭喰 @zeniqui

#twnovel オフシーズンの獅子舞がスターバックスにいたので「あっ、獅子舞だ！」と声を上げてしまった。しかし獅子舞は気怠そうな目をしながらも「くっちまうぞーっ」とカチカチ歯を鳴らした後、「獅子舞は行事の名前だから、いまの俺は獅子、な？」と言ってサインしてくれた。意外といい人だ

miecha @miechorz

#twnovel その門を見ると誰もが不快になった。調査により、門はわずかに傾いでいたと判明。「分度器をあてがうと分かりますが……このとおり。木はまっすぐ立ちますから、誤差分、気持ち悪くなります」「それは間違いだ」別の学者が隣の木に分度器を当てる。「木のほうが垂直とは程遠いんだ」

雪月 @setugetufuka

規則正しいメトロノームの音に合わせて僕らは踊る。なのに全然息が合ってないのは、君が三拍子で僕が四拍子だから。肝心な事を見ない振りして、僕らは強引に踊り続ける。君は転ばないよう足元ばかり、僕はちゃんと同時に踊り終えることができるだろうかと、そればかり気にしていた。 #twnovel

塩中 吉里 @shionaka_kiri

#twnovel 耳の奥で鼓動がドコドコいうので、探してるのはこれかいと湯気のあがる白飯を出すが、まだドコドコいうので、探してるのはこれかいとしわだらけのお札をかざすが、まだドコドコいうので、探してるのはこれかいと言って自分自身を抱きしめて、まだドコドコいうので、鼓動を止めた。

layback @laybacks

かたつむりと目があった。いい家にお住まいですね。わたしの家と交換しませんか。かたつむりはいう。なぜか承諾してしまった。おれは巻き貝から顔だけを出して紫陽花の葉の上でまどろんでいる。かたつむりはというと散歩に出たようだ。犬小屋があった場所には水たまりができている。 #twnovel

キヨシロウ @kiyoshiro_aoi

#twnovel とある文学賞を受賞した私は文筆業一本で喰っていこうと決め長年勤めた会社を辞めた。すると妻が『約束が違う』と怒り出した。「不自由な思いはさせないから」「そういう事じゃないのよ」妻の怒りはおさまらない。「結婚する時に誓ったじゃないの。お互いカクシゴトはしないって！」

橘　颯 @so__w

迷い子の森に訊ね人。涯遠き湖の上、蓮の道をぽたぽたと歩む。紙鳥は白い翼を閃かせ、黒い言葉を啄んでは水面に落ちた。魚はるりるり泣いては灰色の羽を呑む。吐き出す泡沫は鈍色の玉。転がる先に探し人。佇む背に手を伸ばしたら夜は御仕舞。掴めなかった指先が敷布の上で項垂れる。 #twnovel

らし @rashi_catwillow

#twnovel タイムカプセルを開けると中からタイムカプセルが出てきた。一回り小さいのが。えっ、と誰かが呟いた。その中にもカプセル。えっ。その中にも。思い出がどんどん小さくなっていく。あの頃僕らはきらきらした宝物を沢山持ってたはずなのに。掌にのせた最後の箱を開ける勇気が出ない。