幻想戦艦ムサシ 第一話「天界からの使者」

滅亡の危機に瀕する幻想郷。 幻想郷守備隊総司令・八雲紫は幻想郷最後の艦隊を率い、 月人への抵抗を試みるが... ([12]がないのは仕様です)
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けい(ぺんぎん) @k_kirisame

漆黒、静寂の空間を、その艦隊は航行していた。どの艦もくたびれた様子で、サビが目立っている。艦首に白地で大きく「102」と書かれた、ひときわ古びた艦が先頭に立っていた。「現在宙域『無縁塚』。進路に障害なし」艦橋に航海士の声が響く。「進路そのまま。」艦長、古明地さとりが応える。【1】

2012-05-04 23:11:52
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「ゆきかぜより打電。『無縁塚』デルタ宙点通過。未だ敵の艦影なし。」幻想郷艦隊旗艦「きりしま」の艦橋で、紫は顔を顰めた。「月人が私達を放っておくわけはないわ。奥の手がある筈よ....」きりしまの位相配列宇宙レーダーには、ただ彼女の艦隊と、幾つかの宇宙塵が映るばかりである。【2】

2012-05-04 23:20:28
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「...か、艦長、これを..」電測員が唖然としながら叫んだ。「何...これまで反応はなかったの!?」紫の表情に動揺が見えた。それもそのはずである。レーダーには無数の光点が、極近距離に映し出されていた。何時の間にか、艦隊は完全に包囲されていたのだ。「まさか、隙間を..?」【3】

2012-05-04 23:30:57
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「落ち着きなさい...落ち着くのよ。慌てても、何も得はないわ」紫が呟く。「月艦隊より入電です!」「読みなさい」「幻想郷艦隊に告ぐ。直ちに降伏せよ」紫は額に皺を寄せ、振り向いた。「『馬鹿め』と打って御やりなさい」「....は?」「『馬鹿め』よ!」「は、はいっ!」【4】

2012-05-04 23:36:38
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「月軍の大型艦隊を確認、戦艦5、多段空母2、巡洋艦24、駆逐艦多数!」「ゆきかぜ」の艦橋で、電測員が叫んだ。「酷い混み様ね、月人の趣味は同士討ちかしら?」艦長、さとりが目の色一つ変えず呟く。「航海長、全速で艦隊の間を航行するのよ、そうすれば幾らか自滅してくれるわ」【5】

2012-05-04 23:52:19
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「しかし」航海長がさとりに抗議の目を向けた瞬間、緑の閃光が艦橋の前を通り抜けた。「敵の砲撃です!」電測員が叫ぶ。「こちら『しおかぜ』、機関部損傷、出力低下!戦列を離れるわ!」艦内が混乱に包まれる。「つべこべ言っている暇はないわ、やりましょう」「は、両舷全速、黒15!」【6】

2012-05-05 00:00:29
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「VLS開け!CSSM-1発射準備!」「きりしま」では、紫が砲術長に吠えていた。「目標捕捉!CSSM-1発射準備完了!」紫は、遠く-少なくとも人間基準では-で 月の艦隊が発する僅かな光を睨んだ。「っ撃てぇぇ!」「ヨーソロー!」VLSから一斉に宇宙対艦ミサイルが飛び出した。【7】

2012-05-05 04:31:13
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

途端に、緑の閃光が飛んでくる。ミサイルに命中し、哀れそれらは悉く甲板のすぐ上で爆発した。艦橋は激しく揺れた後、照明が壊れ暗闇となった。「敵レーザー砲被弾!前部VLS大破!」「あまつかぜ、航行不能!離脱する!」「前部CIWS、操作不能!」「後部格納庫で火災!シアンガス発生!」【8】

2012-05-05 04:46:26
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「右舷後方に敵駆逐艦!」艦橋の中には紫の血滴が漂っている。熾烈な攻撃は紫の艦だけでなく、紫自身をも傷つけていた。「反転180度、艦首速射砲発射準備!」紫は腕を抑えながら叫ぶ。「ダメです!敵艦速し、反転間に合いません!」これ以上攻撃を受ければ、艦はお終いだ。紫は目を瞑った。【9】

2012-05-05 23:09:57
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「紫の船だわ...酷くやられてる」さとりが、遠くに煙を吹きながら航行するきりしまの艦影を見ながら言った。「右舷前方、きりしま後方に敵駆逐艦あり!」電測員の声。艦橋の窓に目を遣ると、きりしまの背中に高速で忍び寄り、襲いかかろうとする艦が見えた。「撃ちなさい。主砲発射用意」【10】

2012-05-10 22:43:22
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「位相同調光子砲発射準備完了!」「照準合わせ、撃ち方始め!」「サルボー!」ゆきかぜのMk30単装砲の砲身から青い光の束が放たれると、紫のきりしまを追っていた駆逐艦の側面に直撃し、大爆発が起こった。「命中!敵駆逐艦大破!」さとりは汗を拭い、艦橋の窓の外を眺めた。【11】

2012-05-10 22:57:39
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「あと何隻残ってるのかしら」負傷した腕を抑えながら紫が問う。「本艦の他に駆逐艦が一隻」紫が振り返る。「誰の船よ?」「古明地艦長の『ゆきかぜ』です」紫は前に向き直り、目を閉じた。「...、これまでね、撤退しましょう」「撤退...、ですか?」「そうよ。ゆきかぜにも伝えなさい」【13】

2012-05-12 19:51:04
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「撤退ですって?」『ゆきかぜ』の艦橋でさとりが声を荒げた。「未だミサイル基地が叩けてないわ、なのに、帰るなんて...」「さとり、屈辱に耐えないといけない時もあるわ、今は...」アンテナの損傷のせいで、通信が乱れる。「未確認飛行物体確認...、速い!」電測員が声を上げた。【14】

2012-05-12 20:03:00
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

(天界の船..、こんな時に、何かしら...)パネルに映し出された高速艇の映像に目を遣り、紫は呟く。「...さとり、幻想郷には貴女が必要なの、お願い...!」「ふふ、そうかしら?...私だって死にたがりじゃない、貴女の船の撤退のために、少し時間を稼ぐだけ...、必ず戻るわ」【15】

2012-05-13 23:24:47
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「解ったわ...、進路反転、180度。」「面舵」航海長の疲れきった声が艦橋の中で響く。「おもーかーじ!」操舵員が舵を切ると、艦が軋み、ミシミシと音を立てた。「戻せ」「もどーせ!」艦橋の窓に、ゆきかぜの姿が映る。(戻るのよ...)既に敵艦隊はゆきかぜの目の前に近づいていた。【16】

2012-05-13 23:46:54
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「ゆきかぜ、敵艦隊に突入!」レーダーは百余の敵艦の存在を示していた。駆逐艦がたった一隻でその中に突っ込んだとすれば、その結末は想像に難くなかった。「...進路そのまま」紫は俯いた。もう、幻想郷の艦隊は壊滅寸前だ。幻想郷に、そして外の世界、地球に、未来はあるのだろうか。【17】

2012-05-13 23:57:04
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

少し前までは、幻想郷は楽園とも呼ばれる様な、平和と活気に溢れた土地だった。地上には水と緑が溢れ、花が咲き、人間や妖怪、鬼等、様々な種族がそれぞれのパワーバランスを保ちながら、長閑に暮らす場所だった。月面軍による、特殊ミサイルを用いた無差別攻撃が始まるまでは。【18】

2012-05-14 00:06:21
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

事の発端は、原因不明の月面の空間異常だった。それは月の空間を激しく歪ませ、強い磁気嵐を発生させ、月人に多くの死者を出した。異常現象は収まらず、多くの月都市が住むことも能わない情況となった。月人は、これを外の世界の人間の活動によるものと断定し、報復遂行と新天地を求め始めた。【19】

2012-05-14 00:16:06
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

彼らは外の世界へ軍を進めるため、軍備の近代化を急速に図り、幻想郷に大艦隊を差し向け、結界を開くことを要求した。拒否した幻想郷側に、月軍艦艇は無差別で熾烈な艦砲射撃を加えたが、臨時編成された幻想郷守衛隊が能力を用いた攻撃でこれを退けた。その後、彼らは遠隔攻撃に切り替えた。【20】

2012-05-14 00:26:32
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

あの恐ろしいミサイルを用いた、スタンドオフ攻撃である。強烈な威力を持った弾頭は地上を悉く破壊したが、本当の脅威はその弾頭の破壊力ではなかった。彼らのミサイルには、空間を猛スピードで膨張させ、結界を破裂させ、幻想郷を内側から破壊する能力が秘められていたのである。【21】

2012-05-14 00:33:55
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

さらに、幻想郷の急激な膨張は、コンデンサーの極板を引き剥がす様に、幻想郷内の魔力場を弱め、住人の特殊能力や、超人的生命力を奪っていた。魔法物理学者の試算によれば、幻想郷が消滅するまでに残された時間は、あと1年。終わりの時は、刻刻と近づいているのだった。【22】

2012-05-14 00:40:43
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「不時着地点はこの辺り...、ね」赤茶けた大地の上空に、古明地こいしを乗せた小型の偵察ジェット機が飛んでいた。「だぜ」前席で、操縦桿をとっている北白河ちゆりが応える。「あ、ちゆり...、あそこよ!」こいしの指差す先には、パラシュートの残骸と、手を振る人の姿があった。【23】

2012-05-14 23:26:18
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「クロージャ1よりホテル・ケベックへ。目標確認。接触するぜ」偵察機はスキッドを展開し、推力偏向ノズルを地面へ向け、垂直降下を始めた。「あれは、衣玖...?」風にたなびく羽衣を眺めながら、こいしが呟く。「竜宮の使い、ねぇ...」ちゆりも帽子を傾け、その方に目を遣った。【24】

2012-05-14 23:34:24
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

キャノピーを開き、二人は地面へ降り立った。衣玖が羽衣をたなびかせながら走り寄ってくる。「はぁ、はぁ、助かったぁ...せっかくここまで来たのにここでおしまいかと...」衣玖が息を切らしながら言う。「どうして、わざわざここへ?」こいしが、衣玖の擦り傷の様子を見ながら問う。【25】

2012-05-14 23:41:46
けい(ぺんぎん) @k_kirisame

「総領娘様から、御文と御届け物を預かってまいりました...、痛たっ」こいしの塗った消毒液に衣玖が顔をしかめる。「人の体は難儀するものね...、ふぅん、誰に届ければいいのかしら?」言いながら、こいしは衣玖の脛に絆創膏を貼り付ける。「いえ、私が行きます..説明すべき事が少々」【26】

2012-05-14 23:49:18