トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア ＃１
-
- いいね！0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
（親愛なる読者のみなさんへ：本日の連載中に、１８番のツイートが飛ばされるというインシデントが起こりました。これは担当者のタイピング速度が速すぎるために、ツイッター社のメインフレームＵＮＩＸがついてこれず起こるいつもの現象ですので、ごあんしんください。１８番のツイートはありません）
2012-06-09 02:39:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
キョートジョウ・キャッスル内に数多く存在する茶室のひとつ、バンブー・レフュージ。竹林を模した室内には小さな庵があり、白石を敷き詰めた庭には翼の腱を切られた愛玩用のオーガニック鶴たちが三羽、長い脚をしとやかに運んで静かに岩の苔を啄む。タタミに座すのは二人のグランドマスター。 26
2012-06-09 22:01:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
グランドマスターの地位は平等であり、ギルド内に派閥は存在しないことになっている。ニンジャが人類を支配し、ショーグン・オーヴァーロードの末裔たるロード・オブ・ザイバツがその頂点に君臨するニンジャ・ミレニアム実現のために、全てのギルド員は邁進するがゆえ。……くだらぬタテマエだ。 27
2012-06-09 22:08:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
そのくだらなさを最も良く知るのが、この二人のニンジャ……パーガトリーとスローハンドである。彼らはニンジャとなる以前から貴族であった。ギルド内においてソウル憑依前の階級や出自を詮索することはシツレイにあたるが、血の優等性を信じてやまぬ彼らは、息を吐くように派閥を作り上げる。 28
2012-06-09 22:18:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「ここへきて改めてイグゾーション＝サンの死が悔やまれる」「しかも汚名を着せられた上でのこと」……かつてイグゾーションが存命であった頃、彼らの貴族派閥はギルド内で最大の勢力を誇っていた。しかしダークニンジャとニンジャスレイヤーの出現以降、派閥間の力関係は大きく揺れ始めている。 29
2012-06-09 22:27:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「果たして、どこから歯車が狂い始めたか……むろん、ロードの絶対性を疑ってはおらぬが、しかし……」スローハンドが思案する風にチャをすする。「……あの蛇めが、毒の舌でロードの御心を乱しているからでは」パーガトリーが鶴を撫でながら答える。導かれた答えであると自分でも気付かぬまま。 30
2012-06-09 22:36:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「乱れ雲／鶴の羽には／毒の蜘蛛」スローハンドが特殊な作法でチャワンを動かしながら、悠々とハイクを詠む。一見すると、今宵の情景を詠っだけのようにも思える。パーガトリーも同じ作法でチャワンを動かす。蛇、鶴、蜘蛛、そしてこのチャワンの軌跡は、すなわちパラゴンを意味する符牒である。 31
2012-06-09 22:48:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
暗号を使っているとはいえ、危険な内容である。暗黒メガコーポの幹部連中であれば、南極基地の違法プロキシサーバを介した秘密ＩＲＣを利用しただろう。だが、ニンジャソウル憑依者……特に高位のソウルを宿した者は、何故かネット技術に不信感を抱くことが多い。とりわけＬＡＮ直結やＩＲＣに。 32
2012-06-09 22:57:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
加えて、ザイバツは人間に対するニンジャの優越性を礎とするため、サイバネによる能力補完者はさらに評価が低くなる。特に貴族派閥はこれを毛嫌いする。ディセンションの頻発により多様性が増し、サイバネ者も増えたが、ＩＲＣコトダマ空間の存在は未だギルド上層部に認知すらされていないのだ。 33
2012-06-09 23:08:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「イノシシ」「鹿」「バタフライ」「チャが旨い」二人は回りくどいプロシジャを用いながら、パラゴンや他派閥の動きに対して策を講じる。不意にフスマがノックされ、タイホ訓練を終えたケイビインが現れた。二人はケイビインをにこやかに迎え、話題を次期グランドマスター候補の件にすり替えた。 34
2012-06-09 23:25:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「……かようにして、ニンジャに統治された理想世界を作り上げるのが我らの目的」。パラゴンは指先のサイバネ装置から暗号レーザーを照射し、美術品の間のロックを解除した。その縦長の広間には、大英博物館めいて様々な調度品や美術品が所狭しと並べられ、中央には長い赤絨毯が敷かれている。 36
2012-06-09 23:45:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
パラゴンに促され、ユカノは赤絨毯の上を歩いた。カタナ、ヨロイ、ヌンチャク、グンダン、ショドー、ボンザイなどのありふれた古美術品から、ニンジャ水晶ドクロ、黄金スリケン、ファラオめいた大理石像など、古代ニンジャ文明のオーパーツとでも呼ぶべき宝物まで、様々な物品が収蔵されている。 37
2012-06-09 23:52:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
美術品の解説を始めるパラゴン。石造りの広間でその声が厳かに反響する。「こんなものを見せて、どうだと言うのです」ユカノが言葉を挟んだ「そもそも何故、ニンジャが人を支配する必要があるのですか」「獅子が鹿を食い殺すのと同じ理屈……」パラゴンが答える「当然のことであり、喜びである」 38
2012-06-10 00:07:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「加えて、私は真に気高きものが不当な扱いを受けていることが、絶対に許せん」パラゴンは先へ歩みながら続けた「私は完璧主義者だ。世界があるべき姿に戻ることを心から願っている。低俗な人間社会の害毒と科学技術が、ニンジャソウル憑依者となる以前のあの御方を大いに苦しめたのだ……」 39
2012-06-10 00:20:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
今宵のパラゴンはいささか饒舌になり過ぎていた。ギルド員の前では絶対に語らぬ秘密を、かくも軽々しく仄めかそうとは。だが、無理からぬことだ。長年捜し求めていたパズルの最後の１ピースが、こうして手元に揃ったのだから。「……そして貴女だ。何故、正統な権力を取り戻そうとしないのか？」 40
2012-06-10 00:31:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「正統な権力？」ユカノは怪訝な顔を作った。「数千年を生きるリアルニンジャとしての地位」パラゴンが言った「ニンジャ・ミレニアムが到来すれば、当然のごとく、ロードに次ぐ地位として崇め奉られように」「またそのくだらぬ話ですか。私はドラゴン・ゲンドーソーの孫娘……」ユカノが遮る。 41
2012-06-10 00:37:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「父母の名は？」パラゴンがさらに遮る。「物心つく前に死んだ故、聞かされておりません」「貴女の歳は？」「記憶が正しければ、２０と少し」「サラマンダー＝サンらがドラゴン・ドージョーで修行を積んだのは何年前か？」「十数年前……」「その頃の記憶は？」「幼すぎて覚えが……しかし……」 42
2012-06-10 00:48:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
パラゴンは指先のレーザーで、絵巻のひとつを指し示す。展示エリアはいつしか、絵画やビヨンボのためのそれに変わっていた。中世……江戸時代だろうか。ダイミョやサムライたちが会議を行う隣の茶室でニンジャたちが座し、捧げられたコーベインを数えている。闇の世界の真実を描いた禁断の絵だ。 43
2012-06-10 01:01:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「それが一体……」ユカノは途中まで言いかけ、絶句した。十数名のニンジャの中に、赤い和服を着た黒髪の女が混じっている。ユカノに極めて似通った顔立ちと髪型。その胸は豊満であった。「その和服は貴女が自分で選んだものだったな」とパラゴン「何十色もある和服の中から。赤が好きと見える」 44
2012-06-10 01:10:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「偶然の一致……」ユカノが言いかけると、パラゴンは別のビヨンボを指す。これはさらに古い……おそらくは平安時代のものであろう。ユカノは激しい動悸を覚えながらそれを見た……おお、ナムサン！ニンジャ同士が浜辺で合戦を繰り広げる壮大な絵の中に、やはりユカノめいた女ニンジャの姿！ 45
2012-06-10 01:15:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「高級フートンでよく眠り、自分が何者かを見つめなおすことだ」パラゴンが言った「最終戦争がこの地上を覆う前に。イクサの時は近い。古事記に記されし、ニンジャたちのラグナロックが到来する。その先には輝かしきニンジャ・ミレニアムが待つだろう。この地上は一度ジゴクに変わらねばならぬ」 46
2012-06-10 01:33:21