幻想戦艦ムサシ 第二話

天人からもたらされた最後の希望! 幻想郷のためよみがえれ武蔵よ! 前回:http://togetter.com/li/310864
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きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

満身創痍の「きりしま」が、漆黒の空間をひた進んでいた。無縁塚宙域での戦いは、幻想郷守衛隊最後の艦隊の壊滅と言う結果に終わった。きりしま艦長・八雲紫の目の前に、幻想郷が現れる。神社も森も赤茶けた大地と成り果て、変わり果てた楽園である。紫は目を瞑り、眉に皺を寄せた。【1】

2012-05-30 22:53:14
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「月軍特殊ミサイルふた、右弦上方を通過」電測員の冷め切った声が告げる。この悪夢の元凶が、青い尾を引きながら、幻想郷へ飛んでゆく。「防げない...、私達には、あれを防ぐ力はないわ」紫が出血する腕を抑えながら呟く。「あの赤茶け、荒れ果てた醜い土地が、私たちの...」【2】

2012-05-30 23:02:21
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「まもなく大気圏突入。艦橋防護扉閉める」きりしまの艦橋の窓にシャッターが降りる。「防護扉宜し。突起物収納。...大気圏突入準備完了」「重力アンカー揚げる」地球の重力に従い、大地へ向かってきりしまがゆっくりと降下し始める。艦首が摩擦で熱せられ、赤く輝く。【3】

2012-05-30 23:17:46
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

きりしまが、傾いた鳥居の刺さった地表へと近づいてゆくと、地面が長方形に割れ、沈み込み始める。直ぐにきりしまが悠々と通過できるほどの大きな開口ができた。艦はその穴を通り抜け、コンクリート造りの広々とした空間に出た。旧地獄に設けられた、大型の宇宙艦艇ドックである。【4】

2012-05-30 23:27:12
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「まぁ、大した事ない傷だよ、あんたなら大丈夫」畳敷きの簡易診療所で、白衣に身を包んだ伊吹萃香が、八雲紫の腕に包帯を巻きながら言う。「ありがと….人間の身は、大変なものね」紫がそれを眺めながら呟く。「あんたは多少能力が残ってるからまだマシさ、他の妖怪は…」【5】

2012-06-02 22:55:04
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

その時、診療室の引き戸が勢いよく開かれた。「紫、ゆきかぜはどうなったの」そこには、矢を射るような視線をゆかりに向ける、古明地こいしがいた。紫が目を見開く。「あなたは….」「古明地さとりの妹、古明地こいしよ」古明地、の名前を聞き、紫は目を伏せた。「ごめんなさい….」【6】

2012-06-02 23:00:05
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

こいしは俯いた。「そう…」紫は、こいしの瞳が潤むのを見た。「私の責任… 、連れて帰れなかったのは…」「いいえ」こいしが顔を上げ、紫を見据えた。「月人よ….、彼らが…、彼らさえ….」輝く雫が、畳に落ちて音を立てる。「ええ、必ず…」紫は目を閉じ、追憶に身を委ねた。【7】

2012-06-02 23:11:16
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「理不尽への寛容は、時として罪だ。それはさらなる理不尽を生み、さらなる不幸を生む….、私たちが止めなきゃ、誰が止めるんだぜ?」守備隊結成の時の魔理沙の言葉が、紫の脳内にこだまする。(私は理不尽に屈しない….最後の一人になろうと、私は絶望しない…)「ねぇ、紫?」【8】

2012-06-02 23:18:36
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「何かしら、こいし?」こいしの後ろから、永江衣玖が遠慮気味に姿を現す。「ん…、あら、貴女は…龍宮の使いじゃない」衣玖が緊張した顔を紫に向けた。「あの、お伝えしたいことがいくつか」紫が立ち上がろうとする。萃香が慌てる。「あ、ちょっと、まだあんまり….」「大丈夫よ」【9】

2012-06-02 23:25:13
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「幻想郷を元に戻せる、ですって?」紫が、宇宙艦船ドックの端で驚嘆の声を上げた。衣玖が答える。 「ええ、竜宮まで来て、それを受け取る事が出来れば、ですけど....」そこまで言って、衣玖の表情が曇る。 「船は、ありますか?」【10】

2012-06-09 20:09:34
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

衣玖が紫に不安の視線を投げかけたそのとき、紫はドックのある区画で歩みを止めた。 紫が懐からカードキーを取り出し、重厚な扉のリーダーに通す。電子音とともに扉の圧力が抜けた。紫が扉を押し、開く。 「私達の、最後の希望よ」紫が扉の向こうに佇むそれを眺めながら、静かに呟く。【11】

2012-06-09 20:09:55
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

衣玖が息を呑む。ドックに足を踏み入れると、巨大な赤い物体が視界いっぱいに広がった。それを骨組みが取り巻き、クレーンやトラックが所狭しと並び、豆粒のような作業員があちこちで溶接の火花を散らしている。見上げると、それの上面から9本の太い棒が突き出しているのが見えた。【12】

2012-06-09 20:10:38
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

それは、戦艦の主砲の砲身のように見えた。「これは....!」「元々は、結界が破壊される前に、外の世界へ先に入り、彼らの復讐と侵略を外の世界の入り口でどうにか止める....、捨て身を覚悟した任務のため、この艦は建造されたの....、旧帝国海軍戦艦「武蔵」の船体を基にね」【13】

2012-06-09 20:11:14
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「良かった、これなら、望みはあります...!」衣玖が歓喜に少し飛び跳ねる。衣玖が続ける。 「月人の手で、....竜宮は遥か遠く、14万8000光年のかなた、大マゼラン星雲にまで追いやられました。今の幻想郷に存在する宇宙艦船のイオンエンジンではもちろん、光ですらも 【14】

2012-06-09 20:11:46
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

幻想郷が亡ぶ前に竜宮へ着くことはできません。ですが....」 衣玖が紫の手を握り、紫の掌に何かを握らせた。 「この設計図通りに、必要な部品を用意し、組み立ててください。空間のエネルギー、所謂ダークエネルギーを取り出し、超光速のタキオン粒子に変換し、打ち出し、【15】

2012-06-09 20:12:12
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

強力な反作用で航行・そして大出力を利用した空間跳躍を可能とする、波動エンジンの設計図です」 「なんですって、...どうして、そこまで....本当に、ありがとう」 紫は感極まった様子で、衣玖を抱きしめる。衣玖の頬が染まる。「詳しいことは、竜宮で、総領娘様から....【16】

2012-06-09 20:12:57
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

あ、....ひとつ気をつけてほしいことがあります。その、波動エンジンの一部の制御機構はとても繊細で、エンジン外縁部の鋼の、放射性同位体の含有量はごく僅かである必要があります。それはつまり、今の、非破壊検査用のコバルト60の紛れ込んだ、外の世界の鉄では駄目だ、と言うこと。【17】

2012-06-09 20:13:58
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

ええと、工学に詳しいある天人の方は、こう仰っていました.、『ごくわずかな放射線を測定する放射線測定機材に、大昔に沈んだ戦艦の鉄を引き上げ、利用した例がある』と。」紫が衣玖を放す。「....成る程。今すぐ技術屋を集めて取り掛かるわ。すべての組立に、どれくらいかかるかしら?」【18】

2012-06-09 20:14:36
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「見たところ、船体にも多少の改良が要りそうですから....、2週間というところでしょうか。」「2週間、それなら、なんとか....」紫の表情が苦痛で歪んだ。紫はドックの耐熱床へへたり込み、腕を抑える。「だ、大丈夫ですか?!」「心配ないわ....、前の戦闘での掠り傷よ」【19】

2012-06-09 20:15:54
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

旧地獄・博麗神社臨時分社境内。そこに、百余名の妖怪、そして数名の人間が集められていた。数少ない人間のひとり、博麗霊夢が、妖怪の集まりから離れたところで、ざわめく妖怪たちを睨みながら仏頂面で佇んでいる。「生身で飛んだり、撃ったりできないのは不便ね」【20】

2012-06-09 20:16:24
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

霊夢が、その隣で眼鏡をかけ、分厚い冊子に没頭する金髪の少女に話しかける。「まぁな、...ま、私は隼、気に入ったけどな」眼鏡を軽く持ち上げ、にやり、と口元に笑みを浮かべる。「ええ、確かにあれも、悪くはないわ」再び金髪の少女は冊子に視線を落とす。【21】

2012-06-09 20:17:07
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

光線機関砲の照準、などと書かれている。空間戦闘機の教則本の様だ。「でも、今更新しい空間戦闘機なんて、....武蔵計画の実行には....」必死の作戦、ついに守備隊も最後の時。戦闘機は宇宙に出ることはなく、外の世界の、地球の、大気圏内での必死の...。霊夢は俯いた。【22】

2012-06-09 20:17:38
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「何だよ、武蔵計画って?」「直にわかるわ」霊夢がフライトジャケットを翻す。紫が境内の壇上に上がった。紫が話し始める。「よく聞いて頂戴。これから私たちは、幻想郷、外の世界の人間の平和な生活を取り戻し、月人による理不尽な行為を挫くため、宇宙へ再び旅に出ることになるわ。」【23】

2012-06-09 20:18:29
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

「宇宙へ...、なんですって!?」霊夢は耳を疑った。「2週間前、天界からの御使の宇宙機が、幻想郷内へ不時着したの。御使によると、天人の住まう処、竜宮に、この幻想郷を元に戻す設備が存在し....、そこまで私達が到達することができれば、その装置を貸与する、とのことよ」【24】

2012-06-09 20:18:56
きゅうばん@9/7誕生日 @9ststreet

辺りはどよめきに包まれる。「月人は竜宮を宇宙の彼方、14万8000年光年離れた大マゼラン星雲内まで追いやっている。この距離は、光ですらも幻想郷が亡ぶ前に往復することができない距離ね」「そりゃあ、29万6000年かかるもんな」霊夢の隣の金髪の少女が呟く。【25】

2012-06-09 20:19:42