茂木健一郎(@kenichiromogi)さんの連続ツイート第627回「ダンヒルのライターだったということが、大切なんだよ。」

脳科学者・茂木健一郎さんの6月17日の連続ツイート。 本日は、あるうつくしい教えについて。
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茂木健一郎 @kenichiromogi

しゅりんくっ! ぷれいりーどっぐくん、おはよう!

2012-06-17 06:39:13
茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート第627回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、あるうつくしい教えについて。

2012-06-17 07:31:42
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(1)新潮社で、小林秀雄さんの担当の編集者をされた池田雅延さんに、いろいろなことを教えていただいている。池田さんが朝日カルチャーセンターで小林さんのことを語った時の音声が、私の弟子の野澤真一が運営しているもぎけんPodcastにある。 http://t.co/SpWdWyyR

2012-06-17 07:33:53
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(2)その池田さんに、小林秀雄さんのことをご講義いただく「池田塾」が始まって、5回を数えた。池田さんが凛としたたたずまいで、生前の小林秀雄さんのことを含めて、さまざまなことを教えて下さっている。池田さんがテクストに選ばれたのは、「美を求める心」。この文章を、一年かけて読む。

2012-06-17 07:35:18
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(3)池田さんによれば、難解だと思われがちな小林秀雄の文章ではあるが、「美を求める心」は、その小林さんが中学生でもわかるように書いた、一つの文章の到達点。そして、もっとも大切なことが、その中に書かれているのだという。この長くはない文章を、一年かけてじっくり読んでいくのだ。

2012-06-17 07:36:32
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(4)昨日読んだ箇所に、ダンヒルのライターの話があった。小林さんが自宅のテーブルの上に、ダンヒルのライターを置いておく。お客さんはそれをとりあげるが、「ライターか」「ダンヒルですね」と言って、それ以上見ようとしない。その美しさに、関心を払わない。

2012-06-17 07:37:50
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(5)「ダンヒルのライター」という、ラベルや機能を把握しただけで、満足してしまう怠慢さが人間の中にはある。それ以上に対象に向き合えるか。小林さんが書かれていることは、現代的な用語で言えばクオリアの問題であり、現象学的なエポケーの問題であると思う。

2012-06-17 07:39:20
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(6)ここで大切なのは、それがダンヒルのライターだったということである。名前や機能を超えて対象にきちんと向き合うことは、観念的に語ることもできる。しかし、それを「ダンヒルのライター」という具体的な例に託して語っている点に、小林秀雄の人生の一回性も、表現の工夫もあると思う。

2012-06-17 07:40:44
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(7)そんなことを池田さんや塾生に言ったら、池田さんが話をして下さった。小林秀雄さんは、1954年だったか、戦後、初めての外国旅行に行く。当時は外貨制限もあり、難しかったので、朝日新聞が特派員にしてくれて、今日出海さんと半年ヨーロッパに行ったのだという。

2012-06-17 07:41:47
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(8)出発前、小林秀雄さんは、「観念でいっぱいになったヨーロッパを見てくる」という意味のことを言われたのだという。文学や絵画で通暁したヨーロッパの文化に、実際に触れる。現地に行った小林さんは、ルーブルだけで3日も通って、徹底的に絵画を見る。そんな中でダンヒルとの出会いがある。

2012-06-17 07:43:05
茂木健一郎 @kenichiromogi

だた(9)だから、ダンヒルのライターだった。観念だったヨーロッパの文化が、生活や現物に落ちてきた、その象徴としての、また自身の人生の履歴としてのダンヒルのライター。誰の人生にも、ダンヒルのライターはあるだろう。問題は、抽象的な観念に満足せずに、それに向き合うことができるかだ。

2012-06-17 07:44:14
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、連続ツイート第627回「ダンヒルのライターだったということが、大切なんだよ。」でした。

2012-06-17 07:44:38