桜の花が風に舞い、空に光る月は煌々と輝く。 されど不夜城バーボンに光は溢れ、その輝きは月をも圧す。桜に至ってはただ喧騒と人並みに踏まれ行くのみ。 1
2012-05-16 20:58:10「アレから大分経ったな……」 遠い目をして呟くのはやさぐれ気味の中にも大人びて見える少年、命知らず。今宵はハンターの方もプライベートなのか、常より砕けた服装に身を固めていた。 3
2012-05-16 20:59:24「仕方ねえよ。皆忙しかったしな」 答えたのは詐欺師。軽装の中にも崩さぬ意思が窺えるスーツ中心のかっちりした装束は如何なる思いの表れか。表情も何処となく険しく、沈思黙考している部分が窺える。最近の彼はこういう言動や装束が心なしか増えたようだ。 4
2012-05-16 20:59:55「……。ああ、仕方ないんだ。仕方ない」 彼はもう一声紡いだ。その目には少しだけ悲しみが垣間見え、そして消えた。 彼等三人が揃って顔を合わせたのは実に数ヶ月ぶり。偶然にも春休みのバーボン学園で遭遇したのだ。時の流れは非情である。 5
2012-05-16 21:00:18「本当にね。でも、多分……、早くに顔を合わせられたとしても……」 三人目、平服ながらしっかりとした意匠のドレスに身を包んだ貴族の少女、ステラが言葉を引き継いだ。今命知らず達が此処に居られる理由、それこそが彼女の地位である。 6
2012-05-16 21:00:51現代にあって再び貴族と名を変えた、財閥連合体の盟主。それが実質の彼女の立場なのだ。そう、此処は彼女の別邸の一つ。この対話という名の砕けた食事会は彼女が望んだものだった。 7
2012-05-16 21:01:19「チッ……。畜生め」 「…………」 詐欺師が毒付き、三者に沈黙が走る。その数ヶ月の空白の間の出来事は、どう足掻いたとしても覆らぬ現実、そして真実。それ故に目を逸らしたくもあり、逸らしてはならない事でもある。 8
2012-05-16 21:01:44「……! そ、そういえば明日入学式だよね?」 「あ、ああ。どんな奴が入学するんだろうな」 「大丈夫だ、俺達よりかはマシだろ」 重くなった空気を払うようにステラが話題を変え、二人もそれに合わせた。 9
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