『カーロス故郷へ帰る(仮)』、あるいは『火星から来た男』
「精神科医のもとで目覚めたカーロス・マウリシオ・ダ・シルバは、これまでの人生が妄想に過ぎないと知らされた。彼はストリートの名物トラブルシューターでも、ましてや火星人でもない、ただの平凡な家庭を持つさらりまんだった」
2012-06-26 11:55:24「体感ムービー『火星から来た男』に没入し過ぎた結果、ほんの少しだけ現実を見失っていたのだという。仕事は順調、妻のケリーとの間にはもうすぐ待望の第一子も産まれる。こんなすばらしい現実を忘れて、なんであんなくだらないムービーに夢中になっていたのだろう……」
2012-06-26 11:56:18「火星人? バカバカしい。火星に人が住んでいるわけないじゃないか。だが、何かがおかしい。何かが引っかかる。『火星から来た男』の続きが無性に気になるのだ。主人公は愛する者を殺したテロリスト集団との戦いの中、連中の恐るべき陰謀の一端を知り……そしてそれからどうした?」
2012-06-26 11:58:10「衝動のままに、『火星から来た男』を再び観るために、街を駆けるカーロス。だが、どの体感ムービーシアターも、『火星から来た男』は理由は不明だが早期に上映終了したという。まだだ、街のどこかに一件ぐらいはあるはずだ。彼は人づてに、『火星から来た男』の上映館を探す」
2012-06-26 12:46:01「情報を求め、アサクサの剣術小町に聞いた。その相棒のゴスロリ女にも聞いた。チョコバーをかじる生意気なガキにも聞いた。”バー・ラグーン”の若作りのママにも聞いた。それらの人々には、どこか『火星から来た男』の登場人物の面影があった」
2012-06-26 12:47:12「結局、上映館は見つからなかったが、なぜ上映が早期に終了したのかは解った。新進気鋭のとある芸術家が、圧力をかけたのだという。カーロスはその芸術家を知っていた。妻のケリーのことだ!」
2012-06-26 12:48:23「ケリーの元へ戻るカーロス。彼女は絵筆を取っていた。絵のタイトルは『月明かりの下で』、我が子への最初のプレゼントにするのだと聞いている。ケリーは言う。圧力に屈しなかった上映館を一件だけ知っている。教えてもいい。でも、そうすると、この現実は壊れてしまう。それでも行くのかと」
2012-06-26 12:50:18「ごめんよベイビー、行くさ。だってもう君はいないんだから――ストリートの裏路地にある、うらぶれた場末の体感ムービーシアター。レイトショーでの『火星から来た男』最終上映回。すでに上映は始まっている。カーロスはクライマックスの直前に滑り込んだ!」
2012-06-26 12:52:30「真教浄化派テロリストの精神攻撃を受け、美しい夢を見る”火星から来た男”カーロス・マウリシオ・ダ・シルバ。 だが男は、そのまどろみから目覚める。傍らにはヒーローの仲間たち。と歯噛みするテロリスト。 『まさか夢の世界から《脱出》(エクソダス)して来るとはな……!』」
2012-06-26 12:55:31