ケーダのゾンビサバイバル！

Day-1

　世の中大抵ろくなもんじゃないと思っていたが、この街はそのなかでもとびきりにくそったれだ。今じゃ往来を我が物顔で闊歩しているのは腐った死体どもばかり。人間様だろうと、もうぶざまにこそこそ逃げ回るしかないってわけだ。
　だからって、ヤツラの餌になるのはゴメンだね。
　生き延びてやる。
　このくそったれな屍人の監獄から、絶対にオレは逃げ出してみせる。

　無人のコンビニをあさる。
　窃盗まがいなんだろうが、そもそも店員がいないんだから金の支払いようがない。もっとも、この街じゃ金なんて、「ケツをふく紙にも～」ってやつだろうが。
　あちこち探してはみたが、ろくなものは残っていなかった。めぼしい物はみなもっていかれたあとなんだろう。出遅れたオレがマヌケってことだ。
　どうにか見つけたのは、菓子袋ひとつ。
　あまり腹の足しにはなりそうもないが、「文明の味」をもっておくのは悪くないかも知れない。

Day-2

　手ぶらで街をで歩くというのは、どうにも心許ないものだ。ましてや、このくそったれな街では。
　どうにか見つけた油と瓶で、即席の武器を作る。
　気休め程度かもしれないが、ないよりはマシだろう。

Day-3

　人気のない道ならば、ヤツラもいないかもしれない。
　そう思ったのが甘かったらしい。
　下水でヤツラに遭遇し、作ったばかりの武器をさっそく使うハメになってしまった。どうにか事なきを得たが、おのれのうかつさを呪わずにはいられない。
　くそったれな連中が下水にいることに、なんの不思議がある？

Day-4

　安全なねぐら探しには、いつも苦労する。
　ヤツラはどこに潜んでいるかわからず、この街に安全な場所などどこにもないのだから。
　それでも、屋根と壁があった方が、ないよりもずっとマシだ。
　そう思い、廃病院に忍び込む。
　ようやく一息つける……そう思ったとき、すぐ近くでカタリと物音がした。

　女。動く。ゾンビか？
「あなたは、まだ、生きている人？」
　いや、意志がある。
「残念ながら、毎日メシをくわなきゃならんし、クソもひりださなきゃいけない体だな。今のところは」
　とっておきのジョークのつもりだったが、女はくすりともわらわず、安堵の表情を浮かべるだけだった。
　もっともオレも似たようなものだろうが。
「……ついてくるか？」
　いつのまにか、そう尋ねていたことに、オレ自身驚いた。
　だが女の方もさして迷うこともなくうなずいた。
　この街で、久しぶりに出会った、生きた人間。
　離れがたいのは、お互い様といったところだろう。

Day-5

　生き残るため、モラルや人間性などはとうになげうったつもりだった。
　ただ、女と行動しているうちに、オレは人間らしい心というものを思い出してしまっていたらしい。
「助けて！」
　そんな悲鳴が聞こえたとき、オレは迷わず駆け寄っていた。

　ゾンビどもは確かにくそったれだ。だが、人間にだってくそったれはいる。
　そんな単純なことを、どうして忘れてしまっていたのだろう。
「男って、ほんと単純よねえ」
　呆れながら、女が手当をしてくれている。
　しばらくは、彼女に頭が上がりそうになかった。

Day-6

　商店街をあさる。
　すでに掠奪されつくしている感はあるが、それでもなにか残っているかも知れない。
　見つけたのは安全靴。これで多少は足場が悪いところにも入れるかもしれない。

Day-7

　「衣食足りて礼節を知る」とは言うが、それはつまり「メシが無ければ礼節などクソ同然」ということだ。
　暴徒どもの目当ては、明らかにオレ達の持つ食料だった。
「あそこで譲っていれば、こんな怪我をせずにすんだのに」
　女はそう言うが、今後のことを考えると、おいそれと食料は手放せない。むしろこの程度の怪我ですむなら、やすいものだ。
　それに、多少なら怪我をしたところで……
「いっておきますけど、私の手当にも限界はありますからね」
　釘をさされる。
　どうやら見透かされているらしい。