ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/07/06
夏が冬から雪を盗みました。しかし一向に雪は降らず雨だけが降ります。雪は夏自身の暑さにすっかり溶けてしまったのです。それに気づいた少女が空を見て言いました。『あたし暑い夏が大好きなんだよ!』夏はすっかり自信を取り戻しその年の夏はかつてない程の暑さが続いたそうです。 #twnovel
2012-07-06 00:45:53#twnovel カラスに裸を見られると、カラスに嫁入りすることになる。子どもの頃に母に言われたのがトラウマとなり、人前に肌を晒すことが極端に苦手になった。友達と旅行に行ったときも露天風呂ではカラスが見ているかもしれないと、そそくさと出た。友達いわく「カラスの行水?」 #百
2012-07-06 00:46:29胃の中にいる。溶けながら一人で住んでいる。飢えることはないし臭いに慣れれば暮らしやすい。住めば都とはよくいったものだ。いずれ胃の持ち主が死ねば外に出られるだろうが、私はそれが怖い。外もまた別の胃の中かもしれぬし。食道の細い光を見る。緩慢に溶けながら、胃の中にいる。#twnovel
2012-07-06 02:13:17#twnovel 私の先祖の一人に狼人間がいる。が、なにぶん何代も前なので、月夜の晩でも全身に毛が生える程度で牙の一本も伸びやしない。そしてそれも昔の話。けっこうな歳になった今ではもう、毛すら生えなくなってしまった。夜空に満月を見かけると、漠然とした喪失感とともに胸が騒ぐだけ。
2012-07-06 07:03:55家を建てた。妻は、真っ赤なキッチンを欲しがった。「壁も天井も床も戸棚も全部真っ赤にするの、素敵でしょう」 真っ赤なキッチンで、真っ赤なエプロンを着て、真っ赤な包丁を握り締めて、彼女は微笑んだ。「ねぇ、やっぱり素敵だわ。それに何より、汚れが目立たないでしょう」 #twnovel
2012-07-06 08:10:17娘が幼稚園で七夕の願い事を書いたという。「何て書いたのかしら?」「アタシは、お嫁さんになれますようにって書いたんだ!」娘は屈託ない笑顔を見せた。「きっとその願い事は叶うわ。どうせなら、一回だけって付け加えるべきだったわね」 #twnovel
2012-07-06 10:15:55「北のみずうみの氷です。耳を澄ませて味わってね」コップにうかべると、小さな気泡とともに鳥のさえずりや夏の風音がはじけた。あれほどに鮮やかな、北国の短い夏の秘密。飲めば旅空の自由な風が体を渡るよう。「音も冷凍できるんですね。夏味の麦茶、美味しかったよ」 #twnovel
2012-07-06 13:03:11#twnovel こんにちは。並木道を歩いていたら木の根元から声が聞こえた。ミミズだ。あなたの歩く振動が我々の新陳代謝を促進しています。どうかこれからもこの道を歩いては頂けませんか? 通勤には遠回りだけど…ま、いいか。ありがとう。お礼に来年この桜並木を満開にすると約束しましょう。
2012-07-06 13:03:59#twnovel 今日子さんは手を握る。「いきなりどうしたの?」「どこかに行っちゃいそうな気がして」「今日子さん方向音痴だもんね。はは」と、彼女は僕の手を掴んだままどこかに向かう。「き、今日子さん?」彼女は警官の前まで行き「この人、迷子なんです。彼女の心を見失ってるんです!」
2012-07-06 16:28:58#twnovel 「それちょうだい」「え、コレ嫌いだろ?やめとけよ」「いいじゃない興味あるのよ」「マジィって言うのが目に浮かぶんだよ」ははっと貴方は笑うけど。私は知ってる、貴方が私の留守中に嫌いなセロリに挑戦して玉砕したことを。好きな人が好きなモノは、やっぱ気になっちゃうでしょ。
2012-07-06 17:56:37うちのハイボールは、炭酸を使わないの。発砲性のミネラルウォーターを、使うのよ。だからほら、グラスをご覧になって。水の精がふわりふわりと、ウイスキーに酔ってしまって、グラスの縁にあがってきたわ。飲み干してごらんなさい、青い湖に清い滝、色んなものが見えるから。 #twnovel
2012-07-06 18:45:52七月六日のとある居酒屋、トナカイとかささぎが飲んでいた。ロマンチックに見える二人の仕事にも、それぞれ不満がある様だ。千鳥足のかささぎを見て、トナカイは言った。「その様子じゃあ、明日の仕事が心配です。明日は私が働きますから、あなたはクリスマスに働いてください」 #twnovel
2012-07-06 21:10:55#twnovel 海釣りの船から落ちてしまった腕時計は、海底を転がり続けてついに水深千メートルまで辿り着いた。しかし腕時計は完全防水仕様、深海の水圧でも壊れることが出来なかった。今日も光の届かない世界で、誰も求めてない時間を示し続け、誰も聞かないアラームを鳴らす。
2012-07-06 22:05:44君は綺麗な指をしているね。何度も何度も愛撫される。彼は寝てしまった。何か飲み物をと思い冷蔵庫を開けるとソーセージの袋が目に入る。違う。銘柄のない袋にはぎっしりと指が入っていた。見たね。振り返ると彼が立っている。どれもこれも綺麗な指だろう? 君ほどではないけどね。 #twnovel
2012-07-06 23:10:57#twnovel 宇宙人につがいで誘拐されて数年。見学者が今日も檻の前につめかける。やけに人数が多いと思ったら、誕生日でもないのにどうやら祝福されているらしい。宇宙人語を知らない俺は、真相をのちのニュースで知った。俺と交尾を拒否した女が人工受精で子を産んだのだ。童貞の父の誕生だ。
2012-07-06 23:37:08其の町では屋根に橋が掛け渡されている。欄干の付いた様な立派な物では無く、板切れを渡した程度の橋だ。社より始まり、全ての家々を結んで途切れる事は無い。氏神が屋根を渡って行かれるが故に、決して外しては不可ないとの伝えがある為だ。そして今宵も童子が軽やかに駆けて行く。 #twnovel
2012-07-06 23:55:34恋をしてしまった。一目ぼれだった。あの娘のことを考えると胸が詰まって苦しくなる。名前も知らず、話したこともない。決まった時間に顔を出して小さく歌う、その姿を遠くから見つめるだけ。なぜ彼女はあの部屋から出てこないんだろう。#twnovel「ママー!あの鳩、また鳩時計見に来てるよ!」
2012-07-06 23:57:41