『失せ物屋』
対価さえ支払えば失った物を買える『失せ物屋』という店がある。私は、消えた記憶を取り戻す為にそこを訪ねた。店主は小箱を差し出し「お代は、今のあなたです」とだけ告げ、開けるよう促す。だが、もっと大切な何かを失う気がして、開けられなかった。どこからか舌打ちが聞こえた。 #twnovel
2012-07-03 10:08:56#twnovel 店を出ようとすると、どこからか懐かしい歌声が聞こえてきた。包み込まれるような女性の声。子守歌?見れば、箱が僅かに開いている。あ!と思った時には私は箱を開けていた 。……「どなたですか?」遠い日に失った最愛の母の記憶と引換えに私が失ったもの。隣の男が思い出せない。
2012-07-04 18:42:09失なった記憶なら、なかったと同じ。そう思いながらも私は再び『失せ物屋』を訪ねた。小箱を開けた途端、激しい後悔。こんな記憶なら、失くしたままで良かったのに。お客さん、忘れたいなら買い取りますよ。店主の言葉に頷いた。このやりとりは何度目だっけとぼんやり考えながら。 #twnovel
2012-07-08 22:10:02彼女との愛は冷え切っていた。過去の記憶を持たない私が唯一得たものを失ってしまった。私が再び『失せ物屋』を尋ねると、店主はあの日と同じ小箱を差し出す。「お代は……分かりますよね?」私は頷き箱を開けた。箱の中には一対の指輪。しかし私は渡す相手の事をもう思い出せない。 #twnovel
2012-07-08 23:36:38思わす舌打ちが漏れた。せっかくの客をみすみす見逃してしまった。手の平で小箱をもてあそびながらふと考える。俺はいつから失せ物屋なんてやってたのか、どうも記憶が曖昧だ。ただハッキリしている事は一つだけ。今度こそ箱を開けさせて、そうして俺はこの箱部屋から出て行くんだ。 #twnovel
2012-07-08 23:39:44頭を下げて客が去った後、残されたのは私と、私。「ねえ」ぱくりと箱が開き、過去の私が唆す。「お前が今のお前を支払っても、彼は店に戻ってくるよ」「いいの」私はしゅるりと髪を解いて、そのリボンで箱を括る。「思い出は、美しく」棚に戻したその箱に、付けた値札は『非売品』。 #twnovel
2012-07-09 01:03:26「だめだ。それはあんたの失せ物じゃあない。 」女は唇を噛む。涙をぬぐうこともせずに出て行った。本当は『失せ物屋』にないわけじゃあなかった。今の自分をなくせば、相手が戻ってくる。だがな…ああ、口が勝手に動いちまった。久しぶりの客だったのによ。今日は店を閉めよう。 #twnovel
2012-07-09 00:08:42「『失せ物屋』って知ってる?お店の入口に立つと魂を吸われるんだって」へえ「看板を見たらその日のうちに頭から冷水を五分浴びないと高熱で死ぬんだって」ふうん「だから行くのやめよう?」だめ。君が失った『本当』はそこにしかないのだから。かわりに僕は君の『嘘』を失うけれど #twnovel
2012-07-09 20:36:51#twnovel 箱を差し出す失せ物屋。「お代官様、饅頭で御座います」「失せ物屋、お主もワルよのう」フッ。突然の風に行燈の灯が消えて部屋は闇の中。「明かりを持てい!」明るくなった部屋から失せたのは饅頭箱。「失せ物じゃ。者共出会えい!」それから家臣郎党総出で饅頭箱探しが始まった。
2012-07-10 00:20:19こんな小さな箱のはずがないと言う客が目をつけたのは大きな箱。売り物ではないと説明しても、これにこそ失った物があるはずだと意気込む。根負けして売り渡すと嬉しげに持ち帰って行った。翌日にはちゃんと元の場所に戻っている。先代から引き継いだ箱はまた少し重くなったようだ。 #twnovel
2012-07-10 00:28:23#twnovel 子供の頃失くしたミニカーを取り戻すため、当時存在した全てのミニカーを、蓄えた資産で買い集めた。ある日『失せ物屋』で試し見た箱の中に、あのミニカーの姿がぼんやりと見えた。「コレクションと引き換えでいかが?」既に手中にある筈なのだ。しかしどれだかは分からない。私は…
2012-07-10 03:36:00#twnovel 『失せ物屋』ですから元々無い物は陳列できません。よくいるんですよ、失った可能性を取り戻したいとか言う人。そういう人には、そこの、「根拠も無く才能があると信じ込んでいた昔の自分」を、だまして売りつけています。いい儲けです。 …え、そっちの? ああ、それは私の良心。
2012-07-10 02:05:17---- 以下雑談や感想などなど ----
「願いがかなう箱」については以下参照
シェアついのべ01 『願いが叶う箱 - a wish comes true in a case - 』
『記憶屋』とは昔 @aquall が書いたついのべの一編↓
#twnovel 記憶喪失。俺は自分が何者なのか思い出せず立ち尽くしていた。不安でたまらず目の前にあった怪しい店に飛び込む。「記憶屋」俺が記憶を売ってくれと頼むと、仕入れたばかりのブツだとそれを渡された。鮮明に蘇る誰かの記憶。そうだ、俺は何もかも忘れたくて記憶を売りに来てそして…
2009-11-25 00:16:42@aquall なにも考えないで書いたら200字オーバーで、泣く泣く削ったらあれになりまして。これはフリとしては厳しいかもなあ……とは思ってましたが無茶振りしました(笑)
2012-07-09 00:46:52@aquall ちょろっと白状すると、たつたんの1つ目の返のべが僕のイメージ通りでしめしめと思いながらニヨニヨして、2つ目でそうきたか!とニヨニヨしてました。ニヨニヨ。
2012-07-09 00:50:50@towoamari 続きを書くと考えた時に、主人公をどうするかだと思うんだ。「私」なのか「失せ物屋」なのかあるいは「小箱」か。「私」のその後はきっとみんな書くだろうなぁ、と思い失せ物屋にスポットライトを当てて見たのさ。考えてて面白かったぜ。
2012-07-09 21:23:32