【連作 #twnovel 】雨とジェラシー

「ジェラシーから生まれる作品もある。『ギリシャ神話』だって。名作は愛と平和みたいなプラスの感情からしか生まれないなんて綺麗事を言うことは出来ない」(本文より) 批判的な文章なので不愉快に感じる人も多いだろうと思っていたら、意外にふぁぼ&RT多くてびっくりしました。 ありがとうございますm(_ _)mフカブカ
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ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「小説の書き方について偉そうに講釈垂れてる人を見ると、私、虫酸が走るのよ」天才の君は言う。「既に書かれたものに対して色々語るのは自由よ。でもそこから、この先書かれるものについてまでクドクド話すのは百害あって一利無しでしょ。小説の書き方なんて作家の数だけあるもの。 #twnovel

2012-07-09 23:00:32
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

だから書き方なんて飽くまでその人の書き方に過ぎないのであって、それを他人に教えるってことは単に自分の二番煎じ三番煎じを世に蔓延らせたいようにしか思えないの。そうなるともはや、ただの傲慢よ」僕は何も言えず黙っている。君は続ける。「それに本人にとってもこれは有害よ。 #twnovel

2012-07-09 23:05:06
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

作家は常に進化していかなきゃならない。過去の作風にこだわっては、何も新しいものは書けないわ」君は僕の部屋の回転椅子に座り、小説を開いている。『三人の女』――古典アメリカ作家、ガートルード・スタインのデビュー作。僕も嘗て読みかけたが、文章が長すぎて途中で断念した。 #twnovel

2012-07-09 23:10:12
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

君はその小説を「これこそ天才の文章よ」と言い、何度も繰り返し読んでいる。一呼吸置き、君は再び話し始める。「つまり人に文章を教えようとする人間なんて、ただ傲慢なのか、何も新しい作品が書けなくなってネタ切れしてるかのどちらかよ。そんなの才能ある作家とは認められない」 #twnovel

2012-07-09 23:15:14
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「確かに君の意見にも一理あるかもしれない」僕は異論を返す。「だけど世の中にはそれで食べている人もいるし、その人から学んで作家になる人も多いじゃないか。そんな作家達まで批判するつもりなのか」「そう、批判するわよ」君は手に広げていた小説を閉じ、正面から僕を見て言う。 #twnovel

2012-07-09 23:20:07
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「批判はよくないよ」再び僕は口を開く。「他人なんか気にするな。人は人、自分は自分。今迄そう言ってきたのは君自身だろ」君は、こう返す。「不安なのよ」ばつが悪そうな顔で。「明らかに私より経験も実力も無い人が、文章について偉そうに語ったり、私より評価されている現状が。 #twnovel

2012-07-09 23:25:05
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

そうするとね、すごく不安になってしまうの」少し開いた窓の外から、しとしとと雨の降る音がする。「本当は私、文章を書く才能も資格も無いんじゃないかって。私にとっては実力も何も感じられない彼らこそ、余程天才なんじゃないかって」「君らしくもない」僕は、ただため息を吐く。 #twnovel

2012-07-09 23:30:16
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「君は天才だ。それは僕も保証する。今はまだ無名の作家かもしれない。けどまだ若いじゃないか。焦る必要は何も無いよ」「下手な慰めならいらないわ」「慰めなんかじゃない。本気でそう思ってる」君は怒鳴る。「何が本気よ!何かそれを証明するものはある?どうせ何も無いくせに!」 #twnovel

2012-07-09 23:35:05
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「あるよ」僕はそう言い、君の顔に僕の顔を近づける。突然の僕の接吻に君は驚いた表情をしている。互いがゆっくり一呼吸し終える程の時間。「愛してるんだ」そして君の目を見、そう口にする。君も少しだけ赤面しているのがわかる。「サイテー」だけど君はそう言い、僕を突き飛ばす。 #twnovel

2012-07-09 23:40:06
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「そんなありきたりなことをしないで」君の声は少し震えている。「そんな使い古された台詞なんて、あなたに言ってほしくなかった」君の目から何か光るものが零れ落ちる。 #twnovel 「ごめん」僕は謝る。ただ謝る。だけどそれさえ、使い古された台詞だと思う。雨の音が、少し強くなっている。

2012-07-09 23:45:08
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

やがて君は、閉じて膝の上に置いていた本を鞄に入れる。そして直ぐ椅子から立ち上がり「帰るわ」と言って部屋の玄関に向かう。「雨が止んでからでもいいじゃないか」僕が無理矢理口に出した台詞は宙にピンで押し止められ、君の元まで届かない。君は既にスニーカーを履き終えている。 #twnovel

2012-07-09 23:50:17
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「ごめんなさい」部屋の扉を閉める前に、君は一度僕の顔を見てそう言う。その目は真っ赤に充血している。僕が、君をそうさせたのだ。やがてバタンという感情的な音が鳴り響く。 #twnovel 何を間違えたのだろう。何も間違ってなかったと思う。だけど、それこそが間違いだったのかもしれない。

2012-07-09 23:55:16
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

君がいなくなった部屋で、僕は本棚から文庫本を一冊取り出す。『蒲団』――日本の文豪田山花袋の代表作だ。いくらかページを捲り、古びた本の臭いを味わいながら考える。田山花袋も弟子に文学を教えていた。作家として大成していない頃。が、その経験は彼にとって有害だったろうか。 #twnovel

2012-07-10 00:01:41
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

そうは思えない。彼は弟子との関係を赤裸々にこの作品の中に綴り、日本私小説のパイオニアとして一躍有名になった。作家にとって無駄なことは何一つない。ならば、君の方が間違っていたのか。そうも思えない。君にとっては、他人を批判することも作品を書く上での原動力なのだから。 #twnovel

2012-07-10 00:05:20
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

ジェラシーから生まれる作品もある。『ギリシャ神話』だって。名作は愛と平和みたいなプラスの感情からしか生まれないなんて綺麗事を言うことは出来ない。ただ出来れば、君にはもっと優しい気持ちから物語を書いてほしいという思いはあるけれど。「それも単にあなたの我が儘でしょ」 #twnovel

2012-07-10 00:10:14
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

きっと君はそう批判するに違いないが。やがて僕は開いた本を閉じる。いずれにせよ、僕も君もまだこうして誰かが手に取るべき作品を残せていない。それは事実だと知る。 #twnovel 開きっ放しのPC画面には、野性的な言葉が急流の如く流れている。そんな言葉を、見るのも嫌と思うときがある。

2012-07-10 00:15:18
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

だが彼らにとってはそれを書くことが必要なのだ。嫌なのに無理して見て、不用意に批判する方が悪い。 #twnovel 電源を落とし、部屋の明かりも消す。暗闇の中、僕は自分の姿すら忘れそうになる。ただ君の唇に触れた感触だけが形ある物質の如くまだ残り続けている。雨は、未だ止む気配が無い。

2012-07-10 00:20:11