シリ・カゲル tweet詩集

シリ・カゲル @poerock

明けながら坂道を登っていく。右のポッケにはのどぐろの塩焼き。左のポッケには等身大のロブスター。ポケットを叩くと、天皇杯を掲げた男の声掛け事案がひとつ発生する。交代を告げられたブラジル人は、ロッカールームでもうすぐ家族がひとり増えることも告げられる。告天使が多忙を極める一月なのだ。

シリ・カゲル @poerock

アビシニアンを飼うことについて想像をしてみる。水を運ぶエチオピア人の踵が、農園のブービートラップに触れる。用水路に落ちた1万円札。それは今朝妻が落としたもので、わが家の家計からは同じだけの損益が発生している。いずれまた、ナパバレーの交番に誤字脱字だらけの遺失届を出さねばなるまい。

シリ・カゲル @poerock

冬の朝の、真横から射し込む陽の光が好きだ。焦げのあるわかばのたい焼きが大好きだ。氷結した道路を覚束ない足取りで歩く通勤人たちの横で、限定生産のゲバルト棒にコラボブランドのタグを縫いつける。資金源は偽造の列車遅延証明書さ。心なんて開かないよ。冬の空気が大好きな、５人組のパルチザン。

シリ・カゲル @poerock

腕のいい冷気に薄く削ぎ落とされた耳はアイナメの刺身に似ている。こんなにも寒い日は、カーリングの石になって若い女の手から放たれたい。疑問符だらけの毎日なのに、芸術をどうのこう言う資格なんて。でもユーキャン。ありがとう、君の舞茸ご飯に救われたんだよ。お礼がてらにコインを探す旅に出る。

シリ・カゲル @poerock

水が緩む。木が緩む。みんな陽のあたるところから緩むんだ。まだ震えている部位だって多いのにね。櫻の樹の下に埋まっている御遺体にもかまわず、ポーラミュージアムアネックスの受付嬢は指関節を鳴らして勤務時間を消化する。みんな縦構図で捉えちまえばいいんだ。零れた現実も見えにくい下弦月の夜。

シリ・カゲル @poerock

愛と勇気を家庭に置いてきた花粉症する男が、行きの電車で椅子取りゲーム。車内中ほどまで跳ね飛ばされて僕はもう餡の詰まった水死体だ。ナイフとフォークで食べてね。歯茎についた小豆の皮は舌でねぶり取ってね。眠れる男はアンドロイドの夢を見、電気羊は中吊り広告のアイドルを見て見ぬふりをする。

シリ・カゲル @poerock

念動する向こう１週間が始まる。月曜日、あなたはウオツカで傷口を消毒する。火曜日に市場でバラライカを購入する。水曜日に同志が来て、木曜日に同志が帰る。寒い金曜日にあなたはボルシチを煮込み、土曜日は四つ辻で地面にキスをする。そしてまた日曜。もうコルホーズもソフホーズも自分で言えるよ。

シリ・カゲル @poerock

大学ノートの残り枚数から現実化する七月。缶コーラの飲み口からオレンジ色の液体を滴らせて、校庭から空へと引かれた石灰をコンバースで無造作に踏みにじっていく。もう草むしりをしないから、校庭の隅から雑草がありふれているのに、私、見ちゃった。部室で先輩があの娘と間接キスをしているところ。

シリ・カゲル @poerock

気球のごとき巨きな女がチワワを散歩させている。チワワにはスワロフスキー。アンバランスすぎて国民の信託が得られない。コバルトブルーのコバルトをレモンイエローのレモンで磨いたら亀裂が走るのかな。クエン酸回路を迂回して、紫陽花の煙る三半規管へ。盲目のカタツムリがETCで立ち往生をする。

シリ・カゲル @poerock

集結の午後。ティファールの電気ケトルで珈琲を淹れ、電動シェーバーで髭を整える。電気グルーヴを聴きながら、電動アシスト自転車で駅までの坂道を登る。電子マネーで改札を抜け、電車に乗って国会議事堂前に向かい、電子メールで連絡を取り合って、首相官邸前で仲間と落ち合う。そして訴える脱原発。

シリ・カゲル @poerock

朝、は漏れるものなのだ。だからタリーズ珈琲の一番乗りは雀で、病人の君から食物を掠めていくのも厭わない。隣の席のアショーカ王がアイポッドで試聴しているのは「ファッキンよりバーキン」を連呼するヒップホップ。仏教に帰依するという噂も漏洩し、カラッとした暑さならいつだってウェルカムだよ。

シリ・カゲル @poerock

振替輸送で到着した古戦場で、両軍相まみえる。タンクトップに手拭い姿が官軍で、外部から見えない部位に刺青しているのが賊軍だ。どちらも同じように満腹で、同じように一円玉が不足している。だから緒戦はいつも通り雨。妻たちは「ビバークするならするって言っておいてちょうだい」とご立腹なのだ。

シリ・カゲル @poerock

かつてマコンドの村を生み出した老作家が、大きな時計草の中に封じられつつある。一年目の孤独が始まるのだ。それはラテンアメリカがもはや遠い場所ではなく、中国産鰻の蒲焼きがスーパーに並ぶことと同義だ。でも炭火で焼くことにはこだわりたい。世界常識なんて通用しないよ、ここはイーストエンド。

シリ・カゲル @poerock

環八から第三京浜、横浜新道、横横道路、逗葉新道と書き連ねていけば葉山に至る。五十年前、母が森戸海岸で拾い集めた空き瓶の底からは、今は立派なしがらみが完熟している。内視鏡技師の海野さん。海が好きで海の見えるマンションを借りていても、好きな彼女が津波を怖がってちゃ同居はできないよね。

シリ・カゲル @poerock

古い家を片づけていると屋根裏から石灰石が下りてきて、今年がオリンピック・イヤーであることを告げる。でも段取りの悪い運営はそれを告げない。良くて流しそうめん。近江八幡に住む気体と液体の夫婦。気立ての良さならロンドンっ子にも負けないよ。ふたりで昨日まで鉢だったネコにのれんと名付ける。

シリ・カゲル @poerock

不毛な公会議が終わると午後六時。金曜の夜の十字軍の夜だ。乳と蜜の流れる丸ノ内線の出口付近から、開けドア。涙、流れても溢れ出ても小アジア。もう黄色い犬がドミノ牌を並べ始めているというのに、嗚呼、吾が妹よ。出がけにBDシャツの釦が留まっていなかったら留まってないって言ってほしかった。

シリ・カゲル @poerock

ママ友との近所付き合いや、年収６００万円が最低条件だったりして、この国の雲が動かない。動く人たちは次々と上陸しているというのに。演技の上手すぎる子役タレントに頼りすぎて、扇ぐための透明な下敷きが足りないのだ。雲はやがて炭化して白熱するだろう。その時、あなたは何を頬張っていますか？

シリ・カゲル @poerock

白ヤギさんの親書を黒ヤギさんが受領拒否しても、深夜のファミマを実効支配しているのは中学生たち。ヤギのチーズはまだ苦手な年頃なのだ。経済学部を出て経済と反目した男性がミクさんのくじで消耗している。でもあんなふうになれたらいいな。こうなったらもうやるしかないよね。僕の三種類見てみる？

シリ・カゲル @poerock

バスは一時間に一本でも来ればいいほう、鳥沼３号。男性がボートでひっくり返って沼に落ち、身ぐるみが乾くのを待っている。でも服は乾けば元に戻るけど、濡れたデジカメの記録は戻らないね。木々をわたり虫をついばむコガラ。白いポロシャツの女の子が、水を買って、今朝もハンバーガー屋に出勤する。

シリ・カゲル @poerock

うようよのキノコ。払っても払っても、つきまとうヤブ蚊。悪夢のようだけど、現実なのだ鳥沼２号。往きの飛行機では『青い脂』を読んだ。美瑛では青い池を見た。そして今、公園の東屋で『青い家』を読む。僕の青い旅。自販機には「いろはすハスカップ」が売っていて、後で買ってみようと思っている旅。

シリ・カゲル @poerock

できそこないの街角で、ケーキが踊り場で停滞している。生クリーム八策の完全なる失政。「減免してください」囚人も納税者も消費者もそれが本音。でもゾンビ。飢えて、群れて、文句を言ってはモバゲーしている。徒党を組んで出社する裏番組では、アゼルバイジャンのゆるキャラたちが反旗を翻している。