存在しない弟との思い出

おぼえがきですよ
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齋藤虎之介 @tora404

3歳下、小学校2年の弟はすぐに騙されるので僕はそれが面白くて弟に色々な嘘をつく。昨日川に河童がいたとか、UFOが裏山に着陸したので見に行ったら宇宙人がいたとか、3mのおっさんが公園で寝てたとか、40cmのヘラクレスオオカブトに襲われたとか無茶苦茶な嘘をついてもいちいちそれを

2012-07-28 09:19:06
齋藤虎之介 @tora404

信じる。ホント!凄い!僕も見たい!と興奮気味に僕の嘘を本気で信じて反応してくるので最初は僕の嘘を見ぬいて冗談で話に乗ってきているのではと思ったけれどどうやらそうではないらしい。まだ幼いがゆえに嘘をつかれ騙されていると気付いていないのか、それともただの馬鹿なのかわからないけれど、

2012-07-28 09:19:47
齋藤虎之介 @tora404

暇さえあれば僕は弟相手にとんでもない嘘の面白話をして楽しんでいた。嘘をついて騙していることに最初は罪悪感があったけれど弟も楽しんでいるんだし、誰も傷ついてないし、まぁいいかという具合に嘘をつくということに何も罪悪感や、弟に対して悪いなと思うことはなくなった。むしろお互い楽しんでい

2012-07-28 09:20:32
齋藤虎之介 @tora404

るのだから、それは野球やTVゲーム、かくれんぼなどの遊びと同じなんだと思うようになっていた。ある日の夜中ふと目が覚めた。カーテンの隙間から電信柱に取り付けられた街頭の灯りが入り込んでいた。そのおかげで真っ暗なはずの部屋は電気をつけることなく歩き回れるくらいには明るかった。

2012-07-28 09:20:56
齋藤虎之介 @tora404

二段ベッドの下の弟を覗きこんでみると案の定スヤスヤと眠っていた。夜の薄暗い部屋はどこか自分の部屋ではないような不思議な感じがする。昼間の部屋はそれこそどこに何があるのかひと目でわかるし、カーテンは青、車の玩具は赤、カーペットは薄緑と色も認識できる。しかし夜の部屋は外からの灯りで多

2012-07-28 09:21:14
齋藤虎之介 @tora404

少部屋の中はわかるものの目を凝らさないとどこに何があるのかわからないし、色も曖昧にしか認識できない。そして何よりも静かなのだ。昼間は当然僕や弟の声、外からの車の音、鳥の鳴き声、子供達の声や大人たちの井戸端会議なんかが聞こえわりとざわざわとしている。昼間はそのことに気付かないけれど

2012-07-28 09:21:32
齋藤虎之介 @tora404

夜こうして静寂に包まれた部屋にいると昼間の部屋がいかに騒がしいのか実感できる。薄暗く色もなく静かだから自分の部屋だけれどまるで全く知らない部屋のように思えてしまう。多分だから夜中に目が覚めると怖いし、不安になるのだと思う。それは弟にも言えることだ。昼間ペラペラ喋り所狭しと動き回る

2012-07-28 09:21:45
齋藤虎之介 @tora404

弟が今は目を閉じ言葉も発せず動き回ることなく寝ている。なんだか別の知らない誰かのように思えた。しばらくそんな部屋や弟を見ていると恐怖心や不安感がなくなったのでトイレに行こうとハシゴを降りた。そしてなぜそんな事をしたのかわからないけれど、本当になんとなく自然に弟の耳元で

2012-07-28 09:22:05
齋藤虎之介 @tora404

「お前本当はこの世にいないんだよ。なんでいるの?」と囁いた。無意識レベルでの嘘、いや今思えば酷い悪意に満ちた嘘だったのかもしれない、けどその時の僕は別に気にすることもなくトイレへと向かった。

2012-07-28 09:24:03
齋藤虎之介 @tora404

トイレからの帰り弟の顔をもう一度確認したけれどやっぱりどこか知らない人のように思えた。次の日目を覚ますと見慣れたいつもの部屋がありいつもの弟がそこにいた。しかし夜のあの知らない部屋、知らない人という感覚が妙に残っていたせいか明るい部屋と喋る弟に違和感を覚えた。その感覚も朝食を食べ

2012-07-28 13:13:54
齋藤虎之介 @tora404

る頃には消えいつもと変わらない日常が戻ってきた。弟に面白嘘話をしたりたまに夜中目が覚めた時あの嘘を言う。弟はこの意味のない滅茶苦茶な嘘を嘘だとわかるのはいつなんだろう。目をキラキラさせて話に乗ってくるのはいつなんだろう。

2012-07-28 13:14:10
齋藤虎之介 @tora404

20歳になった。実家から大学に通う日々。ある日夜中に勉強をしていたとき、休憩を取ろうと椅子に座ったまま背伸びをした。ふと横にある二段ベッドに目がいった。子供の頃からずっと使っている二段ベッド。今まで特に気にすることもなく使っていた二段ベッド。・・・なぜ二段ベッドなんだろう?僕は一

2012-07-28 13:14:26
齋藤虎之介 @tora404

人っ子なのに二段ベッドを使っている。一段目は物置に、その上で僕は寝ている。なぜ二段ベッドなんだろう?なぜ今まで二段ベッドのことを不思議に思わなかったのだろうか。普通の一般家庭において二段ベッドを買うということは兄弟がいるということだ。弟や兄、妹や姉。複数の兄弟がいる場合において

2012-07-28 13:15:07
齋藤虎之介 @tora404

二段ベッドを買うはずだ。けれど僕は一人っ子。なぜ二段ベッドなんだろう?その疑問を持った時背筋が寒くなるというか血の気が引くというかなんといえない感覚に襲われた。子供の頃弟がいたような気がする。弟と遊んだ記憶が朧気だけれど記憶の隅にちらついた。まるで正面を向いているけれど、

2012-07-28 13:15:40
齋藤虎之介 @tora404

真横にあるものが視線の隅でチラチラと見えるようなそんな感覚。慌てて押入れの中からアルバムを取り出した。僕が生まれてから記録されているアルバムの中にやはりというか弟の姿はなかった。しかし、妙な違和感がある。写真の構図が少しおかしいのだ。もう一人のスペースがあるような…

2012-07-28 13:16:24
齋藤虎之介 @tora404

いや、先入観だ思い込みだ!そう言い聞かせアルバムを閉じる。パソコンに向かいすぐさまブラウザを立ち上げる。色々調べた結果、神隠しや隠し神、イマジナリーコンパニオンという単語がヒットした。子供の頃弟は神隠しにあってしまったのだろうか?悲しい記憶は時として完全に忘れてしまうことがあるら

2012-07-28 13:16:47
齋藤虎之介 @tora404

しい。ある日突然いなくなった弟、あまりの悲しさから今まで忘れてしまっていたのだろうか?それを今突然思い出したのだろうか。それなら二段ベッドの説明はつく。しかし写真の違和感の説明は出来ない。イマジナリーコンパニオンは幼少の頃の空想の友達のことらしい。精神的ストレスなどから実際には

2012-07-28 13:17:33
齋藤虎之介 @tora404

存在人間を作り出し、話たり遊んだりしてしまうことらしい。。しかしそれでもいまいち全てがクリアに納得できるものではなかった。チョロチョロと湧き水のように少しずつ溢れ出てくる弟との思い出に僕は胸が苦しくなった。本当なのか妄想なのかわからないけれど確かに僕の中に残っていた記憶たち。

2012-07-28 13:17:54
齋藤虎之介 @tora404

ハッとした。もしかしてあの嘘。実際には失踪や病死したのかもしれない、イマジナリーコンパニオンだったのかもしれない。元々本当にいなかったのかもしれない。けれど僕は謝った。ごめん。と泣きながら、誰に対してなのか、何に対しての謝罪なのかわからないけれど謝った。謝らずにいられなかった。

2012-07-28 13:22:01