ある日の、話

蕪先生の呟きの、ナナキちゃんの同行者を病院にひっぱってく所のお話まとめ。感動しすぎてちょっと自慢する為だけにつくった。
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小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】どれだけ、  どれだけの時間、そうしていたのかは全く覚えていない。慟哭に飲まれそうになりながら、それでも何故だか体が動かなくて。「――!」自分の喚き声に混じって、その声が注がれているのに、「――、――!!」肩口を掴んで揺さぶられて、「――まだ助かるよ!」漸く気付いた。

2012-08-03 06:38:14
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「  え、……」見覚えのある、顔だった。編んだ後ろ髪が揺れている。肩で息をして、肯いている。「まだ、間に合う。だから行こう、ね!」何を云われているのか解らず、ぼろぼろと涙を零したまま、ぽかんとその言葉を 『聞き流す』。 『何』 が、 『間に合う』 ? もう、全てが。

2012-08-03 06:41:01
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「その子は僕が運ぶから!」「あ、――っ」必死に、掻き抱く。連れて行かないで。ぶんぶんとかぶりを振れば、少しの間を持ってから、彼は優しく自分の血まみれの腕に触れた。「大丈夫、……奪ったりしない。大丈夫。だから、『預けて』」――そう、だ。彼、は。自分の、なけなしの食糧を。

2012-08-03 06:46:48
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「……あり、す、く」やっと、繋がった。そうだ、彼は。 『貰う』 という名目で、自分のお菓子を 『預かって』 くれると云ってくれた、優しい。「…アリス、くん――」お願い。その言葉が出てこなくて、唯、抱いていた腕を緩めた。彼が安心したように笑って肯いて、少女を抱き上げる。

2012-08-03 06:50:02
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「キミも。歩ける? 病院が出来たのは知ってるでしょ、そこまで行くからね」――うん。うん、だい、じょうぶ。涙が止まらなくて、全然上手く息が出来なくて、それでもどうにか立ち上がって、彼の後を追いかけた。暫く行くと、軍服を着た 『少年』 が病院まで誘導してくれるという。

2012-08-03 06:53:14
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】辛そうな、まるで自分が大怪我でもしたような顔をした 『少年』 。大丈夫、と声もかけられないのだろう、だいじょーぶ、と云ってあげたくて、でも涙が止まらなくて、できなかった。――そのうち、歪んだ視界に建物が見えてくる。ああ、此処か、と思った。

2012-08-03 06:55:57
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「こっちっスよ!」 『少年』 が先へと誘導する。それに続こうとして、「……、『あげる』」病院に入る直前。振り向いたアリスくんが、そういって自分のポケットに何か忍ばせる。そして、「誰か、急患です!」と、病院へ消えていく。「――もう……」ああ、きっともう、大丈夫だ。

2012-08-03 06:58:55
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】これであの子が助かっても、助からなくても、おれのなかであの子は 『救われた』 。あの子は 『生きていく』 。自分を 『護って』 それでも 『生き長らえる』 。そうだ。だいじょーぶ。……だいじょうぶ。首元のタグを握る。「……ロンさん」お願い。大丈夫って云って。

2012-08-03 07:01:13
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「……だい、じょーぶ、」云えた。――瞬間、体が忘れていた痛みに軋んだ。うで、が。は、と荒い息を落として、ふらふらと壁際にもたれ掛かる。「ちょっと貴女大丈夫、って……」掛けられた声に顔を上げる。綺麗な顔立ちの看護師さんだった。この、ひと。「貴女、リノが連れてきた、」

2012-08-03 07:34:25
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「あ……」「っとにかく、治療! 何これ、貴女何したの、大怪我、」「いいん、だ……、あ、ばんそこ、もらえる? つめが、痛く、て」「爪? ――」ぐちゃぐちゃの指先を見て、流石の『看護師』も閉口したようだった。「こんなの、『ばんそこ』で済むわけないでしょ!?」

2012-08-03 07:38:01
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「へへ、そっか、そだね……」「何笑ってんのよ! ばかなの!? 見せて!」軋む腕に治療を施される。何か変わったな、このひと。きっと、彼女も色んなものを見たんだろう。「……ありがとな」「……仕事よ」「うん、……でも、『助かった』」文字通り。救われてばかりだ。

2012-08-03 07:41:47
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「おねーさん」「何よ今忙しいのよ」「頼みがあるんだ」彼女の手が止まる。「あのな、10にならないような女の子が運ばれたんだ。さっき」「……」「おれの 『妹』 だ。サチっていう」目を逸らさずに。彼女もまた。「その子を二人の人が助けてくれた。お礼がしたい」

2012-08-03 07:47:54
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「自分でしなさいよ」「……頼むよ」「あんたほんっとばか!! 自分でしろっつってんのよ! そもそも何、その体でここ離れる積もりなの、許さないわよ!」「なぁ、」泣き出しそうな彼女の手に触れる。「……頼むよ」笑えば、ますます彼女の綺麗な顔が、歪んだ。

2012-08-03 07:50:39
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「……何なのよ……」これっきり、だからね。彼女は顔を伏せてそう、零した。おれは、笑う。「ありがとなー」彼女に幾許か、『自分が元々持っていた』食糧を預ける。そして、立ち上がった。「頼んだよ、おねーさん」「……メリーよ」「え?」「メリー」真剣な、視線が刺さる。

2012-08-03 07:56:26
小林蕪 @kabulalala

【ぞんさば】「頼むよ、『メリー』。……『ナナキ』からの、お願いだ」彼女はもう、引き留めなかった。代わり、吐き捨てる。「――ばかナナキ」「ははは、は」自然に笑って、笑えてしまって、『立っていられる』と、思えた。「……ごめんな」去り際、落とした呟きが届いたかは、知れない。

2012-08-03 08:00:56