「ナナドラ」リアルタイムリプレイ -33- 嘆きの皇妃・7
- imaitetsuya
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森を突っ切って、その先のゴウガ竹林を、抜け道を使って通り抜けて、その先には広い草原があって、大きな動物がたくさんいた。空も地面もびっくりするくらい広かった。
2010-03-06 12:19:02何度も逃げようとしたけど結局捕まりながら、半日かけてサイモンっていう村に着いた。見ず知らずのおばさんの家に泊まらされた。見ず知らずなのに、たくさん料理をつくって出してくれた。
2010-03-06 12:22:40でもあいつは、スラムのチンピラみたいなレベルじゃとてもなかった。嘘みたいに強い。あっというまに取り押さえられて、まるで歯が立たなかった。
2010-03-06 12:28:34悔しかった。だってあいつはルシェだ。奴隷としてこき使われる腹いせに、私をこれまでさんざんいじめて、汚い貧乏人の子供とからかってきた奴らの仲間だ。
2010-03-06 12:30:05フロワロの毒気で、生き物が凶暴になっているんだとあいつは言ってた。私は足がすくんで何も出来なかった。弓なんか当たるわけがない。あの二人はそんな私を背中にかばいながら戦ってた。
2010-03-06 12:37:12私は誰からも必要とされたことはない。生まれたときから、もう親はいなかった。私はゴミをあさり、泥水をすすって、みんなから虫のように蔑まれながら生きてきた。それが当たり前だった。
2010-03-06 12:41:55生きるために盗んだ。人を騙しもしたし、・・・殺したこともある。初めて殺した相手は、私の身体をおもちゃにしようと襲ってきたスラムの顔役だ。10歳のときだった。私はそれから、別な顔役に拾われた。そこでも私は盗んだ。騙したし、殺した。そうしないと生きられなかった。
2010-03-06 12:47:10でも、昨日。アイゼンを出て、森を抜けて、高台からふと振り返ってみると、アイゼンの街はびっくりするくらい小さかった。アイゼン皇都は世界でも有数の大都市だとあいつは言っていた。でも私には、初めて見るそれが、ただ地面にへばりついているだけの、ちっぽけなゴミのかたまりみたいに見えた。
2010-03-06 12:50:30空は真っ青に晴れ渡っていて、あのじめじめした貧民街が、間抜けなくらいぽかぽかした陽気に照らされていた。私がいままで世界の果てだと信じていた場所は、私を押しつぶしていたまっ暗で重い空気は、あんなにちっぽけでちゃちな紙と木のかたまりだったのか。そう思うと急に気が抜けた。
2010-03-06 12:55:35そこから先で見た森は大きかった。草原は広かったし、空は落っこちそうなくらい高かった。草をなびかせて、遠くから風がわたってくる。あの油と汗と糞のにおいのまじった、むせ返るような貧民街の風とは全然ちがう風だ。
2010-03-06 12:58:50ルシェのサムライは私に弓の使い方をたたき込んだ。私は、身体が覚えるまで何度も、何度も同じことを繰り返させられた。少しずつ、矢が狙ったものに当たるようになってきた。
2010-03-06 13:00:50何度かあいつを狙おうとした。けど、そのたびに私は取り押さえられたり放り投げられたりした。それから叱りつけられた。その全部がいつでも、あいつはバカみたいに真面目だった。
2010-03-06 13:02:30あいつは私の目を真っすぐ見る。私が目をそらそうとしても許してくれない。何を話すときも、私のことをじっと見て、お腹の底に響くような芯の通った声で、でも穏やかに私に話しかけてくる。私はあんな風に、人から真っすぐ見つめられたことがない。
2010-03-06 13:05:50どうしてあいつはあんな風に、いつでも真剣でいられるんだ。こんな私なんかのために。皇族さまが暇つぶしにほしがっている料理なんかのために。仲間のために。あんな大人はみたことがない。
2010-03-06 13:08:06私は悔しい。どうやってもあいつに勝てない。どうやっても、あいつの強さにはかなわない。ちっぽけで、ずるくて、身を守ることしか考えられなくて・・・しかも街を出たとたん、結局自分一人の身も守れない、なにも出来ない自分が悔しい。
2010-03-06 13:12:38