桐生さんの「From the Nothing, With Love」の感想

個人的に興味深い内容だったのでまとめました。
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桐生sang @Kiryudori

Reading: "4月17日「From the Nothing, With Love」読書会"( http://t.co/A6d7Cm3o )

2012-08-21 22:34:52
桐生sang @Kiryudori

>>僕が帰ったあと、どうしてISやニャル子さんが流行るのかを新入生と交え一時間ほど話した結果「キャラクターの傾向として、内面性が欠如している」という傾向が導き出され、最終的にライトノベルは伊藤計劃の目指した方向(意識の消失)に進んでいると略 半分冗談だろうけど、いいとこ突いてる

2012-08-21 22:36:19
桐生sang @Kiryudori

「内面性の欠如」というより作りこみしてないんやな。豊富なテンプレートがあるからそっから生産してる印象だけがある

2012-08-21 22:37:42
桐生sang @Kiryudori

@sionacht たしかに元ネタが多岐に渡ってて難しいですね。「哲学的ゾンビ」はwikipediaに乗ってるのが参考になるかも。『アクロイド殺し』のダブルミーニングには薄々気付いてても指摘はできませんでしたし・・・京大となるとSF研もレベル高いですわ

2012-08-21 22:47:45
桐生sang @Kiryudori

えー、今から緊急一人読書会「From the Nothing, With Love」についてやります。伊藤計劃氏の『The Indifference Engine』収録の短編です。タイトルの元ネタは007の映画『ロシアより愛をこめて(From Russia with Love)』

2012-08-21 22:52:32
桐生sang @Kiryudori

「From the Nothing, With Love」は007の世界を舞台にしており、その中でジェームズ・ボンドは記憶だけを移植して新たな体に引き継いで活躍するスパイとなっています。これは本編で中の人(俳優)が変わってる事のパロディでもあります

2012-08-21 22:55:34
桐生sang @Kiryudori

ジェームズは持ち前のスパイとしての能力を発揮し、アクロイド殺しの犯人を捜し始めます。この辺は探偵小説めいたお決まりの手順を踏むのですが、その過程で「記憶移植」の思わぬ落とし穴が判明するわけです

2012-08-21 23:03:12
桐生sang @Kiryudori

物語は007(の記憶装置そのほかもろもろ)の担当技師であるアクロイドが殺され、さらに007の「適格者」(記憶移植先)である人間も次々と殺される所から始まります。この『アクロイド殺し』はアガサ・クリスティーの同名作品を意識していますね

2012-08-21 23:00:41
桐生sang @Kiryudori

つまりジェームズ・ボンドは何度も代を重ねてジェームズ・ボンドを極めすぎたせいで、ジェームズ・ボンドという染み付いた行動パターンの塊と化してしまっている、というのです。女の口説き方も、マティーニの注文の仕方もそれは単なる経験からくる「プログラム」に過ぎないという訳です

2012-08-21 23:05:32
桐生sang @Kiryudori

ここで「哲学的ゾンビ」という喩えが出てきます。表面上は全くの人間で、人間の様な反応を示すが、クオリアの存在しない架空の存在・・・つまりパイタッチに反応するARミクさんが存在したとして、それは本当に人間なのか・・・というのをゾンビに喩えた哲学上の思考実験です

2012-08-21 23:09:35
桐生sang @Kiryudori

つまり『アクロイド殺し』の犯人はジェームズ・ボンドの「無意識」の部分・・・地のテクストで描写されてない、読者からは見えない「虚無」の部分であった訳です。逆に言えば、この作品での地の文は「哲学的ゾンビ」であるジェームズがオートマタめいて生成したテクストとも読み取れます

2012-08-21 23:13:13
桐生sang @Kiryudori

実際「From the Nothing, With Love」の冒頭では自動書記機械についての挿話があり、自分(=ジェームズ)はそういうものだと独白されています。

2012-08-21 23:14:47
桐生sang @Kiryudori

アガサ・クリスティーの『アクロイド殺し』との共通点は、被害者の名前がアクロイドである事。犯人の名前がジェームズである事。そして『アクロイド殺し』はミステリファンの間では倒叙トリック(語り手自身が犯人)の名作として知られていて、登場キャラクター自体がこの作品の仕掛けを暗示しています

2012-08-21 23:17:26
桐生sang @Kiryudori

「From the Nothing, With Love」の中の事件は移植されるたびに強固になる「ジェームズ・ボンド」という意識によって消滅しようとしている自由意志が起こした反抗ともいえます。自分の担当技師の殺害、スペアボディの殺害、そして記憶移植装置の破壊

2012-08-21 23:21:27
桐生sang @Kiryudori

物語の最後、ジェームズは記憶移植装置を破壊しようとして射殺されたと語られます。つまり地の文=語り手は既に肉体すらないナッシング・・・バックアップされた意識の独白が、消えてしまった自分の無意識(ナッシング)を悼むようなそんな按配で、そうして読者はタイトルの意味に気付くのです

2012-08-21 23:25:45
桐生sang @Kiryudori

「虚無より愛をこめて(From the Nothing, With Love)」

2012-08-21 23:26:40
桐生sang @Kiryudori

実際この短編は伊藤さんの作品の中でも完成度はかなりのものだと思います。「死人(ゾンビ)」「虚無」とハーモニーや虐殺器官と似たテーマや、冷戦を背景とした設定=メタルギアシリーズへのオマージュもあったりでこの一作品だけで濃いエッセンスを楽しめると思います

2012-08-21 23:28:53
鴉山@単身赴任 @CROW_GO

@Kiryudori あれは伊藤さんが好きなものを好きな様に書いている感じがして面白かったですねw 受動意識仮説とか、最近の流行を象徴するものは全部込められていて、この一篇は初めてこのての作品を読む人用の入門用にも良さそうに思えます

2012-08-21 23:34:02
桐生sang @Kiryudori

個人的にこの作品を読んだのは初めて立ち寄った例の「象工場」でのことで、あの緊張感溢れるアトモスフィアもあわさり、正直震えながら伊藤計劃の天才を確信していました。そのあと「哲学的ゾンビ」が密かなマイブームになり、直後に書いた作品にちょこっと顔を出してる。実際ミーハー

2012-08-21 23:34:06
桐生sang @Kiryudori

@CROW_GO ですよね。全部入ってますよね。長編二作より大好きです

2012-08-21 23:37:35
桐生sang @Kiryudori

久しぶりに読本クラスタめいたことをすると全身が筋肉痛で死ぬ。明日はせんざいくんと喫茶店のフランソワいきたい

2012-08-21 23:41:14