『バ・カ・ン・トの7月11日の静かな道程』作：古川日出男

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50.それが僕の２０歳の誕生日だった。そして市長からは時々「名付け親」通信が送られてくる。 #1C21D

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49.結局僕はコーヒー豆の匂いをコーヒー１４杯分嗅いだ。そしてパスタを食べた。 #1C21D

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48.お祝いに何を飲もうか。コーヒーを飲もうか。コーラを飲もうか。それとも風や、星座を飲もうか。乙女座でも飲んじゃおうか。 #1C21D

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47.成人は、言っておくけれど２０歳じゃない。パスポートをもらった時に僕は成人してるさ。でも、そんな僕も２０歳の誕生日を迎える。 #1C21D

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46.僕は働いた。僕は働いて、自分で食べる人になった。第２の名前のままで。 #1C21D

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45.いろんなものが新しく見える。いろんなものがコーヒー色とは違ってみえる。僕は働いた。 #1C21D

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44.パスポートの名前も変えなかった。僕はバカントのまま、ついに離市を達成させた。依然として、僕の右目と左目の豆は種類がちがう。 #1C21D

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43.それから１９歳になると、市長から「離市」のパスポートが発行された。これを手にすれば僕は出られる。市を。 #1C21D

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42.僕は自分の年齢を数えた。１７歳１１カ月だ。こちこちこち。時計が鳴る。僕は満杯のバカントだ。 #1C21D

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41.こんな感じだったんだ。頭までコーヒーで一杯になるってそうか。こんな感じだったんだ。 #1C21D

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40.だとしたら僕はずっとバカントとして生きよう。それでいい。ほら、頭のいちばん上までコーヒーが来る。 #1C21D

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39.でも、もしかしたら僕バカントは２つめの名前を持っているんだから、３つめの名前は持てないのかもしれない。これは第４の予言だろうか？ #1C21D

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38.それとも僕は、新しい名前はとんぼや蟹や乙女座やデジタルカメラに付けてもらいたいとも思う。 #1C21D

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37.僕は自分に新しい名前を付けるなら「コーラ」にしてほしいと思う。 #1C21D

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36.だんだんと頭の天辺が痒くなる。だんだんと満杯になる予感がある。また予感で、これは第３の予言？ #1C21D

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35.それから順調に１６歳になったんだけど、僕の名前はまだバカントだ。じゃあさ。

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34.そして２カ月ずつ僕は脳に満ちるコーヒーとともに大人を目指す。 #1C21D

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33.つまり僕は思春期から脱しつつもあるのか。僕バカントは１４歳半。第２の初恋は初恋とは言わない。 #1C21D

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32.右の目と左の目のコーヒーの、豆の種類は、「あれ？」ちょっと違うぞ。 #1C21D

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31.僕は楽隊を背後に感じて、第二の初恋を捜しはじめる。だんだん目もコーヒーだ。 #1C21D

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30.そんな予言解読の祝福のためには音楽がいる。そのために、僕は、僕バカントは、ここに楽隊を召喚する。 #1C21D

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29.そして１２歳になると僕はやっと予言を解決できる。僕の脳にまで、コーヒーが来るぞ。そうだ。洪水だ。 #1C21D

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28.ほら、なんだろう、口もとにまで味が込み上げてきた。噴出する予言のコーヒーだ！ #1C21D

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27.それは恐怖でも何でもないんだよ。それはもっと、ずっと、希望っていうか……。いいや、予言だ。そして予言に善悪はない。僕は１１歳４カ月。 #1C21D

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26.やがて首を超えて、やがて唇にまで達してしまうんだろって僕は予感した。 #1C21D