山本七平botまとめ/【危機の日本人④】世界の御威光国になれない日本が学ぶべき「昭和の大失策」とは
- yamamoto7hei
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1】【不要なものになった日本海軍】だがそれだけでなく、過去の失敗を振り返っておくことも無駄ではあるまい。以上に述べた、日本人が陥りやすい危険な状態がよく現われているのが、ワシントン軍縮会議とロンドン軍縮会議における日本人の反応の仕方である。<『危機の日本人』
2012-08-25 05:27:502】大体、八八艦隊などというものを造ったら日本は経済的に破綻してしまう。さらに英米がそれに対抗し、日本がさらに対抗するという形になって、一大建艦競争が開始されれば、最初にお手上げになるのは日本である。確かに日本人は一方では大国とは全く勝手なものだとは思っている。
2012-08-25 05:57:483】帝政ロシアが旅順に極東艦隊を保持している限り、また帝政ドイツが青島に基地をもち、南洋諸島からラバウルまでを植民地兼基地として太平洋艦隊を保持している限り、日本海軍は育成すべき対象であり、事実、あらゆる援助と便宜が供与されてきた。
2012-08-25 06:27:504】だがロシアとドイツの両艦隊が消えた後は、日本の海軍は彼らにとって不要なもの、否、危険なものにすらなった。では日本はどうすべきなのか。彼らを打破し、英米にかわって世界の「御威光国」になるのか。
2012-08-25 06:57:475】それとも、彼らが形成して来た国際環境の中で成長して来たという事実を踏まえて、自らの発展を阻害しないように、その国際環境保持のために、自らの勢力を削減すべきなのか、という明確な決断が必要なはずである。だがこの決断は、はじめから結論が出ている。
2012-08-25 07:27:546】軍事力だけで御威光国にはなれない。それは経済力だけでも不可能な様に不可能である。この事は現在のソ連にも現われている。確かに軍事力に於ては米ソは均等であろうが、衛星国をも含めたソビエト圈とアメリカを中心とする自由主義圏の総合的国力を比較すれば、両者の優劣は論ずるまでもあるまい。
2012-08-25 07:57:467】この総合的国力の格差は当時の日本も知っており、格差が明らかな以上、選択はあくまでも後者である。とすれば、日本がまず軍縮を提案してよいはずである。もっとも英米に対抗しその勢力を打破しようとするなら別だが、これは不可能である。
2012-08-25 08:28:068】1922年のワシントン会議の時点では…日本政府の首脳も民間の有識者も一般人も大体に於て理解していたと言ってよい。慢性的不況が続き、国民一般も軍事費の重圧を感じていたからむしろ軍縮歓迎であった。この空気が徐々に変わってワシントン体制の打破となり、それがロンドン軍縮で爆発する。
2012-08-25 08:57:479】この間に、明治以来日本を守って今日あらしめたのは海軍ではないかといった声が出てくる。一方陸軍は明治末の二個師団増設拒否に対する上原陸相の単独辞職に続き、山梨軍縮、宇垣軍縮と続き、これもまた同じ様な声が出て来て、このような状態が続いたらわが国の国防はどうなるかと危機感を煽る。
2012-08-25 09:27:5810】【「昭和の大失策」の遠因】すると国民全体も、外圧によって軍備を減らされて行くと、しまいにはどうなるか不安を持つようになってくる。だがこの場合、対米7割にしろ6割にしろ、冷静に考えてみれば余り意味のある違いではない。
2012-08-25 09:57:5011】というのはもし英米が同盟すれば、7割を保持し得たにしろ20対7で三分の一である。当時は海軍国といえば英米日しかない訳であり、英米が対立して戦争状態になり、日本がキャスチングボートを握るという機会が来ない限り日本海軍には出番がない。だがそういった状態の現出はまず考えられない。
2012-08-25 10:28:0312】とすれば日本は英米的秩序の中でそれを維持する役割を最低の負担で演じつつ国力を伸長させていくという方策しかなく、これが日本にとって最も有利な政策のはずである。そしてもしそれをせずに、海軍力の英米との対等を欲するなら、破産を覚悟で海車力を三倍にする以外にない。
2012-08-25 10:57:4613】だが破産をすれば、逆に、国際的影響力を失ってしまうからこれも意味はない。結論ははじめから明らかである。それなのに日本は明確な決断も総合的プランもなく、英米体制を打破して「東西新秩序」なるものをつくるという方向に突っ走る、というより自らを追い込んで壊滅する。
2012-08-25 11:28:0014】その発端をロンドン軍縮会議の時点で見れば「この様に英米に抑え込まれれば、結局はわが国の国防は不可能になってしまう」という主張である。だが冷静に考えれば英米に抑え込まれなくとも、これに対抗する軍事力を創設し維持しようとすれば日本は破産してしまうだけだから意味のない行為である。
2012-08-25 11:57:5415】もちろん英米の要求がすべて正しいとは決していえず、現在のアメリカ同様に理不尽な面があったことは否定できないが、要は、現在の環境を保持しつつその中で発展を策するか否かに、基本があるはずである。
2012-08-25 12:28:0416】だが、当時を振り返ってみると、このことを明確に国民に説明し、はっきりと国民に判断を求めた政治家がいなかったことに気づく。これが、歴史的な「昭和の大失策」の遠因だが、同じような現象は現在でもある。
2012-08-25 12:57:4617】【「補助金漬け」は麻薬以上の害】たとえば問題になる農産物の輸入問題だが、これに対する反論は常に「食糧の自給率がこれ以下に下がったら、イザという時、日本はどうなるか」なのである。
2012-08-25 13:28:0318】これは昔の軍人の錦の御旗と同じような論法だが、その主張は、かつての軍人の主張が意味を持たなかったように、意味を持っていない。
2012-08-25 13:57:5019】英米的秩序を崩壊さすなら、対米6割だろうが7割だろうが海軍の存在自体が意味を持たないように、自由主義圈の維持という、日本存立の前提を無視するなら、食糧の自給率が30%であれ、50%であれ意味を持たない。そして海軍と同様、30%はゼロに等しい。
2012-08-25 14:28:0020】意味は持たなくとも「外圧」「外圧」という心理的圧迫は、現実的には意味なきことでも心理的な不満を充足するという点で意味を持たしてしまう。だがそれによって国民は何らかの利益を受けているのか。何もない。世界に類例がない高価な食料品を提供され、それを負担しているだけである。
2012-08-25 14:57:4821】では、自らが発展しうる自らの国際的環境を保護するために理不尽なアメリカの要求をすべて聞きましょう、と言ったらどうなるか。別にどうにもならない。英米の3割にすぎない海軍を保持して国民全部が負担にあえぐ苦しみがなくなるだけだ、というに等しい結果が生ずるだけである。
2012-08-25 15:27:5722】軍人の失業は別の問題として処理すればよいように、農民の問題は別の問題として処理すればよい。いずれにせよ、今まで記して来たような理由で要求を受け入れざるを得ないなら、外圧の前に自ら実施してしまった方がよい。これは、今にして振り返れば、過去の軍縮の時にも言えたことである。
2012-08-25 15:57:4823】ではそれを実施したら日本はどうなるか、大変な苦難に頭を抱えねばならないか。変な言い方だがそうなってくれれば逆に問題はないかも知れない。国鉄が終われば日本は否応なく農業再編成という課題に取り組む事になるであろうが、自由化は逆にそれを刺戟しかつ促進する最もよい手段となるであろう
2012-08-25 16:28:0224】それによって日本経済の最大の問題点が逆に解消してしまう。もっとも個々の人間の運命はまた別だが、その補償は現在の日本では不可能なわけではないし、現在の様々な直接間接の補助金の支出よりも、はるかにすっきりした状態になる。細かな計算は除くが、既に様々な試算表がある。
2012-08-25 16:57:4625】「補助金漬け」という「漬け物」は、麻薬以上の害となっているからである。そこまでは計算できる。だがそれによってさらに合理性に富む状態になった日本の経済は、さらに強いものになる。では、アメリカのすべての要求を受け入れることによって、さらに強くなったときにどうすべきなのか。
2012-08-25 17:27:58