「包丁占い師」

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

（承前）似たようなことが何度も繰り返された。もう何度目かも、女性には分からない。そして別の場面。同僚と言い争う女性。営業の成果を横取りされたらしいが、知らぬ存ぜぬで女性の追求をごまかしている。#包丁占い師

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

（承前）女性の彼氏にも、同僚にも、黒いオオカミのような影が付き従っていた……。「そう。貪欲。他人を踏み台にして自分の欲を充たそうとする意志……それが、あなた」　オオカミを見据え、さやかは告げる。そして、柳刃の包丁を右手で構え、切っ先をぴたりとオオカミに据える。#包丁占い師

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（承前）ひるみ、身構えるオオカミ。さやかは嘲笑とともにもどかしさを覚える。「……卑怯、なのね。自分が傷つく可能性があるときは、貪欲にならないのね。そういう意志なのね……」　いいわ。ならば。さやかは着ていた着物の襟を緩め、胸元近くまではだけさせた。白い肩口が露わになる。#包丁占い師

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（承前）「……お食べなさいな。オオカミさん」だらりと両腕を垂らし、構えを解いた姿勢で、オオカミに微笑みながら告げる。オオカミのシルエットは更にどす黒さを増し、跳躍した。オオカミがさやかを押し倒し、その鋭い牙が、さやかの真っ白な肩口に深々と突き刺さる……その寸前。#包丁占い師

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（承前）さやかの右手が素早く動き、開いた口からまっすぐに胃袋まで、包丁でオオカミを刺し貫いている。貪欲。口から喉、そして胃袋。他人を貪り、飲み込み、自らを充たす欲望の象徴。オオカミの形を纏った悪しき運命の本質――。それが、更に強力な力を秘めた包丁の怨念によって　#包丁占い師

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（承前）刺し貫かれていた。その瞬間、オオカミの形を纏っていたモノは、真っ赤な微粒子の集合になり、まるで血しぶきが四散するようにはじけ、消し飛んだ。#包丁占い師

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

（承前）そして、さやかは目が覚める。――現実の自分の肉体に戻っている意識を自覚する。そっと、目を閉じたままの女性の目の前で包丁をしまいこみ、代わりに水晶玉を取り出す。偽りの商売道具。#包丁占い師

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（承前）「目を開けてください。あなたの運命が、分かりました」　女性に穏やかな声で告げる。女性はふっと目を開く。さやかは穏やかな笑みを保ったまま、水晶玉を前にして、口を開く。「…あなたは今まで、多くの人の欲望の犠牲になってきました。貪欲という名の、悪しき運命の犠牲に」　#包丁占い師

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（承前）「……は、はい」　思い当たることがあったのだろう。女性は勢い込んで頷く。「ですが、それももうなくなります。この水晶玉は未来を映しています。明るい未来が見えています。あなたの運命を支配していた貪欲は、きっと消えて無くなります」女性はそれでも信じがたい、という顔。#包丁占い師

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（承前）「本当でしょうか…？あの人は、ギャンブルをやめてくれるでしょうか？　あの子は、私の成果を横取りするのをやめてくれるでしょうか？」　さやかは請け合う。「人の意志は、儚くてあやふやなものです。良い方向にも、悪い方向にも。魔が差した、と言う言葉があるでしょう？」　#包丁占い師

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（承前）「この水晶玉が映し出しているのは、その『魔』が、なくなる、ということなのです。きっと、悪い運命はみんななくなります。大丈夫です」　女性は、まだ半信半疑で頷く。「は、はい……」　さやかはかつての自分を見ているようで、女性を抱きしめたくなった。#包丁占い師

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（承前）女性の方は、そんなさやかの内心など知り得ないだろう。が、さやかの自信に満ちた表情に、徐々に勇気づけられていったようだ。「わ、分かりました。そうまで仰るなら、きっと良い運命が来ると信じてみます。がんばって生きてみます」「そう。それでいいんです。きっと　#包丁占い師

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（承前）大丈夫ですから」　そうして、料金を払い、占い小屋を後にした女性を、さやかはしばらく見守っていた。運命なんて、本当は存在しない。けれど、人の意志はどうしようもなくあやふやで、定まらない。予想できない。現実の世界の物の理（ルビ：ことわり）だけでは。#包丁占い師

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（承前）けれど。いや、だからこそ。それに影響を与えるのは、現実の世界とは少し離れた存在なのだ。それに気づけたのは、自らが運命を狂わされたから。その運命にさやかを導いた柳刃包丁が、その世界を見せてくれた。けれど、本当なそんなもの、見たくなかった。知りたくなかった。#包丁占い師

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

（承前）けれど、知ってしまったからには。――あたしは、戦う。　さやかは穏やかに決意する。「すみません。運勢を、見てもらいたいのですけど」　声をかけられ、振り向く。今度は、さやかと同い年ぐらいの少女。死にそうな顔で。運命を受け入れてしまいそうで。でも、それに抗いたくて。#包丁占い師

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

（承前）助けが欲しくて。そんな顔で、遠慮がちに、さやかを見つめている。「すみません。先程のお客様のお見送りに、ちょっと小屋を留守にしてしまって」　言いながら、同い年ぐらいの少女を、粗末な占い小屋に招じ入れる。胸元の、繻子に包んだ悪しき運命の象徴に触れつつ。それを以て、#包丁占い師

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

（承前）この少女の運命も、きっと救ってみせると強く意志しつつ。（第一話・完）　#包丁占い師

結川さや @jjminniewriter

@Yu_Yamaguchi_ それ、面白いですねｗ　刀ならまだ絵になるけど、包丁ってとこがまたすごい……新しいのか？　アリなのか？ｗ　時間ができたら短編にしてみようかしらｗ　お付き合いどうもでした！＾＾

結川さや @jjminniewriter

@Yu_Yamaguchi_ って思ったら、もう書かれてらっしゃるとはｗ　今チラ見状態なので、後でゆっくりツイートさかのぼらせてもらいますね＾＾

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

@jjminniewriter 弾みで書いてしまうことが、よくあるんです……＞＜　勢いで、お名前、勝手に使ってしまって申し訳ございません（途中から変えました）。

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

雲（ルビ：クラウド）やら雲操具（ルビ：クラウドコヒーレンサー）やら妖書屋やらの設定は全く出せなかったなあ……。まあ、ちょっとずつ設定や世界観を見せていくお話、ということで。

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

ちなみに、雲（ルビ：クラウド）の設定は、ロジャー・ペンローズの唱えた量子重力と意識の関わりとか、多世界解釈とか、量子力学における電子雲とかのイメージから着想を得てたりします。

結川さや @jjminniewriter

@Yu_Yamaguchi_ 読ませていただきました！　いえいえ、こんな名前でよければもうじゃんじゃん使ってください！（笑）なんか主人公になれたような気分を味わっちゃいました。本格的に書かれたお話を読んでみたくなりましたね＾＾　面白かったです！

Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

@jjminniewriter　ありがとうございます。そう言っていただけるとほっとします。本格的に書きたいなあ、とも思うのですが……。いかんせん時間がなく……＞＜　一応、後でtogetterでまとめますね。