ポンヌフの恋人たち

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@8yanagi_lika

陽が沈んでゆく、時間のうつわが割れるように。私から終わりゆく太陽が、あなたのなかにはじまるのを。閉ざしながら、閉ざされながら私の瞼は重ねられる。シャトレで乗り換える時、グラスを傾ける時、草の種が舞う時にも、あなたは来なかった。ただ残された面影だけが映えて。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-01 07:22:08
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

きみにとどまり、いつしかぼくへととろけだす陽、ふたりがいるのは夜の手前だ。ジャズがあどけなく昼を忘れたころ、いっそう濃くなるであろう睫毛に、ひかるものを静め。そうやって夜はすすむ。あの橋のうえでも。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-01 21:54:03
@8yanagi_lika

あの橋にとどまる、いずれの眼差しも濃い影を投げかける。あなたが私のなかで死んだように、あなたのなかの私はいまだ目覚めている。きみを待つ長い間、私の眠りは解かれていった。乗換客にあふれる、地下鉄の階段をかけ降りて。コレスポンダンスのなか、私はきみを見失った。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-01 22:13:37
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

さりながら、呼び声につつまれ、きみはきみを揺り起こす。徐々にかわってゆくトーンにノイズが生き生きと、まどろみを散らしだしたら、降りてゆける階段はもはやなく。-アンコール。ひらけた場は人々にうねりを教える。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-02 19:47:51
@8yanagi_lika

きみの目覚めは、凍えるほど爽やかで。遠のいていったあの人を、確かに知らないというのに。私のなかで贖われる、冴えた近接に片瞼を痙攣させながら。ゆっくりと遠ざかる、あの人の面影はきみに再構成される。揺られているなかで私はきみを忘れながら。きみは私をわすれながら。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-02 20:00:36
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

そう、すべてはのぞんだままさ。遠さのうちに、太陽とおもかげがその肩をいだく。うつわは片づけられた。待つことを知りつくしたら、季節さえおいてゆけ。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-02 22:44:49
@8yanagi_lika

すべてはのぞみどおりと、きみは言う。しかし、それが別れの季節のはじまりのほか、なんであるというのか。きみはきみを置いたまま、私をさらってゆく。私のなかにいずれも不在のきみを。私が振り返りるとき、私のなかのきみも振り返る。鏡のなかの、鏡のなか。私ときみの不断。#ポンヌフの恋人たち

2012-09-02 22:56:45
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

ふたつのふりかえりが、ひとつの裂け目となって。あなたもぼくも、あなたとぼくを見つめることができない。踏み越えられないまなざしが、すべての顔を覆いつくして、ぼくはあなたに触れられないでいる。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-02 23:50:59
@8yanagi_lika

ぼくらはさようならを繰り返す。出会っては別れ、出会っては別れ…。今日のきみと私が、昨日の僕とあなたに、けっして触れあわずに折り重なるよう。出会いの季節は夏?別れの季節は秋?晩夏のくだものが滴る重さに、教会の鐘が鳴るごとに遠ざかる。泡みたいに僕ら消えてゆくね。#ポンヌフの恋人たち

2012-09-03 00:07:45
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

凍えるほどさわやかに。そのうえ、誰しもが白と黒の恋人たちだ。ふたり、かぎりなく加速するシークエンスのなかで、メトロをひとつずつ燃やしていっては、だれかの背を熱くすることもあるのだろう。おもいもよらず。あのひとを翻訳してしまう。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-04 22:23:31
@8yanagi_lika

翻訳される言葉たちと、呼び違える私たちの、複数の名前が解けあう。地下鉄の階段を吹き抜けていく風に、あなたの髪が混じっていたのは。灰のうえに降る粉雪を散らす。季節はあっという間。夏から秋へ、秋から冬へ。あのとき読み違えた駅名は、あなたの影の延長にあった。#ポンヌフの恋人たち

2012-09-05 01:49:39
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

ふゆうするグラベア、たしかに抱きしめたはずだった、ひとりひとりを叫んで、グラベア、灰はとけずにここにもある。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-07 21:50:02
@8yanagi_lika

graver(グラベア)、あなたは時間を刻む。gravier(グラベア)、あなたは砂に埋もれて眠る。gras ver(グラベア)?しかばねを喰らう虫。grand béant(グラベア)、大きく開かれて。いずれの聞き間違いのなかにも、あなたの面影が移ろう。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-08 01:10:03
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

はやく。かじつに喰いつくされるまえに、景色をさしかえ、何度もあらたにあいさつしようか。引き受けるよ。預けてくれたそのかなしみから、たちあがる七色さ。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-09 20:53:28
@8yanagi_lika

七色に褪せた虹は青色に冴え、紫に惑い、赤色に灼けつく。果実の滴りに濡れたあなたのくちびるの動きに遅れて、音がやってくる。そして最後にたどり着くのは、意味なのでしょうか。孤独に縁どられるなかで、あなたとわたしのあいだの深淵が、忘れた季節の鮮やかさに浮かぶのも。#ポンヌフの恋人たち

2012-09-09 21:05:42
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

こめかみから生えた、糸をつたうことばのかたちは眼にみえる。それでも季語をあぶりだすしかなくて。ふたりのうしろ、恐れが橋をわたってくる。恐れがひと影をさがしている。咲いたふちどりに隠れる隙はない。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-11 20:36:46
@8yanagi_lika

恐れがあなたをさいなむように、恐怖はいつも私の輪郭に咲いている。ふたりの影の連なりに、非連続的な季語を拾いだしながら、隠れんぼの途中で寸断された時間をいまだに数えている子供の私たち。糸をつたうことばは、こめかみへの垂下曲線に落下をつづけ、あなたを新しくなぞる。#ポンヌフの恋人たち

2012-09-11 21:47:37
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

つながらない色彩を束にしては、水面のフォトン、きみの内で織られながら、いちまいの絵画を称える。すべてはきみの眼のまえに。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-13 21:46:48
@8yanagi_lika

わたしの前に開かれたきみの傷口。湿った晩夏のくだものの影を合わせ揺らす線影のなかに、ただひとつのきみの輪郭があるはずなのに。わたしにはそれが未だなぞれずにいる。きみのうつくしさはきみのまま閉じてゆくのを、わたしはわたしであることに開き続けて。水面に散る光。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-13 23:20:12
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

たちどころに現れる開かれ。うねりのなか、かつての呼び声はひとつの名をさしはじめる。ふいに開いたページには、海辺の墓地、逆さのひかり、陽はいつのまにか、ぼくを抜け、ふたりのあいまへ。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-14 23:18:05
@8yanagi_lika

あなたの名前は、そこ、ここにきらめいて。呼び違える私と、すれ違うあなたの交差点で、いまやっとことばは永遠になった。いや、ことばはもう、世界だった?繰り返される誤謬のうちに、太古に忘れさられた生命のことばの脈拍が滴る。それは七色の毒、夕暮れの橋、猫の鼻筋の光。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-15 02:23:57
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

ゆめを見るなよ。滅びないものなど、ぼくらはいらない。それを絶望といいたいのなら、その果てで愛し合おうよ。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-15 20:57:57
@8yanagi_lika

ことばは、だけど同時に、あなた自身でもある。私たちをかたどることばへの、私の思いは幻想だろうか。強くうつくしいきみのリアリスモ。 きみのことばはきみ自身を断ち切りながら、すがすがしく透明を保っている。きみの清明な精神に触れ、私の病んだ憂鬱はしだいに明るくなる。#ポンヌフの恋人たち

2012-09-15 21:34:55
Yuka Yoshida @yoshida_nenka

まぼろしも真実のうちで、真実もまぼろしのうちだ。そのように、グラスは傾く。人々は傾く。よわす水が、ときを押しだし、かたよりさえつぶしていった。愁いをうすめる、あてにもなれず。キーがただ、ずれているだけさ。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-17 20:06:12
@8yanagi_lika

アルコホルにあぶれ、人々の顔という顔をうがち、雑踏に酔いしれ、また私はキーを外してうそぶいた。でも、明日までのこの暗さが、瞳に焼きついているのなら、朝の路面の濡れた局面でさえ、テンションに触れる。きみのブルーノート。私は洗われて夜がおとずれる。くちぶえ。 #ポンヌフの恋人たち

2012-09-17 21:08:26