第一次聖杯戦争1日目

1日目
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時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

あん?第一回の顛末が知りてえってか。あん時ゃパートナーがパッとしないヤツでよぉ。あんまいい思い出ねーんだけど……そんでも良けりゃちっと教えてやるよ。どうせ退屈だしな。

2012-09-19 01:49:12
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

貧困に喘ぐ国に比べれば、間違いなく幸福な街ではあった。しかし、彼女は一人だった。本来彼女を守るべき大人は、彼女をいない物として扱った。彼女には家族がいなかったが、自分の名前は覚えていた。幼い少女の持っていたのは、名前と大量の魔術回路だけだった。

2012-09-19 02:01:47
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

一人の魔術師がいた。彼には才能が無かった。だが、それを認める事を拒否し、分不相応な儀式に挑んだ。“英霊の召喚”……。緻密に組まれた術式と然るべき準備。それから恵まれた才能があって初めて成功する、かつての英雄を現代に呼び出す召喚術。本来秘中の秘とされるそれを、彼は公園で行った。

2012-09-19 02:05:23
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

結果から言えば、儀式は失敗に終わった。彼は高い金を払い、触媒に足る物を手に入れていた。そして召喚の術式も、足りない技術をフルに活用して正しく組み立てた。彼に足りなかったのはただ一つ、己の魔力それだけだった。彼の最も愚かな行動は、その後一切の始末をせずに立ち去った事である。

2012-09-19 02:07:26
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

その公園では、いわゆるホームレスが何人か暮らしていた。その中に、不相応な少女の姿もあった。彼女の名前は板尾礼奈。彼が万全な準備をし、高級な道具を使っても手に入らなかった物……才能を持っていた少女。彼女は、残されたままの術式を起動してしまったのだ。

2012-09-19 02:10:41
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

俗に、時計塔と呼ばれる施設がある。そこは一般的に言う所の学校であり、生徒は魔術師の中でもエリートが揃う。ある貴族の娘もそこに通っていた。ユアネスという名の彼女は、極東のある地で行われる戦いに参加する為にその街に降り立った。

2012-09-19 02:16:34
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

彼女は時計塔の生徒にふさわしい知識と才能を持っていた。それらを持って英霊を召喚した。英霊は言う。 「問おう。お主がワシのマスターか」 彼女は応える。 「ええそうよ、我がサーヴァント。さぁ、戦争を始めましょう」

2012-09-19 02:18:54
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

聖杯戦争。七人の魔術師が、七人の英雄を召喚し、それぞれに競い合う。監督役という物が存在するも、基本的にはルール無用。命すら奪い合う戦いの報酬は、“自らの望みを叶える事”。舞台に定められた冬木の街に、七人の魔術師が揃う。さらに、イレギュラーとも言うべき存在も……。

2012-09-19 02:22:25
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

監督役は前任者の娘と、そのサーヴァント。揃っのは七人の魔術師と七騎の英雄。そして……本来いてはならない八人目の魔術師と、用意されていない八騎目の英雄。運命も捻じ曲げる、魔術師同士の戦いが―――その夜、始まった。

2012-09-19 02:27:52
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

今日の所はここまでだぜぇ。どっかの誰かから聞いた話が基だから間違ってるかもしれねえ。ま、とりあえず終わりの瞬間までは知ってるからよ、見たけりゃ見ていけよ。じゃあな、グッナイ。ひゃはは。

2012-09-19 02:30:02
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

アーチャーは困惑していた。身に余る願いを抱え、聖杯と契約した闘争。その最も重要な要素となる主人が、どう見ても少女であったからだ。最初は何かの間違いだと思った。しかし、己の体を構成し、主人と繋がっているサーキットは確実にその少女を主と認識していたし、なによりも……

2012-09-19 20:50:41
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

彼女の左手の甲には、己が武器を象った三画の令呪が刻まれていた。全ての情報が、この少女……いや、幼女が我が主であると示していた。

2012-09-19 20:54:33
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「あの……」 少女がおずおずと問う。危惧した通り、少女は現状を理解出来ていないようだ。 「初めまして。貴女が私のマスター……ですよ、ね?」 「マスター?」 アーチャーはため息をついた。

2012-09-19 21:00:09
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「つまり、いっしょうけんめい戦って勝てば願い事が一つかなうんですね!」 「まぁ、そういう事なんだけれど、マスターの命が危険かもしれない。そういう戦いなんです。それはわかりましたか?」 「うん、いいよー。だって私……」 少女は屈託なく笑って言った。 「死んでも誰も悲しまないもの」

2012-09-19 21:09:02
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

聖杯戦争の説明を聞いた礼奈が、その最初の行動として選んだのは「釣り」だった。 「……マスター」 「なんですか?」 「いや、港で釣り竿を拾った時から疑問だったんですが、それで何を……」 「釣り!今夜の晩御飯を集めるんです」 「ば、晩御飯」

2012-09-19 21:15:53
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「私も生前は野山に分け入って食料を取ったりしたものですが……」 「そう、それと同じですよー」 「ですが、今は戦争中。このように姿を晒しているのは如何なものか」 「?」 「……いえ、何でもありません」 アーチャーは決意した。この少女を、自分は守らねばならない。

2012-09-19 21:18:45
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

礼奈が海に釣り糸を垂らしていた頃、ユアネスはある魔術師を訪ねていた。 「初めまして……だけど噂には聞いています。聖杯戦争、始まりの御三家。家柄と才能を併せ持つエリート魔術師」 「あら、随分詳しいのね。あなたは何者?」 「同窓生と言えばわかるかしら?」

2012-09-19 21:31:32
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「同窓……ああ、そう。時計塔の。それで、その同窓生が何の用かしら」 「直接的に言うけれど、今私は聖杯戦争に参加しているわ」 遠坂の娘、遠坂凛は身構えた。聖杯戦争に最も深く携わる御三家が一つ、遠坂家の魔術師である。 「それは良かったわね。だけど私には関係ないんじゃないかしら?」

2012-09-19 21:34:05
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「私は勝つつもりでいる。その為に貴女の協力を要請しに来たの」 「協力……ね。利用では無くて?」 「協力よ。遠坂は聖杯戦争を管理する他、この土地自体も管理していたはず。今回蚊帳の外に置かれたしまった以上、この戦いを手早く、確実に終わらせるのは貴女の為にもなるはずよ?」

2012-09-19 21:36:23
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

ユアネスにはこの地で頼れる仲間がいない。そもそもこの街を訪れるのは今回が初めてだ。まず有利になるために協力な助っ人を抱き込む必要があった。言葉の裏は打算であったが、的外れな事は言っていない。事実、凛の返事は首肯だった。 「いいわ、乗ってあげる」

2012-09-19 21:40:31
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「どこの馬の骨ともわからないのに引っ掻き回されるより、あなたの方が信用できそうだもの」 「ありがとう。貴女ならそう言ってくれると思ってたわ」 「お見通しってわけ?……まぁいいわ。協力するって言っても、私にできる事はほとんど無いと思って頂戴」

2012-09-19 21:46:17
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「直接戦闘に介入する必要は無いわ。ただ私に情報と……必要とあらば道具を」 「部外者の私にできるラインはそこまでね。ええと……これを。高純度の宝石を仕上げる時にできるクズ宝石。一応軽度の魔力は込めてあるから、緊急時には使えるわ」 「随分と気前がいいのね」 「痛い出費よ」

2012-09-19 21:49:11
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

『のう、マスターよ』 霊体化したランサーがユアネスに話しかける。 『先の魔術師と協力するのは良いが、これからどうする?ワシなら正面切って戦えば、半数は打ち取れると思うが』 「……事は慎重に、よ。私の魔力もあなたのも、無限じゃない。戦闘は確実性を優先して」

2012-09-19 21:52:00
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

『なるほどの。お主、頭は良さそうじゃ』 「当たり前の事を言っているだけよ。もし必要とあらば凛も切り捨てるし、他に駒さえあればあなただって切り捨てるわ。勝つためには、手段を選んでいられないもの」 冬木の海に日が沈む。もうすぐ夜が来る。夜は、人が眠り、別の物が動き出す時間……。

2012-09-19 21:54:34