ハイスピード解決探偵、ナズーリン

実験的連載的な
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適当 @5tuzi

金持ちで、声が大きくて、背が低い。いつも日傘を差して大学内を闊歩している。そして、よく道端にエロ本を設置している所謂キチ○イだ。できればお近づきになりたくないお金持ちナンバー2に挙げられていたこともある。ナンバー1は蓬莱山輝夜である。

2012-09-10 14:42:18
適当 @5tuzi

「こいつがなんで聖を……」どうしたものかと考えていると、またメールが来た。内容はさっきの名前は忘れてくれとの言うこと。でも最後にレミリア・スカーレットと記されている。間違いない。こいつはアホだ。ナズーリンは頭を抱えた。

2012-09-10 14:43:26
適当 @5tuzi

適当に報告してお茶を濁すだけでも、彼女はきっとお金を支払ってくれるだろう。だが、それだけではレミリアがなぜ、聖に敵意を持っているのかはわからない。ナズーリンはハードボイルドを自称する女性であったが、なんだかんだ義理と人情で動いてしまうため、ハーフボイルドと茶化されているのだった。

2012-09-10 14:46:03
適当 @5tuzi

今回もまた固茹で卵にはなれそうにない――半熟卵の探偵として、すべきことは一つだ。「聖に話そう。こそこそ私が裏でどうこうするよりも、聖ならきっと上手くやってくれる」そう結論付けたとき、ちょうど星が自分の財布ともう一つ財布を拾って帰ってきた。もう一度交番に行かせた。

2012-09-10 14:48:13
適当 @5tuzi

最終的に自分の財布を交番に届けるというドジを超えたドジを発揮してくれた星のことは置いといて、ナズーリンは素直に命蓮寺の夕食へとお呼ばれした。村紗と一輪は予定が合わず来れないらしい。村紗が居るとだいたいカレーになってしまうため、内心嬉しかった。

2012-09-10 14:50:22
適当 @5tuzi

ぬえは相変わらず自分に警戒心を持っているような素振りを見せていたが、子供に好かれる性質でもないとナズーリンはさほど気にしてはいなかった。子供の世話は、村紗や一輪にでもやらせておけば良い。「ナズーリン、今日はお客さんが来るんですよ」リビングで寛いでいると、星が言った。

2012-09-10 14:53:54
適当 @5tuzi

「さっきお財布を届けたときにちょうど落とした人とお会いしたんですよ。そのときに意気投合してしまって、良かったらどうですかってお誘いしたんです」「へぇ。君はいつも思うが妙なところで運が良いな。財布もすぐに戻ってきたし」「日頃の行いが良いからですね」「あ”?」「ヒッ!」

2012-09-10 14:55:06
適当 @5tuzi

「あらあらこんにちは」玄関のほうから聖の声が聞こえた。話しぶりからすると聖とも顔見知り? 偶然もあるものだ。注がれた緑茶を啜る。「あ、来たみたいですね。レミリアさん」「ぶっ」「きたなっ! ナズーリン! 何突然吐いてるんですか! およそ二十代の女性がする行動じゃないですよ!」

2012-09-10 15:01:37
適当 @5tuzi

「いやいやいやいや、いまレミリアさんって言った? 言ったよね?」「? 言いましたけど?」星の顔にはクエスチョンマークが浮かんでいる。私の頭の中にもクエスチョンマークが浮かんでいる。調査を頼んできた相手がその日のうちに直接乗り込んでくる? 私が関係者だということは知らない?

2012-09-10 15:02:57
適当 @5tuzi

そもそも私の面は割れているのだろうか? とてつもなく面倒なことになったことだけは間違いない。「星、私突然持病の踵かゆいかゆい病の発作が起きてしまったので薬を取りに事務所に帰らなくてはいけなくて」「ナズー」星が、子供を宥めるような口調で言った。「聖が、悲しみますよ」

2012-09-10 15:08:41
適当 @5tuzi

「うっ……」食べ物を頂くことを殊更大事にする聖にとって、夕食を食べずに帰るということは許されぬ大罪である。滅多に怒らない聖が怒ったときの恐怖は――大人でも素で泣く。いい歳して泣いてしまう。まさに前門の虎、後門の狼である。アワレなネズミは八方塞がりであった。

2012-09-10 15:12:01
適当 @5tuzi

それは異質な場であった。目の前に依頼人と思しきちびっ子が腰掛け、寅丸と聖は笑顔で食卓に豪勢な料理を並べている。肉食な星に合わせて普段よりも肉料理が多く振舞われている。ぬえはぼんやりと手伝って、ナズーリンは……。この状況に途方に暮れていた。

2012-09-20 16:56:31
適当 @5tuzi

(思えば昔から星には変なところで運があった。商店街の福引ではいつも処理に困る微妙な等を当てて西瓜を大量に貰ってきたり、ポケットティッシュ300個を当ててきたり。今回もその類か、偶然だろうが)恨めしそうに目線を向けるが、当の本人は意味を汲み取っていないのかニコやかに手を振ってきた。

2012-09-20 16:58:07
適当 @5tuzi

(こいつはダメだ。)諦めて依頼人であるレミリア・スカーレットに目を向ける。大学内に流れていた風評とは違い、見た目以外は落ち着いた淑女に見える。立派なレディである。パパとママはどこにいるのかな? 向こうはこちらに気づいているのだろうか。こちらの容貌は知らないことも十分に考えられた。

2012-09-20 17:01:02
適当 @5tuzi

「ナズーリンさんでしたっけ」「フォイ」「?」突如話しかけられて、変な声が飛び出してしまった。クエスチョンマークが頭の上に見えそうだ。「ああ、ほかの方からお名前を伺っていて」「あ、そうです。はい。ナズーリンです」「失礼かもしれないですが、どこのご出身で?」

2012-09-20 17:03:58
適当 @5tuzi

「私はその、両親がアゼルバイジャン(旧ソ連)の出身で、でも日本で育ったのでほとんど日本人でして」「ああ、それじゃあ私とほとんど一緒」単なる世間話か。肝を冷やして損をした。「それで、お仕事は何を?」美容院の会話かよ!

2012-09-20 17:05:58
適当 @5tuzi

「ああ、その……。自営業を」「探偵とかですか?」わかってんじゃねーかよ! 最初から! 今すぐ帰りたい! 顔面からサァと血の気が引いていく音が聞こえたような気がした。このまま気が遠くなったほうがいろいろと楽なのかもしれない。「は、はいその、探偵をやってます。仕事がないです」

2012-09-20 17:17:07
適当 @5tuzi

思わず仕事が少ないことまで白状してしまった。昔からこうなのだ。一度相手にペースに持っていかれると縮こまってしまう。ああ、星が『ナズーはネズミっぽいところがありますからね』とよくわからない評し方をしてきたのを思い出した。しかし考えてもみろ、これで人生が終わるわけでもない。

2012-09-20 17:19:03
適当 @5tuzi

それからのことはよく覚えていない。半分魂が抜けたようになって食事会を終えて、自宅へ戻ってメールBoxをチェックして、メールが来ていないことを確認してから布団に潜り込んで不貞寝した。せっかくの大口の依頼もパー。聖に伝えてなんとかしてもらうという算段もパー。現実はグーの音も出ない。

2012-09-20 17:20:50
適当 @5tuzi

そうだ。転職しよう。今ならどこか雇ってもらえるところもあるはずだった。幸い知り合いからそういう話も何度か来ていたし。起きて真っ先に考えたのはそんなことだった。メールboxを確認。例の件のメールを受信していた。憂鬱な気分になりながら開く。

2012-09-20 17:25:07
適当 @5tuzi

『既に潜入調査をしているだなんて期待以上だったわ。あなたの手腕を過小評価していたみたい。調査の費用として口座に××円を振り込んでおいたから。報酬に関してもまた相談しましょう』やっぱりこの仕事辞めようかな。なんだか物凄い勘違いされてるみたいだし。ナズーリンは頭痛薬を飲んだ。

2012-09-20 17:28:12
適当 @5tuzi

その後、簡単な調査報告をするだけで、半年間の生活費に困ることがなくなったナズーリンは、お金はあるところにはあるのだなという至極当たり前で、残酷な事実を再確認し、妙なところが上得意となってしまったことを確信した。そしてまた新たな依頼メールを受信した。

2012-09-20 17:29:33
適当 @5tuzi

『蓬莱山輝夜って言うんだけど、あのレミリア・スカーレットの醜聞についてなんかない?』友達に対するメールかよ! ナズーリンは机を叩いて、ヒリヒリした痛みでちょっとだけ泣いた。しかも報酬額がこれまたとんでもないことになっている。この町の金持ちどもは一体なんなんだ。

2012-09-20 17:30:48
適当 @5tuzi

こうして思いがけず、棚ぼたで二軒の上得意先を作ることに成功したナズーリンは、今日も逃げた犬や浮気調査で小銭を稼いでいた。ハードボイルドになれる日は遠い。というか、基本的にこの町でハードボイルドとして立ち回るような事件が起きるはずもない。「あ、ナズーリンお茶淹れてください」

2012-09-20 17:32:29
適当 @5tuzi

「二年間バイト代抜きにするからな!」「え? こないだ大口の依頼料が入ったって聞いたんですが」「誰から?」「レミリアさん」「なんなんだよもう!」一般人スペック探偵、ナズーリンの苦闘はこれからも続く。が、それを語るのは今ではない。

2012-09-20 17:33:45