【シューニャリアーナ享受論】私はフィーナ、恋する月のお姫様【夜明け前より瑠璃色な】

まさかこのような体裁を取ろうなんて発想が自分にあろうとは思いませんでした。 シーンの代わりに、その時のフィーナの心情を描く。 …なんたる狂気の沙汰。初めそう考えて息が詰まりました。 続きを読む
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The
Diary
of
Feena

8月 7日 月曜日

―――――――――――。

やっと始まった、私と達哉の為の本当の夏休み。

今日は、その記念すべき第一日目の日だ。
情熱的な夜明けの瑠璃色を見送って始まった今日は、特別なことは何もしない、他愛のない日常だった。けれど、何だかいつもと違って、全てが輝いて、美しく感じられた。

いつもと同じだけれど、いつもより明るい朝の挨拶。
いつもと同じようで、とびきり美味しいミアと麻衣の作る食事。
まったくいつもと同じなのに、とっても明るく弾む皆との会話。

何もかもが、私と達哉を祝福してくれているように感じられる、とっても心地よいスタートダッシュの一日だった。

そんな、喜びに満ちた初めの一日も、もうすぐ終わりを告げようとしている。
なのに、私の心はまだ、あの時のように躍っている。
もうこんなにも時間が遅いと言うのに、全く眠気一つ感じられない。

今宵、私は高鳴る気持ちのなすがまま、私は今日の日記を書いている。

あの時以来だ。こんなに高ぶる気持ちが嬉しいのは。
ああ、まったく、もう。私ときたら。どうしたことだろう。

…今宵は書くことがとても多くなりそうだ。

私がまだ、とても幼かった頃。
王国の窓から見える星空に、くっきりと光っている蒼い星。
私はあの星が本当に大好きだった。
こんな星を目の当たりにできる自分を、とっても誇りに思っていた。

夜眠れない時には、何時もこの蒼い星が顔を覗かせてくれるのを待っていたものだ。

あそこにも人が住んでいると聞いて、ずっと私は、一度この蒼い星に行ってみたい、と思っていた。

私の願いは、幼いうちにすぐに叶えられた。

どこまでも真っ青で、全てが透き通っていて、美しい星。
渡り鳥が飛び交い、陸に目をやれば生き物たちが勢いよく大地を駆け抜けていたかと思うと、今度は幾多もの鋼が夜の光を放っている人々の街が私を迎えてくれたり。
ロケットから眺める風景は、それだけで私の心を何倍も満たしてくれた。

そして、私はそんな風景を胸に焼きつけながら、小さな地球の大地に到着した。

初めて噛みしめる、地球と呼ばれる、あの美しい星の、憧れの大地、空気、情景。

私はそれを踊るように踏みしめ、それを溺れたように吸い込み、連れ去られるかのように眺めては、逐一驚いていたと思う。

とにかくすべてが私にとって宝物だった。
けれど、そこで私は何よりも強大な感激を受けたことを、しっかりと憶えている。

---私は地球の人と、友達になった。
その時は名前を聞いていなかったのだけれど―――
彼は、私に地球の全てのものを教えてくれた。それがたまらなく嬉しかった。私を一つ一つ、私の眼に広がる全てのものに釘づけにして、驚かし、喜ばせてくれた。
あれは何?
これは何をするもの?
それはどうやって食べるの?
彼はそれらを全部教えてくれた。私は地球のことを、彼からいくつ教わったのだろう。
今覚えている限りを書きだしても相当な量の物事だと思う。
雲、空の水色、地球に咲く花や、駆け巡る動物たち、雲、二人で一緒に食べた綿菓子に・・・。
枚挙すれば暇がなくなってしまうほど。ここにあるもの全て、この少年が私に教えてくれたものである。

――――私は彼と街中を駆け巡った。駆け巡って、じゃれあって無邪気に遊んだ。本当に幸せだった。
彼は私をあらゆる場所へ連れて行ってくれた。彼が連れてくれる場所は、全てが新鮮で、輝いていた。

私はそのとき、たぶん彼に私を、どこでもいいわ、あなたの好きな所へ、遠くへ、どこまでも、そう願っていた、と思う。幼心ではあるが、当時の私の心境は、きっとそういうものだったと思っている。

・・・でも、その時は彼は私をそんな遠くまでは、連れて行ってくれなかった。
――――いいえ。違うわ。私は連れて行って貰えなくなった。
なにもかもわからない間に、それが引き裂かれた気がした。
私は王女として命令したけれど―――大きなボディーガードたちはいう事を聞いてくれなかった。

どうしようもない悲しみを振り切って、私は捕えられたその子に向って、冷たい声で別れを告げてしまった。
自分の気持ちにもないような、礼儀で取り繕った言葉で、私は彼を見送ることとなったのだ。

――――しがみついて私を呼んでくれた姿は、今でも強く覚えているわ、達哉…。
達哉…あの時私が、立派な車の中で泣いていたことを、きっと知らないでしょう…私も、同じ気持ちだったの…。

泣いている自分を伝えられなかったあの時は、たまらなく悔しかった。

―――――――――――
そんな悔しさを密かに抱えながら、
私は今、つまり次の地球留学の日が到来するまで、ずっと月でなすべきことをこなし続けていた、のだと思う。

・・・なにか、決して煮え切らない物をどこかに抱えたまま。

そして、10年以上が過ぎて。
今、私はもう一度地球に来れた。
そして、達哉、あなたとも出会う事が出来た。

一度ここに来たことがあったとはいえ、身の回りの全てのものが新鮮だった。
そんな私を、貴方は快く迎えてくれたわね。
それに、あの時のようにとても丁寧にさまざまなものを教えてくれたわ。
学院での生活。様々な食文化。遊び。お店や、技巧。仕事。それに風景。

貴方が気づくのも遅くは無かったわね。
少しずつ、ちらつかせては見たのだけれど、貴方も覚えてくれていた。大使館の前で私がつれられようとしたときの貴方の顔は、幼いころの貴方そのものだった。

その後も、ずっとずっと私を、追いかけ続けてくれたわね。

不器用にも必死になってくれる姿が本当に愛おしかった。

…だから、誓った。貴方を伴侶にしてみせる、と。
ずっと、求めていた、幼いあの時からの恋人だもの。
貴方がそばにいなければ、私は私でなくなってしまうから。

たとえ私が姫としての責務を、貫いたとしても。

・・・。
嬉しかった。それを貴方も一緒に誓ってくれた時。
非力ながらも、私を追いかけようとしてくれた時。
私が挫けた時、叫んで私に鞭を打ってくれた時。

迷っていたのは私の方だった、と気づかせてくれた。

剣道の試練も、一緒に乗り越えてくれたわね。
戦いの後の、ごつごつとした達哉の体が、輝いていたわ。

そして、その体で交わしてくれた、二人だけの契り…。
誇らしかった。喜ばしかった。愛おしかった。
涙が出てしまうほど、嬉しくて感激だった・・・。
達哉、貴方は、・・・
あの時から達哉を大好きだった私の事を、ついに・・・
フィアンセ、にしてくれたのね・・・。

長い間、待っていた貴方との再開を、叶えてくれた。

そして、私をきつく抱きしめてくれた。
本当に、本当に本当に嬉しかった。

どんな感謝の言葉でも言い表せない気持ち。
今、そんな気持ちでいっぱい。
本当に、本当に幸せ。

貴方の顔を思い浮かべる度に、今日までの過去を何度も振り返ってしまう。そして、今日までの想い出にまた胸が締め付けられてしまう。

・・・思い出すたび、何度も貴方に言いたい。
そんな想いをさせてくれて。
私を愛してくれて。

本当に、本当に本当に、有難う。
これからも、ずっとずっと、離れない。
誓って。貴方とともに国を動かしていく。
貴方と私の、全てのために―――――――。

―――――――――――――――――――――
そんな想いを、今日はどうしても此処に書き残したかった。
こんな気持ちのまま、私はあと20日も達哉といられると思うと、また今宵も昨日のように眠れなくなりそう。

・・・いや。
今日は我慢よ、フィーナ(わたし)。
こんなことを想うと、とっても気持ちが締め付けられて、物凄く寂しくなるけれど―――――

――――――――はっ。

なんということだろう。今宵の日記はいつになく冗長。
それに支離滅裂だ。まるで私が書いていないみたい。
相変わらず、達哉を想うとそれだけで飛び上がってしまう。
相変わらず、脆いな、と思う。

今後、もっと会えなくなることも増えるかもしれないのに―――――――

…いいえ、むしろ逆ね。
それなら、それでもいいわ。
だって幸せなんだもの。こんなに深夜に酔いしれたまま狂ってみたのは本当に初めてなのだもの。
こんな思いが出来るのは、今だけなのよ。

・・・そうだ、決めた。
残りの夏休み。私はいつも、達哉と一緒にいるわ。
一時も離れないでいるわ。
うふふ、覚悟して頂戴。
私が地球に来てから、この時までどんなに幸せだったか。
たっぷりと教え込んでやるつもりよ。
耐えられないくらい、私にうかれて欲しい。
そんな日々を、達哉に味わわせてやりたい。
幸せを仕返ししてやるんだわ。全部、全部受け取ってもらうの。思いの丈を。

ふふっ、・・・・達哉のほうも、そう想っているかもしれないけれど!!

さあ、今日も枕を高くして、夢に眠りましょう。
瑠璃色の星に住む王子様の、悪戯なキスを期待しながら・・・。


DIARY
OF
FEENA

ENDE.