アールさんのティータイム

上原恵(@kei00521)作のツイッター短編小説です。
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アールさんのティータイム

ウエダメグミ@ぐら の 休息期間 なんて なかった @kei00521

アールさんはタカミチさんの手伝いをしながら、何気ない日々を大切に過ごしていきました。そんなある日、タカミチさん宛に一通の手紙が届きました。差出人の名前を見て、タカミチさんの顔が強張ります。そして、手紙に目を通すとどこか苦しそうな表情を浮かべました。

2012-03-20 17:33:31
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不安になったアールさんが尋ねます。「タカミチさん、その手紙は……」ハッとして、タカミチさんが薄く笑います。手紙をテーブルの上に置いてから、タカミチさんがアールさんの目の高さに合わせました。「アールさん、あなたの名前はこの手紙の差出人からいただいたものなんですよ」

2012-03-20 17:39:55
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差出人の名前はマカさん。タカミチさんとは学生時代からの付き合いである、古い友人です。いつも明るいマカさんに、タカミチさんは元気をもらっていました。いつの間にか互いを想い合うようになっていたふたりでしたが、些細なことから絶縁状態になってしまったのです。

2012-03-20 17:50:51
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「彼女はアールグレイが好きなんですよ」だからアールなんです、とタカミチさんは言いました。一度壊れて、全部を忘れてしまったアールさんにとって『アール』という名前はキラキラ輝く宝物なのです。もう、アールさんにとってマカさんは他人ではなかったのです。

2012-03-20 17:56:29
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「重い病気を患っているようです」長い長い溜息の後、タカミチさんはぽつりと言いました。マカさんからの手紙には、謝罪と病気のこと、それからもう長くはないことが綴られていました。アールさんはココロの辺りが鈍く軋んでいるのが分かりました。

2012-03-20 18:01:42
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@kei00521 「会いに行かないのですか?」アールが静かに尋ねます。タカミチさんは手紙に目を落としたままで答えてくれません。アールさんのココロは、きしきしと痛みを増すばかりです。ぴんと張り詰めた空気だけが流れていきます。すると、アールさんが突然キッチンの奥へと駆け出しました。

2012-03-20 21:35:33
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@kei00521 しばらくして戻ってきたアールさんはトレイを手にしていました。白いポットとカップが乗っています。漂う香りにタカミチさんは弾かれたように顔を上げます。「アールグレイ……」アールさんはトレイをタカミチさんの前に置くと、「タカミチさんはお茶が好きで、たくさん飲みます」

2012-03-20 21:42:58
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@kei00521 でも、とアールさんは目を伏せました。タカミチさんはいつもお茶を飲んでいて、キッチンの戸棚にはたくさんの種類のお茶が並んでいます。アールはお茶を入れるのが大好きで、お茶を飲んでホッと一息つくタカミチさんの横顔を見るのはもっと好きでした。#アールさんのティータイム

2012-03-21 10:06:46
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@kei00521 しかし、タカミチさんがひとつだけ飲まないのがありました。それがアールグレイだったのです。戸棚の奥にひっそりと置いてあるのをアールさんは知っていました。一度も封を開けていないアールグレイは、タカミチさんにとって大切なものに思えたのです。#アールさんのティータイム

2012-03-21 12:57:06
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@kei00521 アールグレイをカップに注いだアールさんは、ぐいっと一気に飲み干しました。「アールさん!」タカミチさんが慌てるのも無理はありません。アールさんは機械人形ですから、飲み物を飲むことなど出来ないのです。アールさんも分かっているはずでした。#アールさんのティータイム

2012-03-21 13:04:12
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@kei00521 分かっていても、アールさんは飲まずにいられなかったのです。生まれて初めての味は、爽やかな風のようでした。アールさんの身体に入ったアールグレイは、どこかで悪影響を及ぼすことでしょう。空になったカップを置いて、アールさんは口を開きました。#アールさんのティータイム

2012-03-21 17:19:57
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@kei00521 「会いにいきましょう」今にも泣きそうな顔でアールさんが言います。「タカミチさんはマカさんに会いたいのでしょう?」返事に窮するタカミチさんは、やがて「いいえ」と短く答えました。しかし、アールさんには分かっていたのです。#アールさんのティータイム

2012-03-21 23:01:32
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@kei00521 タカミチさんは嘘をつくとき、耳の付け根がうっすらと赤くなるのです。「タカミチさん」アールさんは、タカミチさんの返事をじっと待ちました。カチコチ、カチコチ、時計の針の音だけが響いていきます。いつの間にか、窓から橙色が差し込んでいました。#アールさんのティータイム

2012-03-21 23:14:41
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@kei00521 「アールさんはいつも真っすぐですね」長い沈黙を破ったのは、タカミチさんの一言でした。「飾らないから、心にそのまま届く。アールさんの良いところです」タカミチさんの言葉に、アールさんは少し照れて俯きました。タカミチさんは微笑んで続けます。#アールさんのティータイム

2012-03-22 19:33:49
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@kei00521 「マカさんに会いにいきます」アールさんの顔がパッと輝きます。嬉しそうなアールさんを見ているタカミチさんは、どこかすっきりとしていました。しかし、すぐに焦った様子でアールさんに聞きました。「アールさん、体は大丈夫ですか?」#アールさんのティータイム

2012-03-22 19:50:45
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@kei00521 首を傾げたアールさんでしたが、さっきアールグレイを飲んだことを思い出してああと手を叩きました。「大丈夫ですよ、タカミチさん。どこも異常はありません」ふわりと笑みを浮かべるアールさんは嘘をついていません。少なくとも今は。#アールさんのティータイム

2012-03-22 22:18:44
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@kei00521 安堵の息を漏らしたタカミチさんは、強めの口調で言います。「もう、あんな無茶をしないで下さい」心配をかけてしまったと、アールさんは反省して頷きました。「ごめんなさい」しゅんとしてしまったアールさんの頭に、タカミチさんの手が乗ります。#アールさんのティータイム

2012-03-23 07:23:52
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@kei00521 「それじゃあ、行きましょうか」「はい」アールは返事をすると、皮で作られた丈夫なトランクを手にしました。アールさんはどうしてこのトランクを持っているのか覚えていません。タカミチの話では、壊れていたアールさんの傍らに置いてあったそうです。#アールさんのティータイム

2012-03-27 07:58:48
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@kei00521 それでも、アールさんはこのトランクを大切にしていました。出かける時はいつも一緒です。「マカさんの家はどこにあるのですか?」アールさんが尋ねると、タカミチさんは遠くの山を見つめました。「あの山を越えた向こうの町に住んでいるんです」#アールさんのティータイム

2012-03-27 08:08:30
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@kei00521 おそらく、とタカミチさんは苦笑して続けます。「3日は歩きますね」そんなタカミチさんを見て、アールさんは胸を張って言いました。「任せて下さい、タカミチさん。疲れたら私が背負って歩きますから」#アールさんのティータイム

2012-03-29 12:37:54
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@kei00521 華奢なアールさんですが、機械人形なので誰よりも力はありますし、疲れることもありません。「それは心強いです」タカミチさんは目許を和ませると、歩き出しました。アールさんは小さく頷いてから、タカミチさんの隣に並んで歩いていきました。#アールさんのティータイム

2012-03-29 12:38:44
ウエダメグミ@ぐら の 休息期間 なんて なかった @kei00521

@kei00521 お日様に3回、お月様に2回会ってようやくマカさんの家に辿り着きました。タカミチさんの横顔は緊張しているようでした。深呼吸して落ち着くと、木で出来たドアをコンコンと叩きました。随分と置いてから「はい」と綺麗な声が返ってきました。 #アールさんのティータイム

2012-06-02 17:41:05
ウエダメグミ@ぐら の 休息期間 なんて なかった @kei00521

@kei00521 「僕です」タカミチさんが言うと、ドアの向こうで息を飲むのが分かりました。「入って」固い返事が返ってきて、アールさんとタカミチさんは家の中に入りました。タカミチさんがずんずん奥の部屋へと行ってしまいます。 #アールさんのティータイム

2012-06-02 17:42:59
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@kei00521 アールさんが慌てて後を追うと、部屋の中にタカミチさんとベッドの中で身を起こしている女の人がいました。目が合うと、女の人はふわりと笑みを浮かべて口を開きました。「初めまして、マカと言います」アールさんは思わず見惚れてしまいました。#アールさんのティータイム

2012-06-02 17:49:04