#空想横丁 個人的まとめ

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@sktkx

ほどよく熟れたカボチャは、笑い疲れたように目を閉じて静かにころんと蔓から外れるのだが、もうそれが十個ほど貯まっていた。それを使ってクッキーやケーキを作る。「お菓子か、悪戯か!」叫びながら町をまわる子供たちに、ケタケタ笑うクッキーは大ウケだった。 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-11 21:10:43
@sktkx

こんばんは。いい夜ですね。今日は主について仕入れにいっていたので、店を休んでしまいました。森の奥に住んでいるお婆さんが楽しみにしてくれているので、秋の紫玉葡萄のワインは僕も一緒に受け取りにいくのです。今年も美味しくできたようですよ? #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-13 20:16:15
@sktkx

「今まで酒屋なんて来たこと無かったけど、面白いね!」最初にそう話しかけてきたのは、栗色の髪の少女だった。商売柄、大人なら覚えているが、子供はあまり顔馴染みじゃない。カタンはついいつものくせで礼儀正しくお辞儀をすると微笑んだ。「いらっしゃいませ」 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-14 09:46:49
@sktkx

「やだ。あたしたちお客さんじゃないよ」少女が笑う。馬鹿にしているわけじゃなく、大人扱いの挨拶に照れたのを隠すようなくすぐったそうな笑い。カタンは少しばつが悪そうに笑みを浮かべた。「そう・・・だね。来てくれてありがとう。紅茶でもどう?」 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-14 09:49:04
@sktkx

「いいの?」頷いてカタンは少女を店の窓際に配した小さなテーブルに案内した。ケタケタ笑って出迎えるお化けカボチャに目を丸くする少女に椅子を勧める。扉は開け放ち、窓だけでなく扉からも店内が見えるようにしておいた。 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-14 09:51:48
@sktkx

案の定、興味を引かれた子供たちが、最初はおずおずと、そしてだんだん好奇心いっぱいの顔をして店に入ってくる。優しい紅茶の香りを漂わせて、カタンは微笑んだ。「お化けカボチャがある間は、この店は子供優先だよ」主のにやにや笑いが頭をかすめた。 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-14 09:55:20
@sktkx

「どうぞ」「ありがとう」少女はうれしそうに笑った。「あ、まだ言ってなかった。私はアベリア。よろしくね・・・えっと」「僕はカタン。この店の主の使い魔だ」「よろしくね、カタン」花の名前の少女は、使い魔だと聞いてもまるで変わらない笑顔でそう言った。 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-14 10:00:57
@sktkx

十月、【ドラシネの酒屋】はハロウィン月間です。もちろんお酒も売りますけど、子供たちにはお菓子、お嬢さん方には紅茶やケーキなどもご用意しています。基本的にお持ち帰り専門のお店ですが、お客様が少ない時は店内でお茶していただけますよ。 #空想ツイート #ドラシネの酒屋 #空想横丁

2012-10-15 12:51:25
@sktkx

【世界樹の一葉】は、リュンクス通りにある古本屋。ドアに埋め込まれたステンドグラスが目印で、「商品がどれも良質だ」と評判のようだ。ただし、少々高額。主人は無愛想だが、本当に客が求める本をよくわかっている。噂によると本の気持ちがわかるらしい。 #空想横丁 #世界樹の一葉

2012-10-15 13:13:52
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「【世界樹の一葉】という店は別にやりたくて始めた訳じゃないんだ」と主人は黒い小さな丸眼鏡をくいっと押し上げて苦笑する。「知らない間に本にまとわり付かれるものだから、しまう場所がほしかったんだよ」しかしその膨大な数は、何年かけて集まったのだろうか。 #空想横丁 #世界樹の一葉

2012-10-15 18:09:32
@sktkx

柔らかく緩やかに波打つ長い栗色の髪と白い肌。黒眼鏡の奥に隠した瞳は薄い蒼。年の頃は二十代くらいに見えるが、落ち着きと、底の見えない微笑みが年齢不詳にしている。店が出来た時から年を取っていないように見えるのはどうしてだろう? #空想横丁 #世界樹の一葉

2012-10-15 19:41:52
@sktkx

【世界樹の一葉】が閉店すると、主人は内側から扉のステンドグラスにカーテンを引く。すると暗めの店内のそこここにぽわりと小さな灯りが浮かび始める。壁一面の、そして店内のありとあらゆる本棚から、ぽわり、ぽわり。そして淡い光たちはやがて口々に喋り始めるのだ。 #空想横丁 #世界樹の一葉

2012-10-15 21:23:23
@sktkx

主人は黒眼鏡を外すと、ひとつひとつに耳を傾ける。古い本は好みがうるさい。やはりどの本も最初の持ち主に思い入れがあって、どうしても選り好みをしがちなのだ。「大丈夫だよ。私がいい持ち主を見つけてあげるからね」彼の穏やかな声に本の心たちは嬉しそうに踊った。 #空想横丁 #世界樹の一葉

2012-10-15 21:29:34
@sktkx

「こんにちは」翼猫のカタンはステンドグラスのはまったドアをゆっくりと押し開けた。インクと紙の匂い。なにかが息を潜めているかのような緊張感。そして店の奥では年齢不詳の黒眼鏡の青年が微笑む。「やあ、ちょうど君にあげたい本があったんだ」 #空想横丁 #世界樹の一葉

2012-10-16 22:03:41
@sktkx

雨が降っている。誰も来ない店の窓から外を見て、カタンはほうっとため息をついた。猫耳が少し萎れて、尻尾もたらんと垂れている。今日はお化けカボチャも静けさに遠慮するようにおとなしい。なんとなく寂しくて、なんだか眠くなる感じ。時間がゆっくり流れていた。 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-17 12:28:23
@sktkx

「はいはい。窓は全部しまっているよ」古本屋【世界樹の一葉】からは、雨音に紛れてこんな声が聞こえてくる。古い本は湿気が嫌いで、雨音を聞くと口々に文句を言い始めるのだ。「店は閉めないよ。運命の出会いを逃したらもったいないだろう?」見透かすように微笑んだ。 #空想横丁 #世界樹の一葉

2012-10-17 12:47:25
@sktkx

お客さんがいない酒屋で、翼のある黒猫がうつらうつらと昼寝している。雨が子守唄のように静かに窓を叩いている。店の主人がそっと扉に臨時休業の札をかけた。今日はおやすみ。また明日。 #空想横丁 #ドラシネの酒屋

2012-10-17 12:57:59
@sktkx

蝋燭屋・月灯にようこそ♪蝋燭はいかが?普通のだけじゃなくて、香り付き、模様入り、炎の色もお好みで。それだけじゃなくてよ。灯すと忘れていた記憶を映すものや、伝言を封じ込めたものもあるし、個別に対応させていただくわ。もちろん秘密厳守よ。 #空想横丁 #月灯

2012-10-17 18:17:47
@sktkx

【蝋燭屋 月灯(つきあかり)】ケリドーン通りにあり、主は女言葉を話す派手な金髪の青年。既製品からオーダーメイドまで様々な蝋燭を扱う。。「お得意様になるとイイ事がある」と評判のようだ。お向かいは『煙草屋』だが、けむいので好きじゃないらしい。 #空想横丁 #月灯 店主はオネエwww

2012-10-17 18:23:59
@sktkx

「いらっしゃい」店の扉を開けると少し低めだがハスキーで色気のある声が出迎えてくれる。少し薄暗い店内には、扉のステンドグラスから射し込む色付けされた光と、蝋燭の炎が揺らめく。「欲しいものはあって?」店の主人は豪奢な金髪を揺らして、微笑みを浮かべた。 #空想横丁 #月灯

2012-10-17 21:15:46
@sktkx

蝋燭屋は妖しい笑みを浮かべて客を見る。客は彼の美貌と、布をでたらめに重ね合わせたような服と、その口調に呆気に取られ、不躾と言えるほどの視線も気にならない。もちろん彼に慣れていれば、呆然とすることはない。「いつもの蝋燭をください」「なんだ、カタンじゃないの」 #空想横丁 #月灯

2012-10-17 21:30:58
@sktkx

酒屋の翼猫は、店番をしているときの愛想を欠片も持たずに来たらしかった。「あんたもう少し愛想のいい顔したら?アタシも売り上げに貢献してるじゃないのよ」「だからって、昼間っから飲むのはどうなんです?」蝋燭屋の手にあるグラスを見て、カタンは眉間のしわを深くした。 #空想横丁 #月灯

2012-10-17 21:46:33
@sktkx

「あら、いいじゃないの。うちはどうせお子様には縁がない店ですもの。それに、こんな弱いお酒じゃ酔わないわ」確かに蝋燭屋は顔色ひとつ変えていない。彼にとっては、水みたいなものなのだ。「でもお酒くさいんですよね」呟いて、品物を受け取ったカタンは彼に代金を支払う。 #空想横丁 #月灯

2012-10-17 21:52:16
@sktkx

「なによぅ、酒屋の番猫のくせに」「試飲をする時しかお酒の匂いはしないんで。では」「毎度ー」翼猫はひらりと身を翻して店を出た。いつも思う。あの人はどうして薄暗い店でお酒ばかり飲んでいるのだろう。陽気な言動の合間にふっと寂しげな瞳をすることをカタンは知っていた。 #空想横丁 #月灯

2012-10-17 22:00:49
@sktkx

だが、その理由はなにも知らない。誰も、蝋燭屋がここで蝋燭屋を開く前のことは知らないのだという。閉まった扉をちらりと見て、カタンは店へと駆け出した。触らぬ神に祟りなし。余計なことに首を突っ込むべきじゃない。好奇心は猫をも殺すのだから。 #空想横丁 #月灯

2012-10-17 22:06:42