中沢 新一 『ミクロコスモス II』について

中沢 新一 『ミクロコスモス II』について抜粋です。
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1)ヴェルクマイスターの改革からさらに合理化が進み、十二平均律が確立します。そして19世紀以降、ピアノの大量生産がはじまると、この平均律が圧倒的な影響力をもつようになります。(以下、中沢新一「耳のための、小さな革命」『ミクロコスモスⅡ』より抜粋ツイートします)

2011-09-27 15:25:03
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2)日本人の心の奥底、記憶の根底には、ペンタトニック(五音音階)な音楽が流れているのを感じます。わらべ歌や地方の民謡のなかに残っているものが、私たちのなかにもいまだに鳴り響いています。けれども、明治以降の音楽教育では最初から平均律をもとに音楽の体験がつくられてきました。

2011-09-27 15:25:21
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3)音楽の世界でおこなわれた画一化が、今日、グローバリゼーションと呼ばれるものにも通じています。私たちの世界は、いま、どこか停滞しているように感じられますが、これを次の変化へのきざしと見ることはできないでしょうか。

2011-09-27 15:25:35
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4)近代の150年ほどのプログラムがほぼ可能性を出し尽くしてしまったように見える今日、私たちは、人間のなかにまだ発現していない部分をかかえた可能性の収蔵庫を点検してみることが必要なのではないでしょうか。

2011-09-27 15:26:14
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5)西欧の合理的な音楽の発端をつくったピタゴラスは鍛冶屋からアイデアを得たという話をしましたが、これは製鉄技術の重要性を暗示するエピソードです。製鉄がおこなわれるようになって人間は国家をつくり王が誕生しました。そのときから人間の文化のあらゆるものが組織替えを起こしました。

2011-09-27 15:26:42
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6)鍛冶師はシャーマンであり、最初の音楽師であったと、世界中の神話で語られています。地下世界から砂鉄や鉄鉱石を取りだして精錬をおこなう製鉄の技術と、複雑微妙な音のかたまりから振動数が整った音の組織をつくりあげる音楽の技術は深いところでつながっています。

2011-09-27 15:27:13
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7)こうした技術を積みかさね、人間は文明をつくりあげてきました。そして、そういう文明自体が、いまひとつの終着点に近づいているのではないでしょうか。鍛冶師が最初につくったものは何だったのか。それは剣と指輪であったと、古いヨーロッパの神話は語ります。

2011-09-27 15:27:40
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8)剣は王者をつくる武器になります。指輪は王権の象徴です。鍛冶師の炉のなかでは、砂鉄や鉄鉱石が高熱によって溶解し、大地のエネルギーが流動体となっていますが、そこから強力な武器がつくられました。そして人間はその武器をつかって、大規模な戦争をはじめ国家をつくりだしたのでした。

2011-09-27 15:28:11
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9)このときからあの鼻笛や虹の蛇が立てていたような微妙な音楽は、多くの人の耳にはほとんど聴こえなくなってしまったのです。21世紀は、この剣と指輪をもとあった場所に戻す時代なのだと思います。剣は人間の技術力の象徴でもありますが、それはついに核兵器にまで至ってしまいました。

2011-09-27 15:28:47
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10)私たちはこの剣をどこかへ戻さなければなりません。指輪もどこかへ戻す必要があります。これはトールキンの『指輪物語』の主題です。20世紀最高のファンタジー文学には、争いのもととなる指輪が出現します。この指輪がホビットのもとに転がりこむ。

2011-09-27 15:29:42
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11)トールキンが描いているホビットの生活や風習を見ていると、この種族はひじょうにやさしく、鼻笛を吹いて自然に呼びかけていたような人々でした。指輪をもとあった場所である火山の火口に戻す役目を果たすべき者として選ばれたのが、こういうホビットでした。

2011-09-27 15:30:07
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12)彼らは困難な旅をつづけて指輪を火山のなかに投げ入れることに成功します。そして世界に大いなる変化がもたらされたというのが『指輪物語』のあらすじですが、この物語は私たちにとっても、ひじょうに大切なテーマを物語っているように思われます。

2011-09-27 15:30:34
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13)今日の私たちの世界では、国家どうしが、強大な兵器をもって睨みあい、戦っています。そして武器と同じ金属からつくられる貨幣が私たちの世界を席捲しています。武器と貨幣、剣と指輪を、どこかに返すという壮大なヴィジョンを人類はいまいちど抱かなくてはなりません。

2011-09-27 15:30:51
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14)こういうことができるのは無欲なホビットだけです。ところで私たち日本人はこの通り小さなからだですし、その資格があると思います(笑)。これほど発達した科学技術を享受しながら、なぜかアメリカ先住民やオーストラリア先住民と同じような感覚を、どこかで持ちつづけています。

2011-09-27 15:31:20
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15)大金持ちになったりしても、どこかさまにならないし、自分でも落ちつかない性分の持ち主です。日本人に残された唯一の可能性は、ホビットになることではないでしょうか。世界に貢献できる唯一の道は、そこから開けてくるでしょう。

2011-09-27 15:31:42
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16)革命は英語でrevolutionです。reは「元に戻る」、voluteは「巻き込む」。つまり繰りかえし源泉に戻っていくことがrevolution。前へ前へと進み出ていく線形ではなく、後ろを振りかえり、過去の痕跡を巻きこみながら前にむかっていく非線形の動きをしめすものです。

2011-09-27 15:34:22
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17)近代においては、過去を否定して前進することばかりが革命のように考えられてきましたが、語源を考えてみれば、つねに源泉に立ち戻りながら、渦を巻くようにして外に進み出ていき、また源泉に戻っていくという循環運動こそが、革命の原動力だということがわかります。

2011-09-27 15:34:46
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18)いままで世界中の誰も、指輪と剣を火山に戻すことはできませんでした。この剣や指輪を手にした瞬間、自分のものにしたいという誘惑に駆られてしまったからでしょう。しかし、この誘惑を断ち切って、火山のなかに投げ込むことのできる人たちが、21世紀にはあらわれてこなければならない。

2011-09-27 15:35:13
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19)その意味で、20世紀の後半に現代音楽の先端で起こった実験をたいへん興味深いことに思うのです。それは、鍛冶屋にはじまって十二平均律へと至った体験をどこかにお返しして、私たち人類のなかに、より広大な音の体験を呼び戻そうとする試みの先取りだったと考えられるからです。

2011-09-27 15:35:50
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20)音楽の領域でおこることが、そののち他の領域でおこることを先取りして、解決へのヒントを与えてくれることがよくあります。おそらくは、純正律音楽というものが、次の時代をひらく何かのヒントを私たちに与えてくれるはずです。

2011-09-27 15:36:15
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以上、1~20まで、中沢新一「耳のための、小さな革命」(『ミクロコスモスⅡ』所収)より一部抜粋してツイートしました。 http://t.co/WDiaHJPB

2011-09-27 15:36:50
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