- umechan0110
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176.人を殺すのはもう、うんざりだ。頼むから…俺が殺った最後の人間にだけはなるな。お前が生きた意味は、まだ証明出来てないだろ?お前は、あの子と幸せになって初めて、報われるんだ。死ぬのはまだ早い…そうだろ、キュヒョナ。 #TOP
2012-11-09 22:37:36177.ソンミンさんに部屋を追い出されてから、気が遠くなる程長い時間が経ったような気がした。お願い、キュヒョンを助けて。自分が撃った相手を助けろだなんていう強引な願いを、思いの外簡単に呑んでくれた事に驚いた。一体何の心変わりだったのだろう。でも今は、彼を信じるしかない。 #TOP
2012-11-09 22:38:56178.手術に入る直前のソンミンさんの顔は、あの猟奇的な顔とは全く違う真剣な面持ちで。二人の過去について何も知らないけれど、直感で、やはりソンミンさんにとってキュヒョンは大切な人間なんだろうと勝手に理解した。「お願い…キュヒョンを、助けて」 #TOP
2012-11-09 22:40:16179.たくさんの血を流して、みるみる冷たくなっていったキュヒョンを思い出して震えが止まらなかった。もしかしたら私は、このあとソンミンさんに簡単に殺されるかもしれない。本当に、それでも構わない。貴方が死ぬ事は、どんな出来事よりも悲しくて辛い事だから。 #TOP
2012-11-09 22:41:29180.「お前…ずっと起きてたのか」「キュヒョンは、助かったの…?」部屋を出て寝室で待たせていた彼女の顔は、散々泣きはらしたようだった。「…命だけはな」「どういう事…?」「とりあえず、一命は取り留めた。でもここじゃ出来る事はそこまでだ…後で、ちゃんとした病院に連れてけ」 #TOP
2012-11-09 22:42:55181.命は助かったと知って、彼女は手で顔を覆って大きく息を吐いた。「よかった…」手袋とマスクを床に投げ捨ててその彼女の肩に無言で手を掛けて押し倒し、馬乗りになる。「…俺が言った事、覚えてるか」安堵させる暇もなく顔を歪ませてやろうと思った。なのに。 #TOP
2012-11-09 22:43:50182.「ちゃんと、覚えてます…キュヒョンを助けてくれてありがとう」彼女は悟ったような目をしていて。本当なら気が済むまでめちゃくちゃに犯して、捨ててやろうと思ってた。「死んでもいいの?」「キュヒョンが助かったなら…もういい」それなのに、どうしてだろう。 #TOP
2012-11-09 22:44:59183.俺にただ組み敷かれるだけの彼女の胸元に目を移せば、そこには赤い印が付いていて。ただ、久々に人を治療して疲れただけかもしれない。でもキュヒョナを助けた事で、ずっと心を巣食っていたおかしなしがらみから解放された気がした。「キュヒョナもお前も、本当に馬鹿だ」 #TOP
2012-11-09 22:46:03184.だって、そうだろ。「俺が…急所を狙って外すと思うか?」「え…?」彼女を解放して椅子に座って言った。「俺は、あいつを逃がすつもりだった」だから、体のギリギリを掠めるつもりで撃った。「じゃあ、どうして…」なのに、あの馬鹿。それすらも、分かってたんだろ? #TOP
2012-11-09 22:48:14185.「俺が引金を引く瞬間に…当たりに来たんだよ」俺にお前は殺せない。外すだろうと分かって動いたんだろ。彼女が助けてと懇願して来たのを言い訳にして、必死で治療をした。もし言われなかったら、俺はあのまま何も出来ずにお前を見殺しにしていたかもしれない。 #TOP
2012-11-09 22:49:15186.もしそうなっていたら…俺は間違いなく、後悔していただろうと思った。必死に生きようとするお前が、本当に羨ましかった。それと同時に嫉妬にも似たような感覚を覚えて、ちょっかいを出した事は何度もあったけれど。結局俺は、振り返ってみればお前に協力し続けていた。 #TOP
2012-11-09 22:50:58187.施設で懲罰をくらった後は、必ず二人でここを飛び出そうなんて話をしたよな。有能な人間を育ててマフィアにしようなんて恐ろしい考えの施設から。人格矯正にも似た教育を散々施されて、それでも必死に生きたあの頃が懐かしくて。なあ、キュヒョナ…涙が出そうだ。 #TOP
2012-11-09 22:52:03188.俺はもう、足を洗うよ。今はただ、気が変になっているだけかもしれない。それでも俺は今、また人を助ける仕事をしたいだなんて馬鹿な事を考えてるんだ。笑えるだろ?何人の命を奪って来た、この俺が。「キュヒョナによろしくな」コートを羽織って言えば、彼女は不安そうな顔をした。 #TOP
2012-11-09 22:53:22189.「行っちゃうんですか…?」「ああ…しばらく、ここには戻って来ない」全て、片付けて来るから。だからキュヒョナ、いつか絶対に、謝りに来い。「幸せになれ、って…伝えて」俺にお前を撃たせた事。謝れよ、馬鹿な弟…。そしたら俺は、お前に感謝の気持ちを伝えるから。 #TOP
2012-11-09 22:54:11190.お前と生きて来た暗く長い道のりを糧にして、俺はまた生きる。いつかお前みたいに、大きな目的を持てたら良いなんて思いながら。「じゃあな」荷物を持って部屋を出ると、後ろから彼女が大きく叫んだ。「ソンミンさん…!」振り向かずに立ち止まれば、俺を追う彼女の気配がした。 #TOP
2012-11-09 22:56:03191.「キュヒョンを、助けてくれてありがとう…貴方も、幸せになって下さい」今日は本当に、涙腺が緩んでいるみたいだ。空を見上げれば、大雨が去った後の余りにも美しい夜空の星が、涙で滲んでいた。 #TOP
2012-11-09 22:57:17192.ソンミンさんが去った後、私はキュヒョンの手を握って彼が目覚めるのを黙って待った。貴方が目を覚ましたら、伝えたい事がたくさんあるよ。「キュヒョン…早く、帰って来て」私の気持ちに呼応するように、握った手がピクリと動いた。「キュヒョン…?」 #TOP
2012-11-10 23:01:57193.「…俺、」ゆっくりと目を開けた彼を見て、思わず抱き締めた。「馬鹿…馬鹿、ほんとに…」ねえ、生きててくれてありがとう。それだけで私は、こんなにも嬉しくて涙が止まらないよ。「もう二度と、いなくならないで…」彼の胸に顔を埋めて泣いた。 #TOP
2012-11-10 23:06:09194.背中を優しくさするキュヒョンの片腕を感じて、彼が今もまだ生きているという事実に心から感謝をした。「ごめん」小さく謝った彼の顔を見上げると、いつもの笑顔があって。見つめ合って、自然と近付く顔。そしてまだ少し冷たい唇が自分の唇と重なって、徐々に温度を取り戻す。 #TOP
2012-11-10 23:07:38195.時が止まったかのように思える程の、長い口付けをした。「ソンミンさんから、伝言」「何?」「幸せなれ、って…」そう言うと彼は困ったように笑って「あの人らしいな…」と呟いた。「ねえ、キュヒョン…キュヒョンは、どうしたら幸せになれる?」私も、貴方に幸せになって欲しいよ。 #TOP
2012-11-10 23:08:47196.「そんなの…一つしかない」次の言葉を発するのを、迷っているみたいだった。「言って…」彼の頬を手で包んで、額を合わせて目を瞑った。静かに流れ落ちる涙がぽたぽたと彼を濡らす。「お前と、ずっと一緒に居たい」その瞬間、胸が心地よく締め付けられるのを感じた。 #TOP
2012-11-10 23:11:20197.「私も…同じだよ」泣いているのか笑っているのか、自分でも分からなかった。でも、ただ一つ言えるのは、私は今愛する人と結ばれて、溢れる程の幸せを感じているという事。「ずっと、一緒に居て…」「うん…、うん」後頭部に手を添えられて、また口付けをした。 #TOP
2012-11-10 23:14:13198.貴方が私を迎えに来たあの日から、全てが変わったの。始まりは不幸な物だったかもしれないけれど、全ては貴方と出会うための事柄だったんじゃないかって思うよ。「キュヒョン、ずっと一緒に居よう…愛してる」私を探してくれて、迎えに来てくれて本当にありがとう。 #TOP
2012-11-10 23:17:15199.「俺も、愛してる…」これからは、二人で進もう。それがどんなに険しい道だって構わない。貴方となら、何処へだって行くから。「ありがとう…」二人同時に呟いた言葉は、合わさった唇の隙間に静かに消えて行った… #TOP
2012-11-10 23:22:11200.「じゃあ、ちょっと行って来るよ」あれから少しの月日が経った。俺たちは、遠くの知らない土地へ引っ越して小さな孤児院を開いていた。「うん、ソンミンさんによろしくね。ほら、パパにバイバイしなきゃ」授かった息子の手を握って振らせる彼女に軽くキスをする。 #TOP
2012-11-10 23:26:22