#366days 10月まとめ

“それ”は失われた。 しかし世界はそのことを知らぬままに動いていく。
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まとめ #366days 9月まとめ 予言の日まで残り4カ月。 人々はついに、「それ」の存在を知ることになる。 825 pv 4
相応恣意 @aioushii

“それ”は永遠に喪われた。けれど多くの人々はその事実を知らず、またこれから知ることもない。だから彼女はこれまでと変わらず――ひょっとしたらこれまで以上に、人々の恨みをその身に背負う。 #366days 死してなお課せられた責苦。はたして彼女は本当に、それ程の罪を犯したのだろうか。

2012-10-02 00:39:40
相応恣意 @aioushii

男性は妻と、生まれたばかりの我が子とともに少年の元を訪れた。「君に任せても大丈夫だね?」男性に問われた少年は赤子を抱え「はい、一人じゃありませんから」毅然とした表情で答えた。 #366days 父が果たせなかった約束を果たすため。少年が両手に抱える重さは、赤子の重さだけではない。

2012-10-03 00:56:29
相応恣意 @aioushii

少女は少年が預かった赤子の姿を見て感嘆の溜息をついた。「抱いてみる?」少年に問われた少女は首を一度大きく縦に振り、恐るおそる赤子を両手に抱えた。「……思っていたより重いわ」 #366days 命を預かる責任。少年と少女には重すぎるとしても、きっと2人でなら乗り越えられると信じて。

2012-10-04 00:44:15
相応恣意 @aioushii

女性は不意に涙した。短い間とは言え、愛しき我が子と過ごした時間はあまりに幸せで、思い出せばただ辛くなる。そんな彼女の機微を察し、夫は告げた。「予言の日を乗り越えたなら、一緒にあの子を迎えに行こう」 #366days 決して果たされることのない約束。それでもかけがえない生きる希望。

2012-10-05 03:32:18
相応恣意 @aioushii

未来に託すべきものを託す用意を整え、かつて交わした約束を果たし、最後に老夫婦は自分たちの戒名を決めてもらった。いつでも逝けると言うのなら、それは後顧の憂いなく今を生きられるということだから。 #366days 死への抵抗を諦めること。それは必ずしも、生を諦めることと同義ではない。

2012-10-06 03:39:21
相応恣意 @aioushii

悲観主義者は目の前の光景が信じられなかった。予言の日まであと3カ月を切ったのに、その夫婦はとても幸せそうな顔をしていた。(貴方たち、もっと現実を見なさいよ!)声なき叫びは、まるで自分に言い聞かせるようで。 #366days コップに残った半分の水。水はもう半分しか残されていない。

2012-10-07 01:11:03
相応恣意 @aioushii

楽観主義者は不思議でならなかった。予言の日まであと3カ月だというのに、目の前の夫婦はため息ばかりついて幸福を逃してしまっている。「皆、もっと、人生を楽しめばいいのに」彼の呟きは耳を塞ぐ者たちには届かない。 #366days コップに残った半分の水。水はまだ、半分もあるじゃないか。

2012-10-08 00:28:00
相応恣意 @aioushii

草食系男子は風邪をひいた。頭が割れそうなほど痛くて、唾を呑みこむだけで喉に激痛が走る。熱で意識が朦朧とする中、彼は人知れず呟く。「こんな時に、看病してくれる人がいてくれたらな――」 #366days 呆れるほどちっぽけな小市民の願い。それでも、誰も笑うことができない心からの願い。

2012-10-09 01:50:58
相応恣意 @aioushii

教師はけじめをつけることにした。人々が町を離れ、学校がその機能を果たせなくなっても、子供たちの拠り所になればと今日まで授業を続けてきた。けれど――「さあ皆、最期の授業よ」 #366days 伝えたいことは数あれど伝えられるのはごく僅か。せめてその教えが最後まで心に残りますように。

2012-10-10 01:24:35
相応恣意 @aioushii

ワナビは自分の作品が受賞を果たしたことを知り歓喜した。これまでの情熱も、努力も、想いも、間違いじゃなかったと言ってもらえたのだから。そう、たとえ自分が生きている間に、作品が世に出ることはなくとも。 #366days 予言に振り回される世界。娯楽に割けるリソースなど残されていない。

2012-10-11 00:16:56
相応恣意 @aioushii

お転婆娘は親友の無事を祈っていた。家はもぬけの殻で、電話も繋がらない。せめてこの街で、彼女の帰りを待とうと思っていたのに――「出発よ、準備はできた?」「……うん」幼い少女には、それさえも許されない。 #366days 親友は無事だろうか?その確認さえできず、ただ焦燥だけが募って。

2012-10-12 00:54:49
相応恣意 @aioushii

意地っ張りは親友のことを気にかけていた。喧嘩別れしたまま街を離れ、1月以上。自分の非を認めたくなくて、連絡の1つも入れてこなかったけれど――「また、会えるよね?」どれだけ呼び出しても、受話器を取る者はいない。 #366days 意固地になるのは自由。けれど後悔するのははたして誰?

2012-10-13 11:53:46
相応恣意 @aioushii

わがまま娘は不満たらたらだった。美味しい食事に煌びやかな衣装――望めば何でも手に入ったのに、最近では望んだものが手に入る方が稀だ。「世界なんてどうでもいいわ、誰か私の願いを叶えてよ!」 #366days 現状を認識できていない哀れな我が儘。他人の力に頼る生き方しか知らないが故に。

2012-10-14 01:30:13
相応恣意 @aioushii

花屋は草木に水を与えていた。彼女に残された時間を考えれば、世話を焼けるのは精々が芽吹きの時まで。それでも彼女はめげることはない。「世話を焼きすぎるのも考え物ですから」 #twnvday 甘やかされて育てば生き残れない世界もある。過酷な世界で誰かを癒せるように、少しでも強く育てと。

2012-10-15 00:57:01
相応恣意 @aioushii

平等主義者は未来を憂いていた。なぜ世界の人々の半分が同じ日に死なねばならないの?そんなの許容できない!けれど彼女が求める救済なんてどこにもなくて――「そっか、助けられないなら皆で一緒に死んじゃえばいいんだ」 #366days 静かに狂える娘。高すぎる理想は、時に現実を犠牲にして。

2012-10-16 02:10:17
相応恣意 @aioushii

幼女は薄情者に抱く気持ちに戸惑っていた。自分を助けてくれた彼には感謝しているし、とても“好き”だ。でもそれが“恋”かと言われると、ちょっと違う気がする。この気持ちに名前をつけるのなら――それは何? #366days 易々とは答えられない問い。答えを出すまでの猶予は決して長くない。

2012-10-17 02:16:23
相応恣意 @aioushii

薄情者の信念は揺らぎつつあった。大切な人なんて、もう必要ない。失う痛みを背負うくらいなら、最初から何も持たないほうがいい。そう思っていたのに――「俺はお前を、どう思ってるんだろうな」 #366days 始まりは些細な偶然。気づけばそれが、生き方を変えてしまうような運命の出逢いに。

2012-10-18 03:23:04
相応恣意 @aioushii

その舞台にはピアニストがいた。詩人もいた。そして――歌姫がいた。あらゆる芸術家たちが集いし、歌姫の最期の舞台。熱狂に包まれた会場で、歌姫は歌う。今、この瞬間、ここで巡り会えた奇跡を。 #366days 予言が引き寄せた運命の饗宴。この瞬間を共有する全ての人たちが、伝説の生き証人。

2012-10-19 01:16:18
相応恣意 @aioushii

ピアニストは興奮を抑えきれずにいた。昔から音楽の才能で他者を圧倒していた彼にとって、孤高の存在であることは当然だった。けれど――他人と一緒に奏でる音楽も悪くないじゃないか。 #366days 1人だけで出来ることもある。けれどそれは、1人では出来ないことと比べ、あまりに少なくて。

2012-10-20 01:18:57
相応恣意 @aioushii

詩人は感激に胸を震わせていた。彼は音楽の造詣は決して深くはないが、それでも今、歌姫が歌う自分の詩が、これ以上は望めないくらい最高の形で演奏されているのは分かる。「あの日、彼女に会えてよかった……!」 #366days 巡り会いは1つの奇跡。それが何かの形で結実するならなおのこと。

2012-10-21 01:19:30
相応恣意 @aioushii

画家は気づけば夢中で絵筆を走らせていた。歌姫の絶唱、そしてそれに熱狂する人々の息遣い――完成にほど遠い現状でも、その絵は今にも音が聴こえてきそうな躍動感に満ちていた。 #366days 世界を巡って画家が辿りついた、求めていたモチーフ。あとは予言の日が訪れる前に、描きあげるだけ。

2012-10-22 01:14:01
相応恣意 @aioushii

花火職人は舞台の照明が消えるのに合わせて、最高傑作の花火を打ち上げた。空に咲く一輪の花が――そしてそれに照らし出される歌姫があまりにも幻想的で、観客たちは一斉に歓声をあげた。 #366days 願ってもいなかった大舞台で遂げられた最期の仕事。大輪の花は、鮮烈な記憶として咲き誇る。

2012-10-23 02:37:05
相応恣意 @aioushii

歌姫は目の前の観客たちに視線を向けた。誰しもが自分を見ている、自分の歌を聴いている。まるで世界の全てを分かち合っているかのような高揚感。「……そっか、私はこの時のために生きてきたんだ」 #366days 最期の舞台で知った生きる意味。今の彼女はきっと、世界中の誰よりも輝いている。

2012-10-24 02:01:56
相応恣意 @aioushii

祭りの後の舞台に優男は立っていた。そこには彼以外の誰もいないのに、目を閉じれば歌が――音が――歓声が聞こえてきそうな錯覚に襲われる。その記憶は、こんなにもどうしようもない世界を鮮やかに彩って。 #366days 思い出だけでは生きていけない。それでも思い出は、時に生きる力になる。

2012-10-25 02:24:15