アタシのこと、イジめていいよ♡

その3
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悠。さん @You_WMD

「……で、猫の相手をして遅れたってわけか」 鳥羽が優しく肩を叩いてくれる。 四限の体育でウォームアップのランニングをしている最中のこと、ハルは呼気に乗せて力なくため息をついた。 「愛理の暴力で流血しない日は、たいてい琴理の策謀で猫まみれにされるんだ」

2012-11-18 10:39:14
悠。さん @You_WMD

一日の気力をすべて失った気分だった。 学校に到着したのは一限の途中で、猫の毛だらけの惨状から教師も察してくれたらしく、お咎め無しで見逃してくれた。負傷はさしたるものではなく、じゃれつかれたときの擦り傷や、なめ回されてベトベトになったくらいのものだ。

2012-11-18 10:41:39
悠。さん @You_WMD

水瀬姉妹は無闇に恐れているが、木場家の猫どもは人なつっこくて愛嬌のある連中なのだ。とくにハルは昔っからなつかれて、群れに放り投げられたが最後全員の顎の下を撫でるか指を甘噛みさせるかしないと解放してもらえない。

2012-11-18 10:43:53
悠。さん @You_WMD

「幸せな野郎だ、そりゃ愛情表現ってもんだぜ?」 「猫の愛情表現で悶えるほど飢えてねぇよ、俺は」 「違う違う、そっちじゃねーよバーカ」 鳥羽は「わかってないなぁ」という風に肩をすくめ、グラウンドの一角で柔軟体操をしているクラスメイトの女子一同を指さした。

2012-11-18 10:46:34
悠。さん @You_WMD

ひときわ目立つ胸がそこにある。 柔らかな体操服の生地では押さえきれない肉の揺らぎが、そこにあるのだ。

2012-11-18 10:49:27
悠。さん @You_WMD

「膝の屈伸でたゆんたゆん、大きく伸びをすれば大きくばゆんっ!毎朝あのロマンチックボールに起こしてもらってんだろう?ロマネスクに立ち上がってるんだろう?はっきり言うが、おっぱいはイコール愛なんだ」

2012-11-18 10:49:49
悠。さん @You_WMD

鼻の下を伸ばした鳥羽に、ハルは疲弊気味のやぶにらみをくれた。この茶髪の軽薄男は下品な羨望を押し隠す慎み深さというものを持ち合わせてはいない。

2012-11-18 10:51:06
悠。さん @You_WMD

「そりゃパイまみれで起床できるってんなら幸せだが、実際には握りこぶしだぞ」 「贅沢もんめ、水瀬ちゃんになら殴られたいって男子がどれほどいると…!」 「バスケットボール手刀断殺事件のことを知らないのか?」 「水瀬ちゃんの腕力はたしかに脅威だ……が、しかし!」

2012-11-18 10:53:32
悠。さん @You_WMD

鳥羽が顎をしゃくって示すのは、グラウンドのまた別な場所に固まっている女子集団で、ひとり教師の横にたつ小さな少女──琴理だった。 ハルの通う間宮学園はエスカレーター式の中高一貫で、中等部と高等部で教室は別だがグラウンドは共用している。

2012-11-18 10:57:12
悠。さん @You_WMD

彼女がひとりドッジボールにも参加せず物憂げな顔をしている様に、鳥羽は感涙を流さんばかりにうち震えた。 「おしとやかな琴理ちゃんのささやかな意地悪……病弱な女の子が見せる意外な一面に、お前は男としてグッとこないというのか!!?」 「いちおう言っとくけど、あいつのアレは仮病だぞ」

2012-11-18 10:59:46
悠。さん @You_WMD

体力と運動神経がないのは確かだが、病気がちというほど病弱ではない。なにより小学校のころから将来的なサボりの口実を想定して、架空の親戚を百名以上も用意して家族関係から持病にいたるまで精密に設定している娘を「おしとやか」の一言で済ませるつもりもハルにはない。

2012-11-18 11:01:56
悠。さん @You_WMD

彼女がこちらの視線に気づいたようなので、100メートルは離れた位置からどんな悪意が飛んでくるのかと警戒した。 彼女は微笑んで小さく手をふるばかりである。猫かぶりめ。

2012-11-18 11:04:44
悠。さん @You_WMD

「お、もしかして今の、俺に手ぇ振ったんじゃねぇの!?そうだよな、ハルみたいなイケてないヤツより俺みたいなイケメンの方がいいよなぁ!!」 鳥羽はますます鼻の下を伸ばして手を振り返す。

2012-11-18 11:05:33
悠。さん @You_WMD

「おまえ本当に節操ないな…おっぱいあってもなくてもいいのかよ」 「じゃあ聞くがな高城春馬。今までにあの華奢な肢体を抱き締めてゴロゴロしたいと思ったとことはないか?小さい手を自分の手で余すところなく包み込みたいと考えたことが、一度とてないといいきれるのか?」

2012-11-18 11:07:52
悠。さん @You_WMD

ハルは口ごもった。 外見だけなら水瀬姉妹のどちらも守備範囲内である自分が、鳥羽のことをどうこう言えた立場でないのは確かだ。こんなことだから女子からは「ハルシバコンビ」なんて悪名を頂戴するのだろう。

2012-11-18 11:09:45
悠。さん @You_WMD

クスっと後ろで笑い声が聞こえた。 「ハルくんは鳥羽と違って硬派なだけだよね」 背後にも小柄な人影がいた。ただし男──ひたすら童顔の。サラサラとして肩まである髪とその顔が相まってまるで天使のようだと女子は言う。 まるで年下の少年のように純粋な眼差しがちょっと痛い。

2012-11-18 11:12:59
悠。さん @You_WMD

「リンドウ、お前マジで他人見る目ねーな」 「そうかなぁ?」 竜胆というなかなか特徴的な名前の少年は小首をかしげる仕種がムダに可愛くて、一部男子にはファンがいるとの噂だ。 「おれは……単に現実を知っているだけだ」 「わ、かっこいいよハルくん…///」 「かっこつけてるだけだろ」

2012-11-18 11:15:43
悠。さん @You_WMD

鳥羽、正解だ。 三人で男子の集団最後尾を走っていると、ふいに背後から卒然と足音が迫ってきた。 「ハル、ちんたら走ってんじゃないぞ!」 愛理が追い抜きざまに悪戯っぽく笑って手を振る。こうしてみると愛嬌たっぷりで魅力的な笑顔と言っていい。 思わずハルが見とれてしまうほどの。

2012-11-18 11:18:23
悠。さん @You_WMD

悔しさすらこみあげてくるほどの。 (なんでいつもあんな感じでいてくれないのかな…) あっという間にトラックを一周し、女子のウォームアップ勢の最後尾に追い付く問答無用の体力が、1日に十回前後は自分への暴力につかわれるのだからやりきれない。

2012-11-18 11:20:41
悠。さん @You_WMD

一方で、殴られる心配のない男子一同にとってみれば、自分達の横を規格外の乳肉が跳び跳ねていったわけなので、みなが総じて鼻の下を伸ばしている。 「水瀬ちゃん、また新体操やってくんないかなぁ……今のバストサイズならレオタードが弾けとぶんじゃないかなぁ」 鳥羽がぼそりと呟いた。

2012-11-18 11:22:52
悠。さん @You_WMD

「そういえば水瀬さんって中等部にはいった頃は新体操やってたよね」 竜胆が愛らしく小首をかしげる。可愛い。 ハルは何も言わなかった。含みがあるわけでもなく、答えを知らないからだ。

2012-11-18 11:24:28
悠。さん @You_WMD

竜胆の抱いた疑問はハルにとっても長年の疑問である。まだ胸が一般的女子平均程度しかなかったころ、彼女はなんの前触れもなく新体操をやめた。前途を嘱望され、オリンピックの強化選手にまで選ばれた幼馴染みの心変わりについて、直接訊ねたこともあるにはある。

2012-11-18 11:26:52
悠。さん @You_WMD

返事はこうだ。 ──ハルにだけはどうこう言われたくない! いつもの癇癪とは段違いに険しい表情だった。 あのときの平手はとびきり痛かった。 だからハルは何も言わない。 無言の態度がお気に召したのか、竜胆は憧憬に目を潤ませてきた。

2012-11-18 11:28:35
悠。さん @You_WMD

「やっぱり硬派だよ、ハルくんは!」 竜胆の言い分には考えさせられるものもあった。 硬派であればおっぱい含め些事に惑わされることなく、愛理の暴力や琴理の暴言にしっかり対処できるのではないか。 形から入るんだ。 一朝一夕でなれるものではないだろうが、踏み出さなければなにも起こらない。

2012-11-18 11:32:07